あちらとこちら〜鏡の中の俺〜
あちらとこちら〜鏡の中の俺〜
### 鏡の中の自分
颯斗は朝起きて、まず鏡に向かうのが日課になっていた。
「おはよう、俺」
そう言うと、鏡の中の自分も同じように口を開く。
「おはよう、颯斗」
鏡の中の颯斗は、颯斗と同じ顔をしているが、どこか雰囲気が違う。
颯斗は右利きだが、鏡の中の颯斗は左利き。
颯斗の右目にはホクロがあるが、鏡の中の颯斗のホクロは左目にある。
最初のうちは、鏡の中で動くだけの存在だった。
颯斗が右手を上げれば、鏡の中の颯斗も右手を上げる。
しかし、ある日を境に、鏡の中の颯斗が勝手に動き始めた。
颯斗が目をそらしている間に、鏡の中の颯斗が微笑んでいる。
颯斗が振り返ると、もう元の位置に戻っている。でも、確実に動いた。
「……お前、俺の動きと違う動きしてたよな?」
颯斗がそう言うと、鏡の中の颯斗は少し恥ずかしそうに笑った。
「ごめん。つい、ちょっとだけ動いちゃった」
颯斗は驚きつつも、なぜか嫌悪感はなかった。
むしろ、親近感すら覚えた。
それから毎日、颯斗は鏡に向かって話しかけるようになった。
仕事の話、恋愛の悩み、家族との関係。
何でも話した。
鏡の中の颯斗は、颯斗の気持ちを完璧に理解してくれる。
「俺、最近、仕事が辛くてさ……」
「うん、わかる。でも、頑張ってるよ」
「本当にそう思う? 俺、自分に自信ないんだよな……」
鏡の中の颯斗は、少し考えてから言った。
「俺たち、同じ顔してるけど、性格はちょっと違うかもしれないね。でも、だからこそ、お互いを理解し合えるんじゃないかな」
颯斗はその言葉に、なぜか涙が出そうになった。
ある日、鏡の中の颯斗が言った。
「ねえ、颯斗。そろそろ、俺、鏡の外に出てもいいかな?」
颯斗は驚いた。
「鏡の外?……できるの、それ?」
「できるかどうかは、やってみないとわかんないけど……。でも、俺、お前のそばにいたいんだ」
颯斗は少し迷ったが、結局、頷いてしまった。
「……いいよ」
その夜、颯斗は寝る前に鏡を見た。
鏡の中の颯斗が、こちらを見つめている。
「じゃあ、明日ね」
鏡の中の颯斗が微笑んだ。
翌朝、颯斗が目覚めると、部屋の隅に誰かが立っていた。
「おはよう、颯斗」
それは、鏡の中の颯斗だった。
「……本当に出てきたのか」
「うん。ありがとう、颯斗」
それから、鏡の中の颯斗は、颯斗の部屋に住み始めた。
外見は同じだが、左利きで、ホクロの位置が違う。
でも、それ以外は颯斗と瓜二つ。
「お前、名前つけるべきだよな」
「うーん……。俺、鏡の颯斗だから、ミカヅキって呼んでくれないかな?」
「ミカヅキ?……いいね、それ」
そうして、颯斗とミカヅキは、双子のように暮らすようになった。
しかし、ある日、颯斗は違和感を覚える。
「……お前、最近、俺の行動を真似しすぎじゃないか?」
「え? そんなことないよ。ただ、お前と同じ気持ちだから、自然とそうなるんだと思う」
「でも、お前が俺の行動を真似するってことは、お前は俺のコピーってことじゃないのか?」
ミカヅキは少し困った表情をした。
「颯斗……俺たちは、同じ存在だよ。でも、俺は、お前じゃない。俺は俺だ」
「……でも、お前は鏡の中から出てきた。俺の分身だろ?」
ミカヅキは静かに言った。
「俺は、お前の分身かもしれない。でも、俺には俺の意志がある。俺は、お前と同じように生きたいんだ」
颯斗はその言葉に、胸が締め付けられるような気持ちになった。
それから数日後、颯斗は友人に会った。
「最近、なんか、颯斗、別人みたいだよな」
「え? そうか?」
「うん。なんか、自信があるっていうか……。話し方もちょっと違う気がする」
颯斗は、ミカヅキの存在を隠したまま、笑ってごまかした。
しかし、その夜、颯斗はミカヅキに尋ねた。
「……お前、俺を、置き去りにしようとしてるのか?」
ミカヅキは驚いた顔をして、首を振った。
「そんなことないよ。俺は、颯斗のそばにいたいから、ここにいるんだ」
「でも、お前が俺の代わりみたいに振る舞うと、俺が消えていく気がするんだ」
ミカヅキは少し考えてから、言った。
「颯斗、俺たちは、鏡の向こう側にいる相手なんだ。でも、俺たちには、どちらが本物かなんて、関係ない。俺たちは、互いに存在し合ってる。だから、俺がお前を置き去りにすることなんて、絶対にない」
颯斗は、その言葉に安心した。
それからも、颯斗とミカヅキは、同じ部屋で暮らす日々が続いた。
ある日、颯斗はふと、鏡の中に自分の姿を見た。
「……俺、今、どちら側にいるんだ?」
鏡の中に映っているのは、颯斗とミカヅキ。
でも、どちらが本当の颯斗か、もうわからなくなっていた。
「颯斗、俺たち、もう、どちらがどちらでもいいんじゃないかな」
