襲撃
「なっ……何を言う。まずはハリスたちにそのことを伝えねばならん。貴様は彼らには見えぬのだろう。なら私が伝えねば。詳しく教えろ」
「無駄無駄。あいつらに何言っても信じねぇよ」
「そんなはずはない。この国の一大事なのだろう。なら勿体つけずに早く教えろ。時間がない」
苛立つカレンに、龍は重々しく告げた。
「…………シェン・フォルセオ。奴らが攻めてくる」
「っ!? ………………シェンが? なにかの間違いだろう。シェンは…………」
龍から発せられた意外な名前に、カレンは驚きを隠せない。
シェン・フォルセオは、ダートン帝国の東に位置するバハール共和国の第一王子で、カレンの婚約者だ。容姿端麗で頭脳明晰。剣の腕もなかなかのものだ。カレンより3つ上の18歳で、3年後、カレンが18歳になったら結婚する予定である。
「ほらみろ、お前さんも信じねぇだろうが。そうだよ、あのシェンが30分後には軍隊連れてここに攻め込んでくる」
「そんなはずは……そもそも、そんな情報どこで手に入れた。証拠はあるのか」
「ねぇよ。だから、俺たち守護霊はそういうのが、なんつぅのかな……ビビビッ! ってくるんだよ」
「……そんな何の確証もない情報、信じられるかっ!」
「はっ、そんなこと言ってどうなっても知らねぇからな! いいですよ。信じてくれなくて結構ですー。勝手に死にやがれ!」
カレンのセリフが気に触ったのか、龍は急に逆ギレし始めた。
「無礼者! そもそも、私が死んだら貴様が困るのではないのか!? 貴様は私の守護霊なのだろう!」
「もういーよ。言っただろう、俺が守るのはお前さんじゃねぇこの世界だ。お前さんが死んだらもっとナイスバディな女の守護霊になってこの世界を守り抜いてやる!!」
「わかったわかった、もういい、消えうせろ!! 目障りだ!」
「……………………」
長い沈黙。
「どうした? 消えろといっておるのが聞こえぬのか?」
「…………いや、無理」
「はぁ? 勝手に出てきたのだから勝手に消えればよかろう」
「いや、その……俺たち守護霊は、誰か――俺の場合はお前さん――を守り抜くまで、元の世界に戻れねぇ」
「? …………守り抜く、の定義は?」
「この世界の王にする」
「………………」
再び長い沈黙。
「他にないのか、貴様が消える条件は」
「お前さんが死ぬ」
「………………つまり、死ぬまでずっと付きまとうのか?」
「そうだ」
「食事もか?」
「そうだ」
「トイレも?」
「そうだ」
「風呂も?」
「そうだ」
「寝るときも?」
「そうだ」 ボゴッ――枕元にあった花瓶が龍に投げつけられた。
「いってー! 俺だって好きで付きまとうわけじゃねぇんだ! 誤解すんな!」
「消えろ! すぐに消えろ! 痴漢だ! 変態だ!」
「でかい声出すなっ! またややこしい事になるだろうが!」
「もう終わりだ…………」
カレンが布団に顔をうずめて文句を言っていると、守衛と思われる者の叫び声が聞こえてきた。
「カレン様ぁ!! シェン第一王子が、バハール共和国の軍隊を連れて攻めてきました!! すぐに逃げてくださいっ!」
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