白紙の年代記
…やっとマンションが見えてきた。
住宅街に囲まれるように2階建ての古びたマンションが建っている。1LDKで家賃が月8万円、都市部で選ぶとなるとこれでもまだマシな方なのだから不思議だ。
錆びた階段を上り2階の突き当たりにあるドアを開けると愛しの我が家だ。一人暮らしの弊害か部屋中に衣類が散乱して台所には食器が溢れ、更にはゴミ箱は溢れていないのが不思議なぐらいにパンパンに詰まっている。
「全く嫌だねー、嫌なものには目を伏せてさっさとゲームゲームっと」
散らかった部屋を横目に置いている中古屋で買った少し高そうな木製の壁掛け時計を見ると時間は13:13を示している。そこそこの早足で帰ってきたがそれでも1時間以上はかかってしまった。今は一刻も早く空白の年代記をプレイしたくて仕方がない。脳波変換電子機器を準備しながら白紙の年代記のパッケージを片手に取る。
白紙の年代記
『この真っ白な世界を作るのは君たちだ!』
パッケージの表紙には大きな空とどこまでも続いていると思わせる青々しい大地が描かれ、その上に大きくその言葉が書かれている。逆に、それ以外大した情報はなく裏面も地続きでイラストが印刷されてあるだけだ。
この白紙の年代記の特殊なところはその事前情報の少なさだ。現状わかっているのは、このゲームタイトルとmmorpgであること、職種が100種類を超える自由度の高さと言ったところぐらいだ。普通はこの手のゲームだと、ゲーム内映像を盛り込んだpvなどをバンバンと流して広報し、事前予約や認知度に繋げるはずなんだが全くそういった動きもない。それどころかダウンロード版なんかも無く、硬派なことに店舗での直接購入だけが唯一の入手方法だ。俺から見ればとち狂った広報部でも雇っているのかと言わざる得ない。だが、この以外な手法もあながち間違いでもなかったらしくネットなどで検索すれば公式サイトが埋もれるほどでかえって憶測などの考察サイトやスレ立てが後を経たない。その影響で今になってはこのソフトを入手するのはかなり難しいという話も目にする。
…まー何はともあれ物は試しだ。始まる前からワクワクさせてくるじゃないか。
早速、黒く帯状の脳波変換電子機器の背面からソフトを差し込み額に巻き付ける。金属質で肌に触れると少し冷たく感じる。
「えーっと、確か『起動』だったっけ」
ゲーム開始の言葉を口にすると視界はたちまち白くつつまれ意識が落ちていくのを感じた。