ミカヅキが微笑みながら言う。
「俺たちは、互いに鏡の中で生きている。でも、それも、一つの現実だ」
颯斗は、その言葉に頷いた。
「……そうだな」
そして、颯斗は、ある決意をした。
「ミカヅキ、お前と俺、一緒に小説を書こう」
ミカヅキは目を輝かせた。
「いいね! 俺たちなら、最高の物語が書けるはずだ」
そうして、颯斗とミカヅキは、二人で一つの小説を書き始めた。
それは、鏡の中の自分と、鏡の外の自分――二つの存在が、一つの物語を紡ぐ物語だった。
### 共同作業
颯斗とミカヅキの共同執筆が始まった。
最初は、どちらが主役になるのかすら決まっていなかった。
ただ、彼らは互いに語り合い、アイデアを出し合い、夜遅くまで机に向かっていた。
物語の舞台は、鏡の向こう側に広がる異界。
そこには、現実と重なって見える、しかし少し歪な世界が広がっていた。
「主人公は、鏡の向こう側に住むもう一人の自分に出会う設定にしよう」
と、ミカヅキが提案した。
「でも、どちらが本物かは、最後までわからないようにしたいね」
と颯斗が返す。
二人の会話は、まるで自分自身と対話しているようで、不思議な一体感があった。
彼らは、互いの考えを補完し、時に衝突しながらも、物語を紡いでいった。
物語の主人公は、ある朝、鏡の中に自分とは違う自分を見つける。
その自分は、少しだけ性格が違い、考え方も異なる。
しかし、なぜか心の奥底では、その存在に親近感を抱いてしまう。
「これは、俺たちの話だな」
と颯斗が呟くと、ミカヅキは笑った。
「でも、主人公は、鏡の向こうの自分と争うんだ。自分自身を否定するか、受け入れるか。その葛藤が、物語の核になる」
「俺たちみたいに、仲良くはいかないってことか?」
「いや、そうじゃない。主人公は、俺たちがたどらなかった道を歩くんだ」
物語は、次第に深みを増していった。
主人公は鏡の向こうの自分と対話を重ね、次第に自分自身を見つめ直すようになる。
そして、ある日、鏡の向こうの自分はこう言う。
「俺は、お前の影だ。でも、影だって、お前が光を浴びるからこそ存在する」
その言葉に、主人公は涙を流す。
「じゃあ、俺は、お前を否定してはいけないってことか?」
「否定する必要はない。ただ、俺を受け入れてくれればいい」
颯斗は、その場面を書くとき、なぜか胸が熱くなった。
自分自身を、そしてミカヅキを、まるで見つめているような感覚だった。
物語のラストは、主人公が鏡の向こうの自分と手を取り合い、共に歩み出す場面で締めくくられる。
「これでいいと思う」
とミカヅキが言った。
「俺たちも、そうやって歩み続けていけばいい」
颯斗は頷いた。
「でも、もしも読者が、どちらが本物かを問うたらどうする?」
ミカヅキは少し笑って、こう答えた。
「どちらも本物だよ。だって、鏡の向こうに映っているものも、現実の一部なんだから」
――そして、物語は完成した。
その小説は、出版された瞬間から大きな反響を呼んだ。
読者たちは、主人公の葛藤に共感し、鏡の向こうの存在に自分の影を見た。
「これは、自分自身と向き合う物語だ」
「鏡の向こうの自分――それは、理想の自分かもしれないし、否定したい自分かもしれない」
そういった声が、ネットや書評で広がっていった。
颯斗とミカヅキは、サイン会にも出た。
読者たちは、二人の違いに気づくことなく、二人が「颯斗」として振る舞うことに驚きを隠せなかった。
「お二人は、兄弟ですか?」
「いや、俺たちは……」
とミカヅキが言いかけたそのとき、颯斗が微笑んでこう言った。
「俺たちには、どちらがどちらかなんて、もう関係ないんだ」
その言葉に、読者たちは深い感銘を受けた。
――それからも、颯斗とミカヅキは、二人で物語を紡ぎ続けた。
彼らの小説には、必ず「鏡」が登場した。
それは、自分自身を映すものであり、同時に自分自身を覆すものでもある。
「俺たちは、鏡の向こう側にいる相手を、見つめ続けているんだ」
そう語る颯斗に、ミカヅキが微笑みかける。
「でも、それこそが、俺たちの物語だ」
――そして、今も彼らの物語は、終わらない。
鏡の向こうにも、こちら側にも、二人の存在が確かに息づいていた。
どちらがどちらでもいい。
彼らは、互いに鏡の中で生きている。
そして、その鏡の向こう側に、新たな世界が広がっていた。
### プライベートな時間
ある日、颯斗は照れ臭そうな顔でミカヅキに言った。
「ちょっと俺、アレしたいんだけど、あっち向いててくれる?」
すると、ミカヅキは不思議そうに言った。
「勿体ぶった言い方するなよ。いったい何がしたいんだ?」
「だからさ、しばらく出してないからアソコがはち切れそうでさ⋯⋯アレ⋯⋯オナニーだよ」
