第7話 閃光のレイ
「おかえりなさいませ!随分と遅かったですね!ゴブリンいませんでしたか?」
ギルドに戻るとソフィアさんが迎えてくれた。
「いえ、いたんですけどゴブリン達の耳を切るのに時間がかかってしまって…確認お願いします」
俺はゴブリンの耳でパンパンになった麻袋をソフィアさんに渡す。
「随分と大きいですね…」
ソフィアさんは袋を開けた瞬間にまた固まってしまった。
俺は今日、何回ソフィアさんを固まらせればいいんだ。
「…この大きい耳はなんですか…?」
「え?ああ、最後に巨大ゴブリンがいてそれも討伐してきたんですが、まずかったでしょうか?」
その言葉にギルド内が静まりかえった。
「巨大ゴブリン?まさか…」
「いやいや、まさか!あいつら新人だろ?」
なんだこの感じ。
まさかゴブリンじゃなかったのか?
いやでも見た目はどうみても…
「レイ様、シュカ様。確認して参りますので少々お待ちください。」
そう言ったソフィアさんは、そそくさと奥に走って行った。
「なあシュカ、俺たちまずいことしたんじゃねーか?」
シュカに小声でそう聞くとシュカは堂々と大声を上げた。
「いえ、レイ様の閃光の剣で一瞬にして倒した巨大ゴブリンにみんなビビってるだけかと」
「おい、おま、声でか…」
シュカのバカでかい声に周りはざわつく。
「巨大ゴブリンを一瞬で?何者だよ」
「あ、あいつこの前新人潰しを返り討ちにしてたやつだよ」
「は?あのダントを!?」
…ほらもう目立つ。
シュカはご機嫌そうに「レイ様は最強なのです」と笑っている。
こいつ、人の気も知らないで。
「すみません、お待たせしました!」
そこで息を切らしたソフィアさんが帰ってきた。
「ギルドマスターがお呼びですので、ついてきてもらえますか?」
え?ギルドマスター?
「こちらへどうぞ」
ソフィアさんについていくと、一番奥の部屋に案内された。
部屋に入ると、デスクの前にいかにも強そうなゴツい男性が立っていた。
「初めまして。ギルドマスターのブラッドだ。よろしく」
低い、威圧感のある声に少し俺の顔が強張った。
「初めまして、レイです。」
「シュカです。」
「どうぞ座ってくれ」
その言葉に俺たちはソファに腰を下ろす。
「話は聞いたよ。すごい新人2人がいるとな」
「私などレイ様の足元にも及びません!ギルドマスター、レイ様はFランクなどでなくSランク、いや勇者にも匹敵されるお方です!」
シュカ興奮気味に俺の話をする。
やめてくれ、こっちが恥ずかしいから。
「ははは、面白いな。でも本当にすごいよ。登録初日でゴブリン60匹にゴブリンキングを討伐してきたのはギルド創設以来、君たちが初めてだ。」
シュカ、ゴブリン60匹も倒してたのか。
通りで耳切るのにあんなに時間かかるはずだ。
そして、なに?ゴブリンキング?
「ゴブリンキングってあの巨大ゴブリンのことですか?」
「はは、知らなかったのか?そうだ。ゴブリンキングは群れを統率し、知恵を持つ異端種だ。見た目もただ大きいだけじゃなく、特に戦闘力が高いゴブリンでCランク以上の獲物だ」
「さすがレイ様!Cランク以上の獲物をお一人で倒されてしまうなんて!」
シュカのその言葉にブラッドさんは心底驚いたような顔をした。
「レイ、1人で倒したのか?」
「はい!レイ様は閃光の剣により一瞬にしてゴブリンキングを倒されました!」
シュカはあの時の状況を事細かく話しはじめた。
大体なんだよ、閃光の剣って…。
俺何もしてないのに。
こうしてブラッドさんにも間違った情報が伝わってしまった。
「驚いた。下手なCランク冒険者でも単独じゃ勝てない。ましてや一撃で沈めるなんて…正直、にわかには信じがたい話だよ。」
ギルドマスターがそこまで…
そう思うとこの能力の破格さが際立ってくるな…
これ、ちゃんとした使い方をすればとんでもない能力になるんじゃないか…?
