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第九話「市議長別邸にて②」

「……ちょっと、どういうつもり?」


 垣根の間の小道を三人並んで進む中、門番ヘノさんの姿が見えなくなったところでリンクが尋ねてきた。当然ながら声は潜め、顔は上げず、表情も変えない。ここはいわば『敵地』であり、どこに監視の目があるかわからない。今の我々は、あくまで『庭師チームの新入り』と『二人の売り込み営業者』なのである。


「この前言ったはずよ。『あんた達の協力は要らない』って。なのにわざわざ首を突っ込んできて。一体何のつもりよ」

「困ってるのを助けてやろうってのに、ひでえ言いぐさだな」


 アンディは鼻を鳴らした。

 リンクはまっすぐ前を見ながら、突き放すように、


「余計なお世話だって言ってるのよ」

「そのお世話がなかったら、初っ端っから失敗しそうだったじゃねえか」

「…………」


 リンクは唇を噛み、少し俯いた。


「わざと休暇中の従業員を受け付け担当者ってことにして、無理やり話を通して押し入ろうってのは、まあ、なくもないアイディアだとは思うが……。いかんせん、あちらさんは近づいてくる人間をみんな警戒してんだ。通らない可能性の方が高いことくらいわかるだろう。こうやって中に入れてるのも、ラキが先に信頼を得てくれてたからこそだ」

「……あたしがここに来るのを読んで、先に潜入してたっていうの?」

「お前があいつらを探ってたように、俺もお前の動向は追ってたんだ。……で、市議長が今週この別邸で過ごすってのは、市の広報誌に載ってたし。どうやらお前も、それに合わせて馬車の手配をしてたようだからな。すぐわかる」


 現時点、すでにお前があいつらに監視されていないとも限らないんだぜ――と、嘆息交じりにアンディは付け加えた。

 リンクは悔しそうな顔でじっと前を見据えた。しかし気を変えるようにふるふると首を振った後、今度は私の方を見てきた。


「……で、今はどこに向かっているの?」

「敷地の隅にある倉庫です」


 速度を落とすことなく歩を進めながら、私は答えた。


「色々と道具が保管されている物置ですが、一部、座って話せるスペースがありましてね。ハンデルグさんの客人はいつもそこに通されるようです」

「……そのハンデルグさんっていうのは? 今はいないの?」

「今日はもうあがってます。従業員は裏門から出るので、鉢合わせる危険性は低いですが。しかし明日の朝、さっきの入出記録票の確認をした際に、我々のことがばれるのは確実です。なので、私も今日中にここを出ていかなければなりませんし、もっと言えば、これが最初で最後のチャンスだと思ってください」

「……わかった」


 リンクは覚悟を決めたように、静かに答えた。

 私は続けて、


「詳しくは倉庫に着いてから説明しますが、その倉庫には裏口があります。そこから出て、塀の周りの雑木林の間を縫っていけば、誰にも見つからずに邸宅に近づけるでしょう。邸宅は基本閉め切られていますが、二階にあるご隠居の部屋は夜まで窓が開いています。中に侵入するとしたら、そこしかありません」

「情報収集、ご苦労さん」


 アンディはにやりと笑った。次いで、


「ったく、難儀なタイミングを選ぶよな。市議長が不在の時なら、もしかしたらもうちょっと楽に潜入できたかもしれねえのに」

「自分の首を絞めかねない物証を自分がいない場所に放置してる可能性の方が低いでしょ。少ないチャンスだからこそ、確率はできるだけ上げる必要があるのよ」

「そりゃごもっともだがな」


 ふうと息を吐きながら答えるアンディ。そして答えながら、ぐいぐいとネクタイをいじりだした。


「……しかし、スーツってのは、初めて着たが、苦しいもんだな。特に首がきつくて、普通にしゃべるのすら苦しい」

「……変な動きしないでください」


 私はやんわりとたしなめる。営業マンなら、普通、スーツを着てる時間の方が長いはずだ(人による部分もあるだろうが)。あくまで着慣れてる風にしてもらわなければ不自然なことこの上ないだろう。


「逆に、リンクは驚くほど合ってんな。その長え髪のせいか? どうせならいつもそれ着てりゃいいのに」

「こんな時に軽口はやめて」


 リンクは表情を変えずぴしゃりと言う。しかし、言葉に合わせてさらりと長い黒髪を撫でた。……内心、まんざらでもないのだろうか?


「さあ、ここです」


 倉庫の前にたどり着き、私はドアに手をかけた。

 物置のくせにやたらとでけえな――と、私と同じ感想を口にしたアンディと無言で見上げるリンク。私は二人の前に立ち、ぎいとドアを開ける。

 薄暗い室内。ドア横の明かりを着け(ボタンを押すと『赤石』が発動して灯篭に火が付く市販の装置だ)、一歩中へ足を踏み入れた――ところで、私はぴたりと足を止めた。


 部屋の隅に置かれているソファー――そこに、男が一人、どかりと座っていた。

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