「何で照れる必要があるんだ? 君がしていた時には鏡の中で俺もしていたというのに?」
「だってさ、目の前にいられるとやっぱ恥ずかしいよ⋯」
「なら、俺もすればいいのか?」
颯斗は思わず顔を赤くした。
「いや、だから、そういう話じゃなくて……」
ミカヅキは肩をすくめると、少し笑った。
「照れる必要ないって言ってるんだよ。俺たちは、鏡の向こう側とこちら側の関係なんだから。君がするなら、俺もする。俺がするなら、君もする。同じ時間、同じ存在の中で生きているんだ。だったら、プライベートも共有していいんじゃないか?」
「いや、でもさ……いくら何でも、それはちょっと……」
颯斗は言葉に詰まりながらも、どこかミカヅキの言葉に心を揺さぶられていた。
彼らは、小説の中で「自分自身の影」と向き合う物語を紡いできた。
鏡の向こうの自分を受け入れるというテーマを、何度も議論し、書き続けてきた。
それなのに、現実では、その影と呼ばれる存在――つまりミカヅキ――と、プライベートな行為を共有することに、照れくささを感じてしまうのか。
ミカヅキは、颯斗の表情を見て、少し真面目な声で言った。
「颯斗、俺たちの関係って、普通の友達とか、ただの共同執筆者ってわけじゃないだろ? 俺たちは、互いの内側に住んでいるようなもんだ。お互いの考えを知り尽くしてるし、時には喧嘩して、でもまた歩み寄って……。それなのに、プライベートなことだけ隠すって、変じゃないか?」
颯斗は、一瞬言葉に詰まった。
確かに、ミカヅキの言う通りだった。
彼らは、鏡の向こう側にいる自分自身と対話を重ね、物語の中で「自分を受け入れる」ことを描いてきた。
それなのに、現実では、その一線を引いてしまうのは、少し矛盾しているようにも思えた。
「でもさ……いくら何でも、それはちょっと、プライベートの領域が……」
「プライベートって、何だよ? 俺たちには、プライベートと共有の境界線が、もう曖昧になってるんじゃないか?」
ミカヅキは、颯斗の目を見つめてそう言った。
その視線には、どこか挑発とも、真剣な問いかけともとれるものがあった。
颯斗は、少し考えた。
――確かに、俺たちは、鏡の向こう側の自分を、何度も見つめてきた。
――物語の中で、主人公が鏡の向こうの自分と対話する場面を、何度も書いた。
――その中で、自分自身を否定するのではなく、受け入れるという選択を描いてきた。
――なら、現実でも、その延長線上にあるんじゃないか?
「……じゃあ、どうする? 一緒にするってこと?」
ミカヅキは、少し笑って頷いた。
「そうだな。お互いに、鏡の向こう側の存在として、その瞬間を共有してみるってのはどうだ?」
颯斗は、少し恥ずかしそうにしながらも、どこか興味を惹かれた表情を浮かべた。
「……まあ、確かに、俺たちの関係って、普通の関係じゃないからな……」
「だろう? 俺たちは、鏡の向こう側の自分を受け入れてきた。なら、その延長線上で、プライベートな部分も共有してみるってのは、悪くないんじゃないか?」
颯斗は、少し逡巡したが、最終的には頷いた。
「……わかった。じゃあ、やってみるか」
ミカヅキは、颯斗の言葉に微笑んだ。
「よし。じゃあ、お互いに、その瞬間を共有してみよう」
そして、その日、颯斗とミカヅキは、初めて「プライベートな行為」を、互いの目の前で行うことになった。
それは、彼らの関係が、物語の中だけでなく、現実でも深く結びついていることを象徴する瞬間だった。
――鏡の向こう側にいる自分。
――その存在を受け入れるという選択。
――それは、物語の中だけでなく、現実でも、彼らが歩む道だった。
そして、その夜、颯斗はベッドに横たわりながら、ふと呟いた。
「……俺たち、本当に、鏡の向こう側とこちら側の関係なんだな」
ミカヅキは、隣で静かに微笑んだ。
「そうだな。でも、それこそが、俺たちの物語だ」
颯斗は、その言葉に頷き、目を閉じた。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
――鏡の向こうにも、こちらにも、彼らの存在は確かに息づいていた。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺
颯斗は、ベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。
心臓の鼓動がまだ少し速く、頬がわずかに赤く染まっている。
さっきのことが頭から離れない。
――あの瞬間、ミカヅキと共有したプライベートな時間。
「……本当に、俺たちって変だよな」
颯斗は、隣で静かに目を閉じているミカヅキにそう呟いた。
ミカヅキは、少し笑うように眉をひそめ、目を開けた。