「やはり君たち2人をFランクに留めておくのはもったいないな。ほんとはCランク位に一気に上げたいところだが、登録初日ということもありギルド内からの体裁もあってな、明日から1つ上げてEランクってことでどうだろうか?」
「もちろんです!ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
まさか登録初日でランクが上がるとは…。
明日からまた稼ぎやすくなりそうだ。
「受付に言っておくから、明日またギルドに来てくれ。それとこれを」
ブラッドさんはパンパンになった巾着のような袋を出した。
受け取り中を見てみると、溢れんばかりの金貨と銀貨が入っている。
「今回の報酬だ。9600エメル入っている。」
きゅ、9600!?!
なんてこった。
1日で登録料と更新料以上を稼げてしまった。
それにこの世界で半年は不自由なく過ごせるぐらいの額だぞ。
「こ、こんなにいいんでしょうか」
「ゴブリンキングとゴブリン60匹の討伐料だ。相場は大体こんなもんだぞ。」
俺はシュカと目を合わせる。
この調子ならすぐに首都に行けるぐらいのお金は貯まるかもしれない。
「ありがとうございます!」
目の前の大金に動揺しながらも俺はありがたく受け取った。
「じゃあ、この調子で明日からもよろしく頼むな」
「あの、ブラッドさん」
椅子から腰を上げたブラッドさんを呼び止める。
「少しお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「話?ああ、なんだ?」
ブラッドさんはまた椅子に座り直す。
「シュカは先に戻っててくれ」
「なぜですか!?シュカも聞きたいです!」
「頼む、今度ちゃんと話すから」
「…わかりました、絶対ですよ?」
淡々とそう言った俺を見て、何かを察したのかシュカは肩を落として部屋を出て行った。
「話ってなんだ?」
そう言ったブラッドさんに続いて、俺も口を開いた。
「あの、自分の思い通りになる能力って知ってますか?」
「は?」
「相手の目を見たら、自分に従順になるってゆうか、自分に都合がよくなるんです。例えば、お店に行ったらサービスをくれたり、輩に絡まれた時には相手の方から逃げてくれたり。」
「…それは小説の話かなんかか?」
やっぱりそうだよな。
こんな夢のような話信じれるはずがないか。
「俺の話なんです。何日か前から相手の目を見ると目が赤く光って、それから俺に都合のいいことばかり起きていて。恥ずかしながら自分の能力が何なのか分かっていないため、失礼とは思いながらも、念の為こうしてフードを被っているんです。ブラッドさんの目をしっかり見ないように。」
「…それは偶然ではなくほんとに能力で間違いないのか?」
「はい、俺も最初は偶然かと思ってたのですが、実は今日ゴブリンキングを倒した時……さっきシュカが話してたことですが、間違いがあるんです。」
「間違い?」
ブラッドさんの表情が怪奇な面持ちに変わる。
「シュカは俺が剣で倒したと言ってますが、俺は剣を持って走っただけで斬ってないんです。ただその前にゴブリンキングと目が合ったときにゴブリンキングの目が赤く光り、そしたらいつの間にか死んでたって感じで…」
「目を見たらゴブリンキングが勝手に死んだということか?」
「はい、わかってるのは対象の目が赤く光ることと、それが魔物にも効くということだけで」
「信じられないな…」
ブラッドさんは呆気に取られたように口をポカンと開けている。
この話をブラッドさんにした理由はちゃんとある。まず1日でも早くこの能力が何なのか知りたい。これから冒険者をする上で、自分でもどうやって倒したかわからないのは致命的すぎる。だから俺よりもこの世界に詳しい人なら何か知ってるのではないかと思った。
「まず俺はそんな能力聞いたことがない。」
ブラッドさんのその言葉に俺は肩を落とす。
そうだよな、こんなありえない能力…
「だが、本当にそんな能力があるとすれば、国をも巻き込む一大事だ。」
「国、ですか?」
「ああ、自分の思い通りになる能力なんてこの世の全員が欲しがるだろう。それが国にバレたらレイ、お前は必ず捕らえられて政治に利用されるだろうな。国の魔術師団、現王が黙ってないだろう。」
たしかに、俺の目的は現王への復讐。それが逆に狙われる立場になっては元も子もない。
「その能力の件は、俺のツテで調べてみる。」
「ほんとですか!?」
「ああ、だから能力が明らかになるまでは誰にも言わない方がいい。あのシュカが言ってた閃光?のなんとかってやつで誤魔化してな。」
ああ、やっぱりブラッドさんに相談してよかった。
「わかりました、よろしくお願いします」
俺は深く一礼して、部屋を後にした。
これから、俺のこの能力が明らかになるのはそう遠い未来ではなかった。