第12夜 紡がれる友情
「やっぱり、タラにつくってもらったほうがいいんじゃない」
「だめです。自分でつくらないと意味がないの」
匙を投げそうになるミナを、タラが軽く諌めた。
細かい手作業が大の苦手なミナにとって、組紐作りはほとんど苦行に等しい。
気づけば、今日一日中、この紐とにらめっこしている気がする。それがまた余計に気を滅入らせる。
とはいえ、タラの言うとおりであった。ミナが青の組紐をエステルに送ろうとしているのは、一年前の気持ちを返すためだったのだから。
あれから一年――。リュートを壊したミナをエステルが庇ってくれたあの日以来、ミナの中でエステルへの敬慕はますます深まっていた。
今回は、その気持ちを伝える絶好の機会だった。
「あれからもう一年。早いね」
隣にいるタラが、紐を指先で弄びながら、しみじみと呟いた。
「そういえば、あの後、女官長に『友だちのような関係でいるのは構いません。でも、今回のことに懲りて、身を慎みなさい』って怒られたよね」
タラが懐かしそうに笑うと、ミナも手を止めて、軽く笑いながら言葉を返す
「わたしたちが驚いていたら、『あれだけ大きな声でいつも騒いでいたら、わかります』って言われちゃったよね」
フェリザの声真似をしたミナが面白かったのか、タラが吹き出し、ふたりの笑い声が、静かな部屋に小さく響いた。
翌日――。
ロザナがエステルの仕度に来る前の早朝、ミナとタラはこっそりとエステルの寝室に忍び込んだ。
「エステル、エステル!」
声を潜めながら、ミナが寝ているエステルを揺さぶる。
「ん?」
エステルは目を半分開け、寝ぼけた顔でこちらを見た。その無防備な表情が、思わず羨ましくなるほど可愛らしい。
「ミナとタラじゃない。どうしたの?」
ようやく状況を飲み込んだエステルが、柔らかな笑顔を浮かべて問いかけてくる。
「誕生日の贈り物を持ってきたの!」
「えっ、本当に!」
ミナの声にエステルは飛び起きると、子どものように目を輝かせ、喜びを隠そうともしない。その純粋な反応は、誕生日が一昨日だったことなど、まるで気にしていないかのようだった。
「ごめんなさい。全然間に合わなくて……」
ミナはおずおずと青の組紐を差し出す。それは結局タラに手伝ってもらい、少し手直しの跡が残っているものだったが――。
エステルはそんなことを気にする様子もなく、組紐を嬉しそうに見つめていた。その視線は、まるで世界で一番美しいものを手にしたかのようだった。
本当は前々から準備をしようと思っていたが、エステルに何を贈れば喜ばれるのかがわからず、一昨日のバザールに出かけた際に決めることにしたのだった。
そこで青の組紐を作ることを思いついたが、皇妃であるエステルが自ら誕生日会の仕度を整えている最中、自分たちだけが部屋に篭るわけにもいかなかった。そんな理由で完成は今日まで持ち越されてしまったのだ。
しかし――。
組紐を手に、嬉しそうに微笑むエステルの姿を見ていると、あれこれ悩んだこと自体が杞憂だったのかもしれないと思えた。その純粋な喜びの表情が、すべてを包み込むように感じられた。
「どれにつけようかな……」
エステルは少し悩んだ様子で、自分の衣裳をいくつか広げて眺めていた。
その言葉に違和感を覚え、ミナは手首につけるためのものだと伝えようと口を開きかけた。その瞬間、エステルが笑顔でこちらを振り返る。
「この服の裾につけられるかな?」
それは、自室でエステルが普段羽織っている、それは、自室でエステルが普段羽織っている、飾り気はないものの、織りの細やかさが際立つ高級感のある衣だった。
「でも……それ、手首につけるものなんだよね」
自分の技術が拙いために、エステルに本来の使い方が伝わらなかったのかもしれない――。そう思うと、ミナは少し落ち込みながらも、そう答えた。
「うん、そうなんだけど、手首につけると汚れることもあるかなって。それに、こっちの方が目立つでしょ?」
エステルは真顔で言う。その表情に、何の迷いも見えなかった。
皇妃が手首に汚れをつけるような作業に関わることがあるようには思えない。
だが――。
食器の片付けを始めようとしてロザナに止められ、「それなら」と灰かきに取りかかったエステルの姿が脳裏に蘇る。その光景を思い出すと、ミナは自分の固定観念を手放さざるを得なかった。
タラが青い房を丁寧に縫い付けると、その房はエステルの衣に美しく映えた。控えめな形状だからこそ、かえってその存在感が際立ち、まるでエステルの純粋さと優美さを象徴しているように見えた。
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