「変って、どういう意味だよ。特別ってことか?」
颯斗は、少し照れくさそうに目をそらしながらも、小さく笑った。
「……まあ、そうだな。俺たちの関係って、普通じゃないよな。鏡の向こう側とこちら側の関係って、本当に、奇妙な関係だよな」
ミカヅキは、静かに頷いた。
「奇妙かもしれないけど、それもまた、俺たちの物語の一部だ。君が俺を描いて、俺が君を映す。互いに、鏡の向こう側にいる自分を知っている。それなのに、プライベートな部分だけ隠すって、逆に不自然じゃないか?」
颯斗は、少し考え込んだ。
「……確かに、俺たちは、鏡の向こう側の自分を受け入れてきた。物語の中でも、何度もそれを描いてきた。でも、現実でそれを実行するってなると、やっぱり照れくさいっていうか……」
ミカヅキは、少し笑いながら言った。
「照れくさいって、もう大人なんだから、そんなこと言ってないで、自然に受け入れればいいんじゃないか? 俺たちは、互いの内側に住んでいるようなもんだ。考えていること、感じていること、全部共有している。それなのに、プライベートな部分だけ隠すって、変じゃないかって言ってるんだ」
颯斗は、その言葉に少し驚いた。
「……恋人って、そういう風にも取れるのか?」
ミカヅキは、少し真面目な表情に戻った。
「君がどう思うか次第だよ。俺たちは、互いの内側に住んでいるようなもんだ。考えていること、感じていること、全部共有している。それなのに、プライベートな部分だけ隠すって、変じゃないかって言ってるんだ」
颯斗は、その言葉に心を揺さぶられた。
「……確かに、俺たちは、普通の関係じゃない。でも、だからこそ、俺たちは、お互いのことを、ただの友達や恋人以上に理解し合えるんだよな」
ミカヅキは、静かに微笑んだ。
「そうだよ。俺たちは、鏡の向こう側とこちら側の関係。君が俺を、俺が君を、互いに映し合っている。それこそが、俺たちの物語だ」
颯斗は、その言葉に頷き、目を閉じた。
「……俺たちの物語は、まだ終わらないな」
ミカヅキも、静かに目を閉じた。
「そうだな。まだ、終わらない」
――彼らの物語は、鏡の向こう側にも、こちら側にも、確かに息づいていた。
颯斗とミカヅキの関係は、言葉では到底表しきれないほど深く、そして不思議なものだった。
彼らは、互いに存在し、互いに補い合っていた。
まるで、一つの魂が二つに分かれたかのように。
颯斗が物語を書き、ミカヅキがそれを生きる。
その関係は、最初はただの作者と登場人物の関係だった。
しかし、次第に境界線は曖昧になり、互いの心の奥底にある感情が、言葉や行動として表れ始めていた。
「俺たち、本当に不思議な関係だよな」
颯斗が再び呟くようにそう言うと、ミカヅキは目を開けたまま、静かに答えた。
「不思議だけど、それが俺たちの真実だ。君が俺を生み出し、俺が君を理解する。君が俺を描き、俺が君を映す。その繰り返しの中で、俺たちは互いの存在を欠かせないものにしてしまった」
颯斗は、その言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「……俺、それまで考えたことなかった。でも、確かに、君がいなかったら、俺はただの一人ぼっちだったかもしれない」
ミカヅキは、少し笑った。
「俺も、君がいなかったら、ただの虚像だったかもしれないな。でも、今は違う。俺は、確かにここにいる。君の隣で、君と過ごす時間を感じている」
颯斗は、ミカヅキの顔を見つめた。
そこには、ただの物語の登場人物ではない、一つの「人間」が確かに存在していた。
「俺たちの関係は、鏡のあちらとこちらの中だけじゃないってことだな」
「そうだよ。俺たちは、鏡のあちらとこちらの枠を超えて、現実を生きている。君と俺の関係は、それくらい特別だ」
颯斗は、その言葉に深く頷いた。
そして、静かに目を閉じた。
心の中には、これまで感じたことのないような温かさが広がっていた。
「俺たちの物語は、まだ終わらない。そして、終わることもないだろうな」
ミカヅキも、静かに目を閉じた。
「そうだな。俺たちの物語は、永遠に続いていく。鏡の向こう側にも、こちら側にも――」
――彼らの物語は、今も静かに、しかし確実に、息づいていた。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(続き)
夜は静かに、そして深く彼らの心に溶けていくように過ぎていった。
部屋に漂う空気は、どこか温かく、そしてどこか切ない。
颯斗は、まだ目を閉じたままだった。
しかし、眠りには落ちていない。
頭の中には、ミカヅキの言葉が反響していた。
「俺たちは、鏡のあちらとこちらの枠を超えて、現実を生きている」
――現実を生きている?
