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第2話 絶望の日

7年後


俺は15歳になり、想像通り、絶世の美少年に育った俺は、母さんに似てると言われることが増えた。




そして、違和感を感じることも増えた。


成長するにつれ、耳が尖り、牙のように歯も尖り始めた。まるで、吸血鬼のように。


あくまでも前世の知識であって、この世界に吸血鬼が存在してるのかはわからない。けど母さんにそれを聞いた時、「大丈夫、あなたは人間よ」とひどく怯えたようにそう言ったのを見て、俺はなんとなく気にするのをやめた。




今では尖った耳を髪で隠し、普通の人としてなんなく生活できている。




そしてこの世界では15歳が成人らしく、俺は今郵便配達の仕事をしていた。




「よおレイ!今日飲みにいこうぜ!」


陽気に話しかけてきたこの男はジャン。


職場の同期で大の酒好き。




「えーやだよ。お前飲ませてくるもん」


「もう飲ませねーから!な?」


俺が成人になった時もひどかった。


前世と合わせて初めて経験した二日酔いはもう二度とごめんだ。




「…わかったよ」


「よしきた!じゃ、仕事終わりにいつものとこな!」


そう言うと、ジャンは口笛を吹きながらスキップで出ていった。




「いらっしゃいませ〜」


「おーレイ来たか!こっちだ!」


仕事が終わり、職場の目の前にある酒屋を覗くと、すでに机に何本もの酒の空き瓶を並べたジャンがいた。


こいつちゃんと仕事してんのか…。


俺は心配になりながらも、席に腰をかけた。




「なんか適当に注文してくるな!」


ジャンはそう言って注文をしに席を離れる。


その時、女性が俺に声をかけた。


「あの、すみません。もしお一人でしたら一緒に飲みませんか?」


「すみません、連れがいるので」


女性は顔を赤くし「失礼しました」と言って、その場を去っていった。




ジャンの方を見ると、ニヤニヤしながら俺を見ている。


「なんだよ」


「レイ、さっきの女の子断ったのか?結構可愛かったぞ。」


「断るに決まってんだろ。」


「もったいねー!」


「俺はいい。ジャンがいけよ。」




ジャンは、大きなため息を一つこぼす。


「レイってほんと女に興味ねーよな。局の受付の女の子だってみんなレイと仲良くなりたいって言ってるのに全部断っちまうし。俺がその顔なら毎日遊びまくるのにな」




ああ、俺もそう最初は思ってたよ。


けどこの7年、俺はもう一生分モテた。


毎日告白され、追いかけまわされ、私物がなくなるのは日常茶飯事。家に呼ばれれば、ベッドに押し倒され。とんとん拍子で童貞卒業。いやむしろもう、童貞を奪われたのほうが近いかもしれない。




俺は知らなかった。モテるやつにもモテるやつの苦悩があるのだ。




「俺は静かに暮らしたい。」


母さんと2人、幸せに暮らす。


それが今の俺の目標だ。




「無理だろ、その顔じゃ」


そう言ったジャンを無視して俺は酒を飲んだ。




その後は、ジャンと他愛もない話をした。


仕事の話や、世間話。ジャンが最近デートした女の話。そしてだんだん夜は更けていった。




「じゃそろそろ帰るわ」


「え!?もうかよ!」


「ああ、母さんに飲みにいくこと言ってないし。」


「出たよ、レイ恒例の断り文句。母さん」


「うっせ、また明日な」


俺は適当にお金を置き、店を出た。




母さん、ちゃんとご飯食べたかな。


俺がいないと全く食べないからな。


俺は街で母さんのお気に入りのアップルパイを買って帰る。


この街にしてはめずらしく、静かな夜だった。




家の前まで来た時、知らない人影が家から出ていくのが見えた。


全身真っ黒でガタイのいい男のような人影。


…母さんじゃない。


嫌な予感が全身を駆け巡る。




俺は、駆け足で家に帰る。


玄関のドアを開けて、目に入った光景に俺は絶句する。


買ってきたアップルパイが地面に落ちる音がした。




「…母さん?」


母さんは胸に杭のようなものを刺されて、血を流して倒れていた。


全身の血の気が引いた。


俺は母さんのそばに駆け寄る。


元々白い顔が、もっと白く血色がなくなっていた。




「母さん…母さん!!」


状況が把握できず、頭が混乱して手が震える。


この刺さってるものを抜けばいいのか?


