其田護
「ちょっと其田!この商品のプレゼン明日までに作ってくれるかー?」
「えっ、でも、まだ前に頼まれた得意先へ提出する資料が終わってな、、」
「んー?何か問題でも?」
「あ、いえ、、喜んで、作らせていただきます」
この高圧的な態度で捲し立ててくるハゲた小太りの男は俺の上司に当たる園部課長だ。いつも何かと気弱な俺をターゲットにして自分の仕事やら何やらを事あるごとに押し付けてくる。
そしてそんないかにもなパワハラに文句も言えずただ我慢することしたできないのが、この俺こと其田護22歳。年齢=彼女いない歴の大賢者まっしぐら、典型的な弱男だ。護という大層な名前に反して周りのことばかり気にして自分の意見を言えない気弱男子と言ったとことだ。だからこそ彼女ができないのかもしれないが。それに会社内での立場もあまり芳しくない。高校卒業後にこの立花商事に入社してかれこれ4年ほど経つが、今だに性格も相まってまともに商談も成立させたことがなく平社員街道まっしぐら直進中。入社直後は仲の良かった同期や先輩たちと会話するのは今や入社時と退勤時の時の一言挨拶だけになってしまった。
……ちくしょーが、お前ら俺のいないところでよく飲み会をしてるのも知ってるんだからな、
恨み言を吐いたって今の現状が変わることはない。こうしてみると本当に限界社会人って感じで自分が居た堪れなくなってくる。だがしかしだ。まだこんな俺にも唯一の救いはある。それが彼女だ。
部屋の隅に座っている俺は少し腰を上げ敷居越しに向かいの席に座る女性へと視線を向ける。艶を放つ長い髪を腰まで垂らし、整った顔立ちによく似合うピシッと灰色と白で統一されたスーツを着ている。
彼女は曽野星佳奈 24歳。一見すればとても真面目な女性のようにも見える。しかし、彼女の魅力はそこにあらず。人と接する時に発せられるその人柄の良さにある。そのクールさが一変して立場に関わらず気さくに接してくれるのだ。それは俺にも等しいらしく昼食の時なんかは自作の弁当を片手に俺の隣まで来て話し相手をしてくれる。まあ他の人たちは全員外食に行っていて俺が金欠で特大おにぎりボールを持って行ってるってのが幸いしてでもあるが。ともかく俺とは対照的にこの部署のムードメーカーみたいな人だ。
「おーい、其田くん?」
「って、ひやぁい!?」
俺の頭上から曽野星さんが覗き込んできている。近い近い今にも顔同士がくっつきそうなくらいだ。
「あー、ごめんね驚かしちゃった?ほら、お昼だから一緒に食べよっか」
そう言われ部署に立てかけてある時計に目を送るとちょうどふたつの針が12を刺している。もうそんな時間か。
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです」
そう言いながら俺は隣に立てかけてあるバッグからタッパーを取り出しひしめき合う様に詰めてある二つの特大のおにぎりを食べ始める。
「へー、それでどんなこと考えてたのー?なんだか今日はいつもより顔色がマシな感じがするけどなんか良いことでもあった?」
「え、そうですかねぇ、?」
おいそれって普段から顔が悪いみたいな言い方じゃないか。人間関係やら残業やらでストレスが溜まってるのは確かだが。
「いや、別に特別なことじゃないですけどちょっと楽しみにしていたゲームの配信が今夜からなんですよ」
「ゲーム、、それって前に言ってた飽和糸黒煮クールだっけ?」
「なんですか?そのエイリアンの作った料理みたいな名前は。違いますよ、白紙の年代記ですよ」
「あっそうそうホワイトニングロニクルそれだ!なるほどーだから嬉しそうだったんだだねー」
「ん?まだなんだか歯が白くなりそうな名前ですが。ともかく待ちに待ったVRmmorpgがついにプレイできるとなると自然と頬も緩みますよ」
「へーそれじゃあ、退勤したらすぐにプレイしないとだね!なんだったら課長に早めに帰らせてもらえる様に頼んでおこうか?」
「い、いえ、それは流石にちょっと遠慮しておきます」
部署のマドンナにそんなことをさせたら嫉妬やらなんやらで俺の立場が地に落ちてしまう。焦ることはない今日は大人しく仕事を終わらせてサーバー解禁の0時までに家に帰ることさえできれば良い。
「そうかー、わかった!じゃあ、またそのゲームの感想聞かせてよ!仕事に戻るねー」
そう言いながら隣の席を元に戻し弁当を片付けて向かいの自分の席へとそそくさと帰っていく。
「さて、課長に頼まれたプレゼンをさっさと終わらせて帰るとしますか」
俺は軽く身なりを整え再び作業に取り掛かる。