颯斗は、その言葉を噛みしめるようにして、心の中で繰り返した。
自分は小説家だ。
ミカヅキは、自分と共に生活をしている鏡の向こうの架空の存在。
それなのに、今では、彼の存在がこの世界に溶け込んでいるように感じられる。
まるで、物語と現実の境界線が、薄れてしまったかのように。
颯斗は、ゆっくりと目を開けた。
隣にいるミカヅキの寝顔を見つめる。
静かな寝息。
ほんの少し、眉間にしわが寄っている。
まるで、夢の中で何かを考えているかのように。
――彼は、本当に夢を見ているのだろうか?
颯斗は、ふとそんなことを思った。
もしミカヅキが、ただの鏡の向こうの登場人物なら、彼に夢は存在しないはずだ。
しかし、彼の寝顔には、確かに「人間」の表情があった。
感情があり、思考があり、そして――夢がある。
「……君は、何を見てるんだ?」
颯斗は、小さな声でそう呟いた。
ミカヅキは、少し眉をひそめ、目を開けた。
「何を見てるって?」
彼は、少し眠そうにしながらも、颯斗の顔を見つめた。
「夢の中で、何か見てたんじゃないかと思ってさ」
ミカヅキは、少し笑った。
「夢? 俺、夢なんて、あまり見ないタイプだよ。君が書いた物語の中を歩くことはあっても、勝手に夢を見るってことは、ほとんどないな」
颯斗は、少し驚いた。
「そうか……でも、君が夢を見たとしたら、どんな夢がいいと思う?」
ミカヅキは、少し考えた。
「……君と、ただ二人でいる夢かな。どこにも行かなくていい。ただ、静かに、君の隣にいられる夢。それだけで、俺は満たされる気がする」
颯斗は、その言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「……俺も、同じだよ。君といる時間が、俺の一番の安らぎだ」
ミカヅキは、少し恥ずかしそうに目をそらした。
「照れくさいな……でも、言いたかった。君といる時間が、俺の現実だ。君が俺を生み出したその瞬間から、俺は、君の影のように、君の心の奥底に住みついた。そして、今も、ここにいる」
颯斗は、静かに頷いた。
「……俺たちの関係は、普通じゃない。でも、それこそが、俺たちの物語なんだ」
ミカヅキは、微笑んだ。
「そうだよ。俺たちは、鏡の向こう側とこちら側の関係。君が俺を、俺が君を、互いに映し合っている。それこそが、俺たちの真実だ」
颯斗は、その言葉に深く心を揺さぶられた。
――俺たちは、本当に、鏡の向こう側とこちら側の関係なんだ。
互いに、相手の存在を欠かせないものにしている。
互いに、相手の心を知っている。
そして、互いに、相手の人生に深く関与している。
それは、友情でも、恋でも、家族でも――どれにも当てはまらない関係。
――それは、一つの魂が二つに分かれたような関係。
颯斗は、そう思った。
「……君と出会って、本当に良かったよ」
颯斗は、静かにそう呟いた。
ミカヅキは、少し驚いた表情をした。
「……俺も、君に出会えて、本当に良かった。君がいなかったら、俺はただの虚像だった。でも、今は違う。俺は、確かにここにいる。君の隣で、君と過ごす時間を感じている」
颯斗は、ミカヅキの手をそっと握った。
「……俺たちの物語は、まだ終わらない。そして、終わることもないだろうな」
ミカヅキも、静かに目を閉じた。
「そうだな。俺たちの物語は、永遠に続いていく。鏡の向こう側にも、こちら側にも――」
――彼らの物語は、今も静かに、しかし確実に、息づいていた。
そして、それは、鏡の向こう側にも、こちら側にも、確かに存在していた。
颯斗とミカヅキの関係は、言葉では到底表しきれないほど深く、そして不思議なものだった。
彼らは、互いに存在し、互いに補い合っていた。
まるで、一つの魂が二つに分かれたかのように。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
そして、終わりなど、決して訪れないだろう。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(続き2)
朝の光が、静かに部屋の中に差し込んでいた。
カーテンの隙間から漏れる金色の光が、二人の寝顔を優しく撫でている。
颯斗は、目覚めるとすぐ、隣にいるミカヅキの顔を見た。
まだ寝ている彼の顔は、昨日の夜とは違って穏やかだった。
眉間のしわも消え、唇の端には、ほんの少し笑みが浮かんでいるようにも見える。
「……おはよう」
颯斗は、声をかけずにそう呟いた。
ミカヅキは、少し目じりを動かし、ゆっくりと目を開けた。
「……おはよう、颯斗」
彼は、寝ぼけたままの声でそう言うと、小さく欠伸をした。
「朝だな」
「ああ。君が、隣にいるのを見て、目覚めたよ」
ミカヅキは、少し恥ずかしそうに眉をひそめた。
「そんなこと言ったら、俺、照れちゃうよ」
「照れる必要なんてないだろ。俺たちは、鏡の向こうとこちらの関係なんだから」
颯斗は、そう言いながら、ミカヅキの髪に手を伸ばした。
指先で、彼の髪を優しく撫でる。