でも抜いたら…


こんな時に何もできない自分に心底腹が立った。


自動的に出てくる涙を流しながらただ母さんの名前を呼ぶ。


その時、母さんの手が俺の手を包み込んだ。




生きてる…まだ生きてる。




「……レ、イ……に、げて…」


逃げて?どこに?


母さんがいない世界に?




「無理だよ!!俺母さんがいないとだめだよ!ちょっと待って、今助ける…」


母さんの手をほどいて、杭を抜こうとした瞬間、母さんは俺を止めるようにまた手を握り直した。




「……な、んで…」


「……レイ…て、がみ…」


手紙?


母さんの横を見ると、一部が血で真っ赤に染まった手紙があった。


この手紙を読めってことか?


なんだこれ、まるで遺言みたいな…




「…いやだ、母さん…いくな…ひとりにしないでくれ…」


切実だった。


縋り付くように必死に訴えた。


そんな俺を見て母さんは笑ってるような、悲しんでるようなそんな顔をした気がする。




「…レイ……ごめんね」




それが母さんの最後の言葉だった。




俺はそれからしばらく子どものように泣きじゃくった。


大切な人がいなくなるってこうゆう気持ちなのか。前世の俺が死んだ時、誰かこんなふうに泣いてくれただろうか、そう思った。




少し落ち着いた頃、母さんが遺してくれた手紙を読む。


そこには、衝撃的な内容が記されてあった。




レイへ




あなたがこの手紙を読んでいる頃には、私はいないのかもしれないわね。本当は直接言いたかったのだけれど、勇気がでなかった臆病な私を許してください。




まずあなたのことについて。あなたが成長するにつれ、気になっていた容姿の違和感に私は「あなたは人間」だと言い続けた。




だけど違うの。あなたも私も人間ではない。私は人の血を吸う吸血鬼という種族であなたは、吸血鬼と人間の間に生まれた子、この世ではダンピールと言われる存在よ。あなたの尖った耳も牙もすぐに傷が治ってしまう治癒の力も吸血鬼の特徴よ。吸血鬼は人の血を飲むことで生きながらえる種族。だけど私はあなたを産んでからは1回も人の血を飲まなかった。あなたを人間として育てたかったから。




それはこの国が人間以外の種族が迫害される国だから。母さんの家族も王の刺客によって襲われた。そして家族と離れ離れになり、行き場がなくなった私を拾ったのがあなたのお父さんである国王、カイザル・セルギウス。私は逆らえずに吸血鬼であることを隠して、国王の娼婦になった。そしてある日、吸血衝動を抑えられず国王の首を噛んでしまったの。それに激怒した国王は私を殺そうとした。だけど、吸血鬼の治癒能力で奇跡的に生き延び、こっそり逃げ出したの。




それからは逃亡の日々だったわ。いつ見つかって殺されるかの不安と戦う毎日。そんな時にレイ、あなたがお腹にいることがわかった。迷いもせず産んだわ。レイを産んでからは逃亡してたのを忘れるくらい幸せな日々だった。こんな日常を壊したくなかった。レイには人間として、平和に暮らしてほしかった。それが、今まであなたがダンピールであることを隠し通してきた理由。全部私のわがままだった、本当にごめんなさい。




だけど、あなたの存在がバレたら、きっと私のように命を狙われてしまう。あなたは何も悪くない、幸せになる資格がある。だからこれからも人間として生きてほしい。そして幸せになって。母さんからの最後のお願いよ。




最後まで母親らしいこともろくにできなかったけどあなたを産んだことが母さんの1番の幸せだったわ。




私のレイ、ずっと愛してる。




生まれてきてくれてありがとう。




母さんより






これを読んだ俺は、今まで感じたことのない感情に襲われていた。




「…カイザル…セルギウス…」




国王で俺の父親。


父親が母さんを殺した。


俺の大事な…




これは怒りだ。


はらわたが煮えくりかえる思いだった。




絶対に許さない。


俺が必ずこの手で、




「…殺してやる」




俺が復讐を誓った時、一瞬目の前が真っ赤に光って、すさまじい頭痛が俺を襲った。




「……ッく、」


感じたことのない痛みに、俺はその場で気絶した。

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