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神を堕とす日    作者: 伯凌
第壱章  編
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第弎話 探し物

 山から顔を出す朝日の光と風が揺れる音でふいに目を覚ます。まだ手と足は眠気から覚めておらず、意識だけが覚醒している状態だったが昨日話している途中で寝落ちしてしまった事だけを曖昧ながらにも思い出してくる。

 

 横を見れば閉じた睫毛も枕に広がる黒髪が眠り姫のように微笑を浮かべながら寝ている少女がいた。

 

 起こさないように静かに毛布から抜け出してペットポトルに残っていた水3分の2ほどを一気に飲み干す。

 

 一気に飲んだからか少し噎せて咳き込む。


 ふと上を見上げれば昇りかけている太陽が目に映った。

 あの村にいた時は日が昇る前に起きてとっくに山で剣の稽古をしていた為こうやってじっくりと太陽を眺めることは珍しかったので思わず見入る。


 「やっぱ光って綺麗だな...」


  消え入りそうな声でぽつりと呟いた。

 

 ――そうだ、忘れてた。危ない危ない――

 

 呟いた言葉でふと我に返り布団の近くに戻り探し物を見つければ手に持つ。


 「ちゃんと手入れしないとな。しかも今日は集兵式の日だ。一段と丁寧にしてやるからな。」

 

 相手がいるかのように話しかける先には鞘にしっかりと納められているひとつの剣があった。

 

 決して剣に通じてない人でもその剣を見れば「お見事」と言えるほどの雰囲気を纏っており、錆も汚れも決してない折れることを知らぬ堂々たるものであった。


 何故そのような素晴らしい剣を連命(れんや)が持っているかと言うと時は7年前に遡る。















 10年前に村を焼かれ舞に命を助けられた連命(れんや)は復讐に燃え、自らの体を顧みずひたすら剣を握る生活を続けていた。

 

 だが如何せん舞が匿ってくれた村は平和な所だったので剣に通じてる人など居る訳もなく、3年も経てば実力が向上して行かないことが自分でも痛いほど実感し、いいようのない絶望に苛まれていた。

 

 そんな時に連命(れんや)の耳にある噂が流れた。

 

 ――ここから10里先の山に刀狂が住み着いているらしい――


 ――刀狂って刀聖と二刀で知られるあの!?――

  

 ――戦争で大活躍した大物じゃねぇか。なんでそんな奴があんな山に... ――


 ――さぁな隠居したのか何か企んでるのか知らないが――

 

 ――あの山はあの忌々しい人間が神様の封印に使った剣もある――


 ――あれを処分しようとどの種族も動いたって聞いたがもその剣を抜くことが出来なかったとさ――


 ――まぁあんな気味悪い所近寄らないのが吉だ――










 この国の情勢をほぼ理解していない物知らずの連命(れんや)でもその名前を聞いた事はあった。


 昔母からこんな風に聞かせてくれたことがある。


 「この国にはね刀聖と刀狂っていう物凄く強い兵士さんがいるのよ。誰もその2人には勝てないみたい。だから2人合わせてニ刀って呼ばれてるらしいわ。」


 当時は武闘にも兵にも微塵も興味が無かった俺は聞き流していたのだが一刻も早く強くなりたいと願っていた今では聞き流す事は到底無理な話となっていた。


 手に木刀と僅かばかりの食料と水を持っていきいざ刀狂のいる山へ!と意気込んでいたのだが当然のように舞に強く止められ、1週間ほど足止めをされたのだが強い意志で制止を振り切りついに山へと向かっていく。

 今思えば刀狂がどんな姿をしているのか、そもそも危険人物でないのかという考慮を一切せずに会おうとしていたのだから短慮すぎるなと思わず苦笑いをしてしまう。

 正直かなり前の事で自分も会った時の事を明確には覚えていないのだが、自分が見た類いの人間とは一線を離れていてその姿に息を止めるほど見つめていたのは唯一覚えていた。


 

 

 男か女かもはっきりしない中性的な顔立ちに透き通るような空色の髪をしている人が大きな岩に腰掛けていた。

 剣を持っている俺を見るやいなや2度見する勢いで驚き、尚面白そうな感情を持ち合わせた顔でこう言っていた。


 「俺でもアイツでも抜けなかったのに。君何者なの?」


 別れる最後まで名前を教えてくれる事は無かった。だが刀狂と呼ばれるのは不満のようでこう呼べと言われていた。






 「師匠?」

 「うわぁ!あぁ、舞か、びっくりしたよ。起きてたのか」


 俺の呟きに応えがあったので思わず驚いて後ろを振り向くと目を瞬かせてる舞がいた。


 「うん、さっき起きたの。起こしてくれれば良かったのに。」

 「すやすや寝てたんだから起こせるわけねぇよ。それに昨日は歩き詰めだったしな。休めるうちに休んだ方がいい。」

 「連命(れんや)は優しいね。でも早起きしてる連命(れんや)に言われても説得力ないんだけど!」


 そう言うと頬を膨らませて納得できない!と言わんばかりの圧力をかけてくる。

 

 「ごめんって、ついいつもの癖で早起きしちまうんだよ。そ、それより朝ごはん食べようぜ。鞄に入ってるだろ?」


 こういう時の舞は完全に怒らせるとかなり面倒な事になると悟り、急いで話題を変えようと鞄を指さす。


 「あぁ、うん皆が作ってくれたの入ってるよ。何味のおにぎりにする? 」


 話題を逸らされたことを特に咎めるそぶりも無く、どれにする?といくつかおにぎりを取り出す。


 「梅干しで」


 そう言えば舞がそう言うと思ったとそそくさ梅干し入のおにぎりを連命(れんや)に渡す。


 「ん、うまい。舞も食べてみろよ」

 「うん。⋯わ、ほんとだ美味しい!あんまり酸っぱくないから私でも食べれる」

 「だろ?」


 2人でおにぎりを頬張りながらほんの少し肌寒い風に吹かれながら朝ごはんの時間を過ごす。












 「舞、準備出来たか?」

 「うん、ばっちり。忘れ物も無いよ。」

 「それはなによりだ。さぁあと2時間くらいで城き着くぞ」

 

