腐女子
筆の進むままに書いていたらおかしくなった。何故だ?
本来なら学園恋愛ものになるはずだったのだが。
「いやさー、相変わらずカッコイイね志藤くん」
「出た、唐沢の志藤好き」
「いやいや、カッコイイっしょマジで。てか瀬戸前がおかしいだけだから」
「何がよ」
「いやだから、瀬戸前の美的センスよ」
「何でよ。別におかしいわけじゃないでしょ。私面食いだし」
「いや、面く・・・んー、何か違う。でもある意味面食いとも言える、のか?」
ここで一句。
しょうも無い 会話を続ける 午後三時。
なんて、それこそ仕様も無いことを考えながら、遠くへ視線をやる隣の唐沢を見る。
「ね、ちょっとペース落とそ」
「えー、これ以上志藤くん遠くなるのきついって」
「いや、それはアンタだけってば」
「何でよー」
「てか志藤くんなら一周回って追いついてくるって」
「うーん、ならいっか」
昼食兼昼休みの時間が終わり、眠たい数学の授業が終わった後の体育。主に駄弁りとして使われる時間に担当教師が腹を立てたのか、今日の内容はマラソン一色である。死ぬ。
ただまあ、マラソンほどやる気がもろバレになるもんも無いわけで、体育会系の熱血男子やごく一部の陸上女子とかなんちゃらを除いて。
主にイケイケ風男女や根暗ヲタクなどが群れとなり一つの生物かのように移動しているのである。てか有酸素無理。むしろ酸素飽和状態これ以上ノーサンキューです。
かくいう私は当たり前の如く、まるで花に誘われる蝶の如く、後者である。属性根暗ヲタク。しかしその属性の中でも最下層アイドル、じゃねーわ、最下層というか、あんまり群れない孤高のヲタクである。友達が少ないとか言うな、知ってる。
「てか、喋るのきつい」
「うん」
「死ぬ」
「うぬ」
「うむ」
きつさで言葉少なになる。いやマジでこれ以上酸素、イラネ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ぜえはあぜえはあ。
二人でわき腹を押さえながら、息を荒くしている。と、突如聞こえていた唐沢の息が止まった。
まさか死んだか、と隣を見ると、今までの疲れきったゴリラのように走る女が一転、優雅さと微笑ましくなる一生懸命さで走っている。誰だコイツ。
「はあ、はあ」
顔をほんのりと赤く染めて嘘っぽい吐息を添えてどうぞ。
あーね、うん。
疲れてる体を動かして後ろをちらっと見遣ると、そこには麗しの王子様、志藤なんたらの姿が。
志藤くんも体育会系ではないせいか、結構息が上がっている。この状況で唐沢のぶりっ子が見えているかは不明だが、まあそこは自己満足だろう。
しかし真面目だな志藤くん。ストイックかっけー。
過ぎていく志藤くんを見つめて、速度が落ちてきた唐沢の隣に並ぶ。
「恋する乙女怖え」
「舐めんな乙女」
「これが巷で噂のロールキャベツか」
「ちげーし」
どつき合いながら走る。も、ちょ、やめて。死んじゃう、今倒れたら私起き上がれないって。
「しかしやばいな、志藤くんやばい」
「発情すんな馬鹿」
「うはあ、惚れるやばい」
「スルーすんな馬鹿」
「うにゃはあ」
自分の世界に入ってしまったか、唐沢。まあまた志藤くんが回ってくれば、レーダーか何かで察知して自ずと戻ってくることでしょう。
ではアタクシも、目の保養でもさせてもらいますかな。
この季節、寒くも暑くもなく、体育の時間にジャージを上に着るかどうかは個人に任されている。つまるところ、半袖半ズボンの眩しすぎる人間もいるというわけである。
「ぬおお」
半ズボンから見える足の筋肉。肉が無さ過ぎてはいけない。そんなもの棒のようなもんだ。そうではなく、むっちりとした感じがいいのだよワトスン君。個人的には特に内腿の筋肉が良い。
「うぬぬ」
脂の乗った筋肉。ガチムチ。ああ、なんて甘美な単語なのかしら。
マラソンだと早すぎてあんまり見えなかったりするのだが、これが初めの準備運動だったり時たまあるストレッチの授業だったりするともう、もう!
これがベッドの上で乱れている様を想像すると胸が張り裂けそう。心臓が飛び出る的な意味で。
骨ばった手がシーツを握り締め、汗がじっとりと滴り落ちる。うつ伏せで腰だけ上げ、痛みに呻いて顔を歪めベッドに突っ伏す。
低く掠れた声で「やめて、くれ」と懇願し、噛み締めていたはずの唇が緩んだ隙に、端からつぅ、と滴る透明な唾液。
鍛えた体だ、やろうと思えば拒絶できるはずなのに体は言うことを聞かず、できるのはただ屈辱に眉を顰めることだけ。
「ああ、俺はこれから男に犯されちゃうんだ」
「瀬戸前、声!声出てるから!!」
「ああ、俺はこれから男のペットにされ」
「せええとおおまああええ!!」
「ぬおっ。・・・どったよ唐沢?」
「自重せんかド腐れが!」
「へ?・・・はっ、ごめんマジごめん」
思考駄々漏れいかんいかん。
腐女子たるもの他人様の迷惑にならぬよう自重そして自嘲すべし。自身の立場を弁えなければならない。あくまで私は腐女子なのだ。恥ずべきものだとは思わないが、それなりの礼儀、節度を重んじなければ本物へは遠い。
「はあ、つくづく残念な女だわアンタ」
「うるせーわ」
「そんなにいいかねえ、ガチムチ」
「受けよ受け。ガチムチは受けなのよ!!」
「声っ!」
「すんません」
続かない続かない。多分。




