04
朝も早くから俺は村の入り口にいた。
商人護衛クエストの為だ。ミルファは魚釣りクエストをやっていなかったらしいので今日はそっちに行くそうだ。
「じゃあ、そろそろ出発しますね。クロさんは荷台で警戒をお願いします。」
商人のNPCであるアベルがそう言って馬に鞭を入れた。
今回護衛するのはアベルという商人だ。
シルクハットに黒のロングコートの紳士といった感じの青年で、商人というより貴族と言った方がしっくりくる気がする。
アベルは村に干物の仕入れに来たらしい。
まだ駆け出しの商人らしく、アベルの馬車はかなり小さい。護衛も俺一人のようだ。
他の商人はいないようなので、今回のクエストではこのアベルと馬車を【商業都市エグベア】まで護衛する事になる。
多分だけど、このクエストを受けた人数によって商隊の規模とかも変わってくるんだろう。
馬車は快調な出だしだ。アベルの話だと、街道を走る限りそこまで魔物とは遭遇しないらしい。
「ここら辺なら盗賊もでませんからクロさんは本当に保険なんですけどね。」
アベルは馬車の手綱を操りながら笑う。
事実セドア漁村を出てから30分程経つがモンスターは出てきていない。
草原を抜けて森に入る。森の奥からオオカミの遠吠えのような物も聞こえてくるが、オオカミが姿を現す事は無い。
森はそんなに広くなかった。直ぐに抜けると大きな湖が広がっている。
湖を沿うように馬車は進む。
「この湖は【リヴァイア湖】と言って湖の底には水竜【リヴァイアサン】が眠っているという言い伝えがあるんですよ」
アベルが大きな湖の事を説明してくれた。
なんでも神々との戦いで傷ついた水竜が傷を癒す為に眠りに付いているらしい。
「おっと、ゴブリンです!クロさん、お願いします!」
しばらく進んでいくと目の前にゴブリンが飛び出してきた。
数は2体、ゴブリンはそれぞれ棍棒で武装している。
俺は木の剣を構えて馬車から飛び出す。
まずは先制攻撃でゴブリンの顔面を殴打する。
「グギャ!」とゴブリンは転がって行った。転がったゴブリンのHPはまだ残っているみたいだったが、しばらくは動けないみたいだ。
残ったゴブリンが怒りの形相で俺に棍棒を振り上げて来る。
それを後ろに下がる事で何とか避けるが、少しカスってしまう。それだけでHPの20%程が削れてしまった。
ゴブリンは怒りで周りが見えていないのか、手当たりしだいに棍棒を叩きつけている。
荒れ狂う攻撃の渦に近寄る事が出来ない。
攻撃が出来ないでいると、先程転がって行ったゴブリンも復活して戦闘に参加してきた。
2匹とも滅茶苦茶な攻撃なので避けるのは容易いが、これじゃあ倒すのも難しい。
5分程ゴブリンの攻撃を避け続けていたら急にゴブリンの攻撃が遅くなってきた。
どうやらスタミナが切れたようだ。
攻撃が止んだ時を見計らってゴブリンを木刀で一方的に攻撃して倒した。
「や、やっと終わった。」
「お疲れ様です。」
ゴブリンを倒すと離れた場所にいたアベルがこっちにやってきた。
ゴブリンの戦利品を確認してから馬車の旅の再開だ。
湖から外れて進むとしばらくして大きな畑が広がる場所に突入した。
ここまで来れば後少しで商業都市エグベアに着く。
少し離れた所に大きな街が見える。あれがエグベアか聞くと、あそこは違うと言われた。
あそこは【農業都市グラシア】らしい。今回は用事が無いから寄らないが、グラシアには大陸中の食材が集まるらしく、一度は行ってみると良いと言われた。
なんでも食材が豊富なだけあって料理も美味い店が多いらしい。
そこまでオススメするなら寄ってほしい所だが、こちらは雇われている訳だし、ワガママは控える事にしよう。
グラシアが遠くに離れて行く。同時にチラホラと目に入っていた畑も見られなくなった。
畑を見なくなると次は草原だ。ここら辺からモンスターとプレイヤーの姿が増え始める。賑やかさがセドア漁村の比じゃない。
まずモンスターの数が多い。スライムやラピアスは勿論、ゴブリンなんかもチラホラ見える。
しかしプレイヤーも多い。レベル上げをしているのかゴブリンを追いかけまわしているプレイヤーが沢山いる。
そのせいか、こっちにまでゴブリンが来ることもなく、馬車は順調に進む。
これはこれで良いんだが、なんだかなぁ。