 いざ最終目的地の聖戸へと向かうため、荷物を背負いながら山を下っていく。

 現在の時刻は6時半。聖戸での招集は10時のため、1時間程は自由時間が取れると計算して思わず口角を上げる。

 

 「1時間くらいは聖戸の見物が出来そうだ。色んな店があるってじいさん達も言ってた。」

 「じゃあ買い物出来そうなんだ!楽しみだな⋯色々珍しい物もあるんだって!」

 

 舞も初めての聖戸には遠足に行く子供のようにわくわくしていている様子である。

 実は最初聖戸に行くとなった時、尋常でない程の怯えを見せ、人見知りであり人と関わる事が億劫となっている彼女が恐怖、悲観、等の様子を見せることは少なくなかったのだが、その時彼女が見せた様子は今までとはあまりにも態度が違く、真面目に隣町にいる医者に診て貰おうかと悩んでいた程だった。

 今はその態度も軟化していてまだ不安な様子はあるものの好奇心も芽生えてるようで安堵のため息を思わず洩らした。









 そして紆余曲折、途中で動物に襲われ大怪我を負った、突如の体調不良で動かざるを得ない状況になってしまった、途中で見知らぬおじさんに声を掛けられた、などとか言う状況に遭う事は無く、我々一行は無事


 



 「おぉー!!!!」

 「ここが聖戸?」

 





 かくして計10時間の道路の末、聖戸に辿り着いたのである。












 「よってらっしゃい!みてらっしゃい!今日は新鮮な鮪が揚がってるよ!」

 「こちらの御守りは如何ですか〜?年に1回の集兵式の日、願掛けにおすすめですよ」

 「上品な絹で編んだ上着はどうだい?まだ肌寒い今におすすめだよ!」



 「わ、わぁ...思ってたより人が多いね...」

 「だな...こりゃ1時間じゃ見て回れねぇぞ...」



 聖戸といえどせいぜい20〜30個ぐらいの店が並んでいるだけだと思っていた俺たちの思考は想定以上の人の群れの光景によってかくも打ち砕かれる事になった。


 流石和導国、5つの国の中でも唯一種族同士の共存を掲げているだけあって様々な種族が目に見え、店も盛んなようだ。

 まぁ、共存とは言えど人間、獣族、天使、半神の中で天使のみは除外されるのだが。

 神たる意向を無視し、我々を支配下に置こうとする天使と共存出来る確率など万が一にもありえない。

 


― ―そもそも俺ならあちらが働きかけても断固拒否するが!!― ―


 


 「ねぇ連命(れんや)、大丈夫?」

 門を前にして動く気配も無く、苛立った憤りがじりじりと胸に食い込んで行くような様子の俺を不安に思ったのか舞が声をかける。


 「あ、あぁごめん大丈夫だ。舞こそ大丈夫か?思ったより人が多いけど...」

 「正直不安しかない...」


 そう言うと震えを誤魔化すように手を握る舞。

 

 やはりいきなり沢山人がいる場所に来るのは苦痛でしかなかったか...

 とはいえ、休むにしても城下町まで来てしまってるのであちこちに人はいるし1回離れても恐らく時間が経てばもっと人が集まってしまう。

 正直この判断を取りたくはないのだが、いずれは回復要員として他人と関わることも増えるだろう。ならば今は先に進んで少しで慣れた方がいい。今は俺もいるから万が一何があっても対応は出来る。


 「舞、怖いなら俺の手握っててもいいぞ」

 

 空いている右手を舞の方に差し出し握るか?と聞く。人が多くて不安、という気持ちを抜きにしても人混みに紛れてはぐれてしまう可能性もある為その事態も出来るだけ避けたい気持ちがあった。


 「えっ!?で、でも...」

 

舞の方から手が握られることはなく、目でちらちらと俺の手を見るばかりだ。


 はっ、まさか俺の匂いを気にしているのか?昨日も体重を測ろうと近寄ればとんでもない剣幕で強烈なビンタを繰り出されることになってしまった。

 昨日からずっと歩きっ放しだったしお風呂にも入れていないからやはり俺の体臭が原因で...!



 

 「ご、ごめんな俺の体臭が原因で嫌な思いさせちまって...」

 「うん⋯え、体臭?いや違う違う!わ、私はえっとその...」



 そう言いながらも今度は何故か顔を赤らめその先の言葉が言い出される気配はなくただもじもじしているばかりだった。

 彼女は優しいから匂いが気になって手なんか握れないなんて言えないのだろう。そう考えるほど益々罪悪感に苛まれていく。



 「はぐれたりしたら面倒な事になるからせめて裾掴むで我慢してくれないか?」

 「あ、えっとが、我慢してるわけじゃなくて...」

 「?」

 

 俺の体臭が原因ではないのか?ではそれ以外に何か原因が...やはり無理に進むのは良くなかったのだろうか。それとも歩き通しの疲労で動くのも辛くなってしまったかもしれない。考えれば考える程理由が浮かび上がって余計頭を悩ませる。

 そんな俺を見てか舞が少し拗ねたような顔つきになる。

 

 「もう、鈍いんだから...行くよ連命(れんや)

 