第6話 迷走する想い
前話では、美織の日常を描きましたが、
この話では再び谷本の視点に戻ります。
はっきりとした答えがないまま、
心だけが先に動いてしまう感覚。
記憶が欠けているからこそ、
自分の気持ちさえ、うまく掴めない。
そんな「迷い」を、そのまま描いた一話です。
静かに、流れるように読んでいただけたら幸いです。
翌日、朝練が終わってスマホを見ると
伊東美織からLINEが入っていた。
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あゆちゃんに連絡してみました。
会ってくれると言ってます。
週末、都合の良い日程はありますか?
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谷本は、伊東美織と友達になった感覚でいたが、
そうではない。
伊東美織は真面目に約束を守っているだけだ、
自分から頼んでおいて、
いざ、ホントに会える現実を突きつけられると、
恐怖心が勝ってしまう。
返信を躊躇っている自分に、
腹が立っていた、
伊東さんの、親切心を逃げてはいけない。
と、LINEに返事を書いた。
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ありがとう!
日曜日なら16時に部活終わるから
16時30分には、この近くなら行けます。
いかがでしょうか?m(_ _)m
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『一緒に来て欲しい、』と伊東美織に
書きたかったが、やめた。
自分の都合で、動き過ぎてる事も
恥ずかしくなっていた。
1年間、問題なく生活できていたが、
失った記憶の不自由さではなく、
記憶に残ってしまった過去と向き合い、
それを清算したいと思ったから
伊東美織に会った時に声を掛けたんだ!
そう、自分に言い聞かせて、
覚悟を決めた。
夕方、部活が終わって
ランニングに行こうと準備していると
伊東美織からLINEが届いた。
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あゆちゃん
日曜日の16時30分 OKです
駅前のStarbucksで待ち合わせで良い?
あと、あゆちゃんに頼まれたから、
私も同席するよ。
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谷本は伊東が来る事を、一瞬喜んだが、
冷静に考えると藤田鮎子にとっても、
『今更何?怖いから着いて来て!』
って、事なんだろな〜。
これは、藤田鮎子に謝ることが目的
当時のこと説明したいが、
当事者以外の名前が思い出せない。
その時点で、整理などできないことは分かっていたが、
謝ることで何か思い出すんじゃないかという気持ちも強かった。
* 伊東美織の部屋 *
美織はスマホの画面を見つめて座っていた。
藤田鮎子にLINEした事で、
この判断で良かったのか?考えていた。
谷本くんは気にしているけど、
あゆちゃんは、
もう過去の事と忘れてただろうし、
余計な事を、蒸し返してしまったんじゃないかと考えていた。
谷本くん『酷い断り方って、、』どんな断り方かな?
でも、谷本くんには後悔の記憶しか残ってないから、
気になってしょうが無い気持ちもわかる。
私のことも記憶にあるって言ってたけど、、、
たぶん卒業式のことがあるんだろうな…
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
好きなのか、気になっているだけなのか。
近づきたいのか、距離を保つべきなのか。
谷本自身が答えを出せないまま、
想いだけが行き場を失っています。
記憶を失ったことは、
過去を失うことでもありますが、
同時に「自分がどう感じているのか」を
測る基準も失っている状態です。
この迷いが、次の行動につながるのか、
それともさらに複雑にしてしまうのか。
次話も、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




