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出会い


「カレン様、少しはお召しになってくださいませ。ご自身のお身体も大切にされませぬと……」


 今年で70歳になる王宮執事長、第一王女専属執事ハリスは懇願するように55歳も年下の少女に頭を下げる。 


 その第一王女カレン・シェルエントは、見た目にも高級だということが分かるシックなベッドの上で古びた本を一心に読んでいる。その本はこのダートン帝国でも最高峰の医学書だ。カレンの両親、ダートン帝国の王と王妃が原因不明の病に倒れて以来、不眠不休で国中の医学書を読みあさっている。


「私は大丈夫だ。見れば分かるだろう、私は本を読んでいるのだ。邪魔をするな」


 まだ15歳とは思えぬ落ち着いた話し方をする少女は、蒼く長い髪を低い位置で1つに束ね、前に流している。華奢な身体は吹けば飛んでしまいそうな儚さがあるが、鼻が高く髪と同じ蒼の目は凛としていて、第一王女としての威厳も感じられる。


「私目はまだまだ大丈夫でございます。しかし、カレン様の身に万が一のことがあっては、私の首が飛びますゆえ……」


「ふん。お前の首などさっさと飛んで、あの世でご隠居生活でも楽しめばよいのだ」


 どうやらこの王女、なかなか口が達者なようだ。あるいは執事の身体を遠回しに気遣っているのか……


「……では、御用があればすぐにお申し付けくださいませ。私は国王陛下のご様子を見てまいります」


「ん。わかった」


 ハリスが部屋を出てからも、カレンは本を読み続ける。


 それにしても、と彼女は思う。ハリスはカレンに対して過保護なのだ。確かに、彼女には兄弟姉妹がおらず、順当に行けば次期国王はカレンになるだろうが、カレンだってもう15歳だ。あまり子ども扱いされたくない。


「まったく。私だって自分の体調管理ぐらいしている……」


「そうそう、三大欲求より知識欲のが強いだけなんだよな」


「そうだ。決して自己管理能力がないわけではない…………っ!? 誰だ! 貴様!」


 自分以外の声がすることに気付き、慌てて部屋を見回すと、ベッドから一番離れた位置の窓際に倭の国の衣装を身に(まと)い、木刀を二本背負った20歳ぐらいの青年が立っていたのだ。


「俺か? 俺の名は龍。お前さんの守護霊さ」


「守護霊?」


「あぁ、お前さんが殺されそうだから助けに来てやったんだよ」

 

 この国では滅多にない漆黒の髪と瞳の青年は、さも当然のようにいう。


 カレンは『お前さん』なんて呼ばれたのは生まれて初めてだし、そもそも自分に対して敬語を使わない人間に初めて会ったので、青年に対する不信感と苛立ちを隠せない。


「殺される? 私が? 貴様は一体何を言っているのだ。そもそもどこから入ってきた。守護霊などおるはずないだろう。今すぐ身分を証明しないのであれば守衛の者を呼ぶぞ」


「かわいくねーな。もっとオーバーアクションしてくれると思ったのによぉ。……別にいいぜ、守衛なり何なりさっさと呼べよ。どうせそいつらには俺が見えねぇよ」


「寝言は寝て言え。今なら逃がしてやるから早く行け。守衛に見つかったら命はないぞ」


「ずいぶん甘いヤツだなぁ。俺がお前さんを()ろうとしたらどうすんだよ」


「ふん。自分の身は自分で守る。それに、お前程度の輩にここで殺されるというのなら、私も所詮その程度の人間だったということだ」


「おっ、だいぶ肝が据わってんなぁ。気に入ったぜ。それに武術も少しは心得ているようだし……」


 青年は現れたときから一歩も動かず、カレンを襲う気配もない。だが、1ミリも隙がない。


「はぁ……こういう手は取りたくないのだがな」


 そういうと、カレンは枕元においてある電話に手を伸ばした。


「カレンだ。――不審者が部屋に侵入した。――――いや、危害は加えられてない。大丈夫だ。――――あぁ、頼む」


 通報と思しき電話の最中も、龍は動く気配がない。


 10秒もしないうちに廊下をドタバタと走る音が聞こえ、守衛が30人ほど部屋に駆け込んできた。


「カレン様っ! 大丈夫でございますかっ!」


 ヒステリックな叫び声とともにハリスが駆け寄る。


「あぁ、大丈夫だ。早く男を捕らえてくれ」


「かしこまりました。それで、その輩はどこに逃げおおせたのでございますか?」


 ハリスの見当はずれな質問にカレンは首をかしげる。龍は逃げも隠れもせずに目立つ衣装で堂々と立っているではないか。その旨をハリスに伝えると、今度は守衛どもが首をかしげる。


「言っただろ、俺はそいつらにゃ見えてねぇよ」


 ニヤニヤしながら龍が話しかけてくる。


「ハリス! 今喋ったではないか!」


「カレン様……お気を確かに……」


 守衛も心配そうに、あるいは化け物でも見るかのようにカレンを見る。


「私は気が触れてなどおらん! 貴様らはあれが見えぬのか!」


「やめとけって、『次期国王は頭がイかれてる』って噂が流れるぞ」


 龍はただニヤニヤしている。


「ハリス、私は少し疲れたようだ。一人にしてくれるか」 


 これ以上主張するのは得策ではないと判断したのか、カレンはうな垂れていった。


「かしこまりました」


 ハリスは守衛たちに目で合図をすると、何事もなかったかのように去っていった。だが、次期国王への不審は拭い去れていない。


「龍といったか、貴様、どういうことか説明しろ」


「おっ、やっと信じてくれたのか。そうだな……どこから話そうか…………いいか、この世に生を受けている人間には、それぞれ少なくとも1人の守護霊が付いている。この守護霊は人間の命に関わる危機的状況が訪れたときに身を呈してそいつを守るわけなんだが……守護霊の目的はこの世界を守ることであって、人間を守るわけじゃねぇ。ここんとこが大切なんだが、分かるか?」


「あぁ、つまり、この世界の存続に関わるような人間だけ守ということだな」


「そういうことだ。そんでもって、お前さんはこの国の次期国王。そいつに危険が迫ってるから助けに来てやったのさ」


「そこがよく分からない。その危険とは何なのだ?」


「鈍いヤツだなぁ。お前さんの親父とお袋、ようはこの国の王と王妃が死にかけてる。そこを狙ってこの国をぶっ壊そうとする奴らがいないとでも思ってんのか? あと小一時間すりゃこの辺は火の海だぜ」


「っ、確かに近頃国民の反感が高まっているとは聞いていたが…………私はどうすればいいのだ?」


 次期国王として使命感を抱き始めたカレンに対して、龍はある意味非情なことを言い放った。


「何もするな。てめぇみたいな餓鬼に出来ることなんて何もねぇよ」

 どうでしょうか?

 ファンタジーに挑戦してみました。

 高校も無事に合格したからこまめに更新できる、かな……?

 

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