第16話 スケッチブックの少女
好きな人の「過去」を知りたいと思うのは、
自然なことなのかもしれません。
でもそれが、
言葉ではなく、
無数の“絵”として現れたとしたら。
この回は、
静かな違和感と、
胸の奥に生まれる小さな痛みを描いています。
谷本は諦めた、
愛ちゃんの性格的に見せない事には、
先に進まない。
「汚ないけど大丈夫?」
愛は嬉しそうに「大丈夫だよ」
美織も「私も大丈夫だよ」と笑った。
じゃあ、少しだけ、
そう言って階段を上がる、
階段の突き当たりが、谷本の部屋だ。
谷本は扉を開けた。
大きなイーゼルが目に入り、
沢山の積み上げられたスケッチブックが部屋のいたる所に積み上げられていた。
男の子の部屋と言うのとは、違う気がした。
「すご〜い」愛が喜んで部屋に入る。
美織はそれに続いて部屋に入った。
「おじゃましまーす」
谷本は1冊のスケッチブックを、
美織に差し出しページをめくった。
「伊東さんの絵描くから、選んでよ。」
美織は、谷本が描いた自分の絵を初めて見た。
上手い、そう思い次々と
ページをめくって数枚確認した。
小学校や中学時代に谷本の絵を何度か見ていたが、
コレはその記憶から想像出来ないレベルだった。
谷本が、
「俺今からランニング行くから送って行くよ、
着替えて来るから、絵を選んどいて。」
そう言って、部屋を出て行った。
美織は、1枚の絵を選んだ
これにしよう。
スケッチブックを数枚戻した時、
急に胸が苦しくなった。
知らない女の子の絵が10枚以上あった、
かなりかわいい子に見える。
誰か聞きたいけど、
美織にはその勇気は無かった。
これはもしかして、、
そのタイミングで、谷本が着替えを終えて帰って来た。
「伊東さん、決まった?」
美織は1枚選んで、コレと指さした。
「OKわかった、」
美織が「ちょっと待って」と、スケッチブックを閉じて、愛に渡した。
「愛はどれが良いと思う?」
愛はスケッチブックを巡って、
「これ!」って指差した。
「しろくま!」美織は「もういい」とスケッチブックを奪って谷本に渡した。
「さっきのでいいから。」
そう言って、玄関口に向かった。
「今日はありがとう、楽しかった。」
奥からばあちゃんも出てきて、
「帰るんか?気をつけてな。」と、挨拶してくれた。
美織と愛は、「またねー」と、ばあちゃんに
手を振って家を出た。
「じゃあ、ランニングついでに送ってくるね。」
そう言って、家を出た。
3人は、美織の家まで歩いて帰ったが、
谷本は美織が、一言も喋っていない事には
気づかなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第16話では、
谷本の「才能」と
美織の「感情」が、
はじめて真正面からぶつかります。
スケッチブックに描かれた少女たちは、
谷本にとっては
ただの“記録”や“練習”かもしれません。
けれど美織にとっては、
そこに描かれているのは
「自分ではない誰か」という、
とても分かりやすくて、
とても言葉にしづらい存在でした。
問いただせば済む話なのに、
聞けない。
聞きたくない。
でも、気づいてしまった。
その微妙な感情の揺れが、
今回の一番のテーマです。
そして、
谷本がその変化に気づかないまま
並んで歩いているラスト。
ふたりの距離は近いのに、
心は少しだけ、ずれていきます。
次話では、
その「ずれ」が
言葉として表に出るのか、
それとも
さらに飲み込まれてしまうのか。
引き続き、
静かな青春の行方を
見届けていただけると嬉しいです。