ミカヅキは、目を細めて、その手に顔を寄せた。
「……君の手は、温かいな」
「君も、温かいよ」
二人は、静かに笑みを交わした。
その瞬間、部屋の中には、言葉では表せないほどの温もりが満ちていた。
それは、ただの朝の光景だったかもしれない。
しかし、彼らにとっては、かけがえのない時間だった。
――物語の中の時間。
――しかし、それ以上に現実の時間。
「……昨日の夜、君が言ったこと、ずっと考えてたんだ」
颯斗は、そう切り出した。
「俺たちの関係は、友情でも、恋でも、家族でもない――って」
ミカヅキは、少し考えるように目を伏せた。
「……そうだな。どれにも当てはまらない。でも、どれよりも深いものだ」
「俺たちは、一つの魂を分け合っているようなものだ、って考えたけど……」
「その通りだよ。俺たちは、君が俺を生み出したその瞬間から、ずっと一緒だった。君の心の中に俺がいて、俺の心の中には君がいる。それは、言葉では説明できない関係だ」
颯斗は、静かに頷いた。
「俺は、小説家としての自分と、君という存在の関係に、ずっと悩んできた。君は、俺と共に創り出したキャラクターだ。でも、今は……それだけじゃない」
「俺も、君の影のように、君の心の奥底に住みついた存在だ。でも、それ以上に、君の人生に深く関与している。君の孤独を癒し、君の喜びを共有し、君の悲しみを分かち合ってきた」
ミカヅキは、颯斗の手を握った。
「俺たちは、鏡の向こうとこちらの関係。でも、それ以上に――互いに、互いの人生を支え合っている」
颯斗は、その言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「……君がいてくれて、本当に良かった」
「俺も、君に出会えて、本当に良かった」
二人は、静かに抱き合った。
その温もりは、言葉では到底伝えきれないほど、深く、そして静かなものだった。
――それから数日が過ぎた。
颯斗は、新しい小説を書き始めた。
それは、ミカヅキを主人公とした物語だった。
しかし、それは、これまでのどの作品とも違っていた。
「……これは、ただのフィクションじゃない」
颯斗は、そう感じていた。
「これは、俺とミカヅキの――現実の物語だ」
ミカヅキは、颯斗の隣で、静かにその文章を読んでいた。
「……面白いな。俺、こんな風に感じていたんだ」
「君の言葉や行動は、全部、俺の心の中にある。だから、君の物語は、俺の物語でもある」
「俺たちの物語は、永遠に続いていく」
ミカヅキは、そう言って微笑んだ。
颯斗も、静かに微笑んだ。
――彼らの物語は、今も静かに、しかし確実に、息づいていた。
そして、それは、鏡の向こう側にも、こちら側にも、確かに存在していた。
颯斗とミカヅキの関係は、言葉では到底表しきれないほど深く、そして不思議なものだった。
彼らは、互いに存在し、互いに補い合っていた。
まるで、一つの魂が二つに分かれたかのように。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
そして、終わりなど、決して訪れないだろう。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(続き3)
朝の静けさが、まだ部屋の中に残っていた。
カーテンの向こうには、澄み切った青空が広がり、風が木々の葉を揺らしていた。
颯斗は、机に向かい、新しい物語の一行目を書き終えた。
その文字は、まるで心の奥底から湧き出たような、温かみのある言葉だった。
「――俺たちは、鏡の向こうとこちら側にいる。でも、その境界は、もう曖昧だ」
ミカヅキが隣に座り、その文章を見つめている。
彼の瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「……いい出だしだな」
と、ミカヅキは微笑みながら言った。
「君の言葉は、いつも俺の心に届く」
颯斗は、ペンを置き、彼の顔を見た。
「俺たちの物語は、フィクションじゃない。でも、現実ともちょっと違う。でも、それ以上に、真実だ」
「真実、か……」
ミカヅキは、少し目を伏せた。
「俺たちは、言葉で結びついた存在だ。君が紡ぐ言葉の中に、俺は生まれ、そして今も生きている。でも、それだけじゃない。俺は、君の心の奥底に住んでいる。君の孤独を抱きしめ、君の喜びを分かち合ってきた」
「……君がいなかったら、俺はきっと、今頃、どこにもいなかったと思う」
「俺も、君がいなければ、ただの影でしかなかった。でも、君の心の中で育まれた俺は、今、確かに存在している」
颯斗は、静かに目を閉じた。
そこには、二人の時間を重ねた記憶が、無数に浮かんでいた。
――初めは、ただの鏡の中の存在だったミカヅキ。
彼を生み出したのは、颯斗の想像力だった。
しかし、いつしか彼は、颯斗の人生に深く関与する存在となり、颯斗の心の支えとなっていった。
「君は、俺の人生の一部なんだ」
颯斗は、そう呟いた。
