20話 記憶の桜
いつも読んでいただきありがとうございます。
土曜日の朝。
谷本は午後から部活があるため、制服姿で各務台病院へ向かった。
東堂美津子に渡すつもりで、
花の絵を描いた。
本物の花や果物をお見舞いに持って行くと、
感染症や薬の成分に影響すると聞かされていた。
絵に描いた物は大丈夫らしい。
病院の入口を入ると、
ロビー前のベンチに、美織が座っていた。
「伊東さん、来てくれたんだ。」
谷本は美織に駆け寄った。
「うん、一緒に行ってもいいかな?」
「もちろんだよ、ありがとう。」
二人は東堂の病室の前で、
看護師さんから簡単な説明を受け、
その後、病室に入った。
何年振りに会うのだと思うけど、
谷本にとっては、小学4年までの東堂美津子しか記憶に無い。
中学も一緒だったはずだが記憶が無い。
東堂はベッドの上で、本を読んでいた。
顔の表情は、思ったより元気そうで驚いた、
髪の毛は抜けているのか、ニット帽をつけていた。
谷本から切り出した。
「東堂さん、久しぶり。
実は僕、中学卒業式の日に交通事故に遭って、中学以前の友達の名前や顔忘れてしまって、、」
と、状況の説明をはじめた。
美津子は
「知ってる、谷本くん入院してたの、この病院だったでしょ?看護師さんから聞いてた。」
「卒業式の日に、瑞浪中学の生徒が事故で意識不明の重体だって、私に卒業証書を持って来てくれた看護師さんが教えてくれたの」
「その時、谷本だって知って驚いたんだ」
谷本は美津子に、会話のペースを奪われて
話しに聞き入った。
「谷本くんが記憶が無い事も、退院した事も、
私には情報が入って来てたから」
「こんな病室生活だから、谷本が入院してた時
谷本に親近感が沸いてて、意識が戻ったって聞いた時は涙が出てきたよ。」
「中学時代はあまり話した事なかったからね。」
「谷本は私のこと避けてたでしょ?」
谷本は突然の質問にハッとして答えた。
「中学の時の記憶はないけど、そんな気がする」
そう言うと、
「東堂さんを、小学校の時に階段から突き落として骨折させた事を謝りたくて、今日来たんだ。」
「あの時は、ホントにすみませんでした!」
深く頭を下げる谷本を見て、
東堂美津子は笑った。
「あんたいつの話ししてるのよ、」
「あの時、怪我をしたのは私だったけど、私もふざけてたし、先に手出したの私なんだよねー」
谷本は困った顔で、
「ただ、僕が覚えている記憶があの時東堂さんを突き倒した感覚で、謝りたかったんだ、」
「それに、その他の記憶が無いから残ってる記憶に意識が集中しちゃって、、」
東堂美津子が、
「じゃあ、許す!」
「その代わりに私が死ぬまで面倒見て。」
そう言って
横目で美織を見た。
谷本が「そ、、」と言い掛けた時
東堂が被せるように「冗談だから!!」
そう言って笑った。
谷本がまた困った顔で
「東堂さん、結構元気だね、、」
そう言って笑った。
東堂の母が、病室に入って来た。
「今日はありがとうね、」そう言って
東堂さんの近くに座った。
谷本は描いて来た絵を美津子に渡した。
「これお見舞いに描いたんだ。」
桜の花の絵だった
「この絵は記憶を無くす前の自分が描いたスケッチを見て描いた絵なんだ、
だからこの桜は僕も見た事ない桜なんだ、
どこで描いたか、よくわからないけど」
「桜には人生の再出発って意味があるらしい」
東堂は嬉しそうに、絵を眺めて
「ありがとう、飾るね。」と、笑った。
東堂の母親の目に涙が溢れたのに気づいた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。




