第4話 未知の能力
「さすがレイ様!宿のご主人までをも虜にされたのですね!老若男女関係なく魅了されるその美貌…さすがです…」
「シュカ、お前馬鹿にしてないか?」
「とんでもない!シュカは感激しております!レイ様にもこの広い部屋にも!」
シュカは子どものようにはしゃぎながら、部屋を走り回る。
にしても広すぎる。これ20畳以上はあるんじゃないか。
部屋が2つにリビング、風呂トイレ別でキッチンまである。正直何の文句も出ない。
ここは本来国の要人などに貸し出すVIPの部屋らしいのだが、特別にと貸してくれた。
こんな若い男女2人に。どう考えてもおかしい。
俺はふかふかのソファに座って、受付の時のことを思い出す。
最初はもう部屋が空いてないと適当にあしらわれていたが、俺と目が合った瞬間に宿主の目が赤く光り、対応が90度変わった。
やっぱりさっきの酒場の対応といい、これはなんかの能力なのではないか?
目が光ると俺の思い通りになる、的な。
幸運の類か?
どちらにしても偶然とは思えない。
だとしたらいつから…
深く考え込む俺を覗き込むシュカ。
「レイ様?どうかされましたか?」
「いやなんでもない。シャワー浴びてくる。」
もういい、ちょっと考えすぎた。
頭を冷やそう。
「シャ、シャワーですか…?」
「なんだよ」
明らかに固まるシュカ。
「いえ、行ってらっしゃいませ」
様子が変なシュカを横目に俺は浴室に向かった。
この世界では相当な金持ちでないかぎり家に浴室なんてないのが普通だ。
毎日シャワーを浴びれるのはとてもありがたいな。
シャワーから出ると、シュカはソファで正座をしていた。
「シュカ?」
俺が声をかけると目をかっ開いてみるみる顔を赤くする。
「れれれれれれれ、レイ様」
「よくもそこまで噛み倒せたな」
「そそそ、その格好は」
「ああ、浴室の前に置いてあった」
浴室の前にはバスローブが置いてあった。さすがVIP専用ルーム。一気に高級感が増す。
「レイ様、その格好はえろ…美しすぎて死人が出ます」
エロって言ったな今。
自分の言葉に耐えきれず、顔を真っ赤にしてクッションに突っ伏した。
さっきまでぴょんぴょん跳ねていたのが嘘みたいに、クッションを抱えたまま微動だにしない
「レイ様、お願いがあります。」
「…なんだよ」
急に真剣になって顔を上げたシュカの声に俺は耳を傾ける。
「このままでは私が夜、我慢できずにレイ様を襲いかねないので明日、必ず部屋着も一緒に買いましょう。」
真剣に何言ってんだこいつは。
やばい、キャラがブレる。
それが王道美少女の言うセリフか?
「馬鹿なこと言ってないで早くお前もシャワー浴びてこい」
「え?レイ様も一緒に?」
「今入ってきたんだよ!さっさと行け!」
「はーい」拗ねたようにそう言って浴室に向かうシュカ。
そして戻ったシュカに俺は見事に固まってしまった。
「レイ様!どうですか?お揃いです!」
きゃっきゃと飛び跳ねるシュカの胸元は信じられないぐらいはだけている。
なんだその胸の主張は。
けしからん。
「明日絶対部屋着も買おうな。」
俺は興奮を悟られないよう、淡々とそう言った。
「え、やっぱり似合ってないんですね…」
さっきまで花が咲いたようにはしゃいでいた表情が、一瞬でしおれた花のようにしゅんと萎んだ。
声もさっきのはしゃぎ声とは打って変わって、小さくかすれている。
胸元をそっと押さえながら、視線を床に落としてつぶやいた。
「そんなことより、シュカ、お前金は持ってるか?」
「そんなことより!?……いえ、1000エメルほどしか」
1000エメルか。この国の通貨はエメルで1エメル=1円ほど。物価は安いものの、1000エメルだと1ヶ月生活するのがやっとなほどだ。
「そうだよな、俺もあまり手持ちはもってない。首都に向かうにもこのままでは途中で飢え死にしてしまうから、ここである程度稼いでから首都には出発しよう。」
「申し訳ありません!このシュカ、明日から朝から晩まで働いて参りますので、レイ様はどうぞここでくつろいでて……ふぐっ」
俺はシュカの口を手で塞ぐ。
「馬鹿か。これは俺の復讐の旅だぞ。俺が稼がなくてどうすんだ。」
ったく、エルフってみんなこんなに献身的なのか?心配になるレベルだぞ。
「そうですか……では冒険者はどうでしょう?」
「冒険者?」
「はい!ギルドから出された依頼を受けて、報酬をもらう職業です!高レベルのモンスター討伐とかだと結構な大金がもらえたりするそうですよ!」
冒険者…RPGでよくあるやつだ。
「そんな簡単になれるのか?」
「はい!登録さえすれば、すぐに依頼を受けることができるはずです!私は以前別の国で登録をしたことがあるため、レイ様の登録さえできればすぐに始められるかと!」
たしかに、復讐のためにはある程度強くならないといけないから特訓と考えたら丁度いいかもな。
それに、この能力についてもなにかわかるかもしれない…。
「よし、そうしよう」
「はい!では明日冒険者ギルドに行ってみましょう!」