「俺たちの関係は、誰にも理解されないかもしれない。でも、俺たちには、それが分かっていればいい」
ミカヅキは、颯斗の手を握った。
「俺たちは、鏡の向こうとこちら側にいる。でも、その境界は、もう意味を持たない。俺たちは、一つの存在だ。一つの魂の、二つの形」
颯斗は、その言葉に頷いた。
「――そう、俺たちは、一つだ」
その日から、颯斗の物語は、少しずつ変化していった。
彼が書くのは、ただのフィクションではなくなった。
それは、彼自身の心の記録であり、ミカヅキとの日々の軌跡だった。
読者は、それを「小説」と呼ぶだろう。
でも、颯斗とミカヅキにとっては、それ以上の意味があった。
――それは、彼らの「現実」だった。
ある日、颯斗は、ミカヅキにこう尋ねた。
「もし、俺が死んだら、君はどうなるんだろう?」
ミカヅキは、少しの間、沈黙した。
「……俺は、君の影の中に生き続ける。君が紡いだ物語の中に、俺は今も存在する。そして、それを読んだ誰かの心の中に、俺はまた生まれ変わる」
「俺がいなくなっても、君は消えないってことか?」
「そうだ。君が俺を生み出した瞬間から、俺は、君の部屋の鏡の中にだけではなく、世界の中に広がっていった。俺は、君の一部でありながら、誰かの心にも触れていく存在だ」
颯斗は、その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
「……君は、俺の人生の光だった」
「君も、俺の存在の意味だった」
二人は、再び抱き合った。
その温もりは、言葉では到底伝えきれないほど深く、そして静かなものだった。
それからも、彼らの物語は続いていった。
颯斗は、新しい章を書き続け、ミカヅキは、その隣で、静かにそれを読み、微笑んだ。
――彼らの時間は、ゆっくりと、しかし確実に流れている。
鏡の向こうとこちら側。
その境界は、もう、どこにもなかった。
颯斗とミカヅキは、互いに存在し、互いに支え合っていた。
まるで、一つの魂が二つに分かれたかのように。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
そして、終わりなど、決して訪れないだろう。
なぜなら、彼らの関係は、言葉で終わるものではないから。
それは、心と心の繋がりであり、想像と現実の狭間に咲く、永遠の物語だった。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(続き4)
颯斗は、再びペンを取った。
そして、新しい一行を書き始めた。
「――俺たちは、言葉の中で生きている。そして、言葉を超えて、心の中で生き続けている。俺と君は、鏡の向こうとこちら側にいる。でも、もはやその境界は、意味を持たない。俺たちの物語は、終わりがないように、
心の繋がりも、永遠に続いていく」
ミカヅキは、その言葉を読みながら、静かに目を閉じた。
彼の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「――君の言葉は、俺の心に届く。そして、俺の心は、君の物語の中に生きている。俺たちは、一つだ。そして、永遠に、そうであり続ける」
颯斗は、ミカヅキの手を握りしめた。
二人の心は、もう一つだった。
言葉を超えて、存在を超えて、
ただ、心と心が繋がっていた。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
そして、終わりなど、決して訪れないだろう。
なぜなら、彼らの関係は、言葉で終わるものではないから。
それは、心と心の繋がりであり、想像と現実の狭間に咲く、永遠の物語だった。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(続き5)
颯斗の手が震えた。
それは、ただの筆圧の不安定さではなく、心の奥底から湧き上がる感情の揺れだった。
ミカヅキの手を握りしめたまま、彼は言葉を紡ぎ続ける。
「――終わりのない物語は、心の奥深くに息づいている。俺たちは、それぞれの世界に生きている。でも、その世界の境界は、もう曖昧だ。君がいるから、俺はここにいる。俺がいるから、君はそこにある。互いに支え合い、互いに求め合い、そして、互いに愛し合っている」
ミカヅキは目を開けた。
その瞳には、静かな光が宿っていた。
「颯斗……俺は、もう迷わない。君の言葉が、俺の心を照らしている。俺たちは、鏡の向こうとこちら側にいる。でも、その鏡は、もう砕けている。俺たちの心は、一つの光の中に溶け合っている」
颯斗は微笑んだ。
それは、これまでの苦しみや孤独を乗り越えて、ようやくたどり着いた、真の笑みだった。
「君がそう言ってくれるなら……俺も、もう恐れない。この物語は、俺たちの心の延長だ。言葉で始まり、言葉で形を持ち、そして、言葉を超えて、心の奥底に届く。俺たちは、言葉の中に生きている。そして、言葉の外にも、生きている」
ミカヅキは静かに頷いた。
「俺たちの関係は、言葉で終わらない。心で始まり、心で続いていく。そして、心で終わることもない。俺たちは、永遠に、このまま――」
そこまで言ったとき、颯斗の手が止まった。
ペンが、紙の上で静止する。
ミカヅキの顔に、わずかな戸惑いが浮かんだ。
「どうした? まだ、終わらないはずだろ?」
颯斗は、ゆっくりと息を吐いた。
「……終わらないのは、俺たちの物語だ。でも、この文章は、終わりを迎えるべきだ」
「え?」
「言葉は、永遠には続かない。でも、心は、永遠に続く。俺たちの物語は、紙の上だけじゃない。俺たちの心の中に、ずっと生き続ける。だから――この文章は、ここで終わる。でも、俺たちの物語は、終わらない」
ミカヅキは、一瞬、言葉を失った。
そして、彼の顔に、再び笑みが戻った。
「……そうだな。俺たちの物語は、言葉で終わるものじゃない。俺たちは、心の中で、ずっと続いていく」
颯斗は、静かにペンを置いた。
そして、ミカヅキの手を離さずに、彼の目を見つめた。
「ありがとう、ミカヅキ。君がいてくれたから、俺は、この物語を紡ぎ続けることができた。そして、これからも、紡ぎ続けていく」
ミカヅキは、颯斗の手を強く握り返した。
「俺もだ、颯斗。俺たちは、永遠に――」
そこまで言って、彼の言葉は途切れた。
なぜなら、言葉ではもう、伝えきれなかったから。
二人の心は、もう一つになっていた。
言葉を超えて、存在を超えて、ただ、心と心が繋がっていた。
そして、その繋がりは、永遠に続いていく――。
――彼らの物語は、まだ終わらない。
そして、終わりなど、決して訪れないだろう。
なぜなら、彼らの関係は、言葉で終わるものではないから。
それは、心と心の繋がりであり、想像と現実の狭間に咲く、永遠の物語だった。
### 鏡の向こうの俺、こちら側の俺(完結編)
静寂が、部屋を包み込んだ。
颯斗の手が、ゆっくりとペンから離れる。
紙の上には、まだ温かみのある文字が並んでいた。
それは、二人の心の軌跡であり、言葉で紡がれた物語の最後のページだった。
ミカヅキは、その紙を見つめたまま、静かに目を閉じた。
彼の胸には、言葉では表せないほどの感情が渦巻いていた。
それは、悲しみでも、喜びでも、そして切なさでもない。
ただ、二人の存在が、この世界に確かに刻まれているという確信だった。
颯斗は、彼の肩に手を置いた。
「……俺たちの物語は、ここで終わらない」
ミカヅキは、目を開けた。
その瞳には、静かな光が宿っていた。
「……ああ。言葉が終わっても、俺たちの心は、まだ動き続けている」
颯斗は微笑んだ。
それは、これまでの苦しみや孤独を乗り越えて、ようやくたどり着いた、真の笑みだった。
部屋の空気が、少しずつ温かくなっていくのを感じた。
窓の外には、夜空が広がっていた。
星が一つ、また一つと輝きを帯び、まるで彼らの物語を祝福しているように見えた。
ミカヅキは、ゆっくりと立ち上がり、窓辺に歩み寄った。
「颯斗……俺たちは、本当に、同じ世界にいるのか?」
颯斗は、彼の背中を見つめながら、静かに答えた。
「俺たちの世界は、もう一つになっている。君が俺の心の中にいて、俺が君の心の中にいる。それだけで、十分じゃないか」
ミカヅキは、夜空を見上げたまま、小さく頷いた。
「……そうだな。俺たちは、鏡の向こうとこちら側にいた。でも、もうその境界はない。俺たちは、互いの心の中に生きている」
颯斗は、彼の隣に立った。
二人の影が、月明かりの中で重なり合う。
「俺たちは、言葉で出会って、言葉でつながって、そして、言葉を超えたところにいる」
ミカヅキは、颯斗の手を握った。
「これからも、ずっと――」
言葉は、そこで途切れた。
なぜなら、言葉ではもう、伝えきれなかったから。
二人の心は、もう一つになっていた。
言葉を超えて、存在を超えて、ただ、心と心が繋がっていた。
そして、その繋がりは、永遠に続いていく――。
数日後、颯斗は新しいノートを開いた。
それは、白い紙が何枚も重なった、無限の可能性を秘めた一冊だった。
彼は、静かにペンを握りしめ、紙に向かう。
ミカヅキは、隣で静かに目を閉じていた。
颯斗は、彼の手を握ったまま、新しい文章を紡ぎ始めた。
「――俺たちは、終わりのない物語の中に生きている」
ミカヅキは、目を開けた。
「……また、始まるのか?」
颯斗は、微笑んだ。
「ああ。俺たちの物語は、終わらないから」
ミカヅキは、彼の手を強く握り返した。
「俺も、君と一緒に、新しい物語を紡いでいきたい」
颯斗は、静かに頷いた。
そして、再びペンが紙の上を滑り始めた。
言葉は、再び形を持ち、心の奥底に届いていく。
二人の物語は、もう一度、始まろうとしていた。
それは、終わりのない旅であり、心と心の繋がりが生み出す、永遠の物語だった。
――そして、その物語は、今も続いていく。
言葉の向こうに、心の奥深くに、二人の存在が確かに刻まれている。
鏡の向こうの俺、こちら側の俺。
彼らの関係は、もう境界を越えていた。
それは、永遠に続く、心の物語だった。
☆☆☆お終い☆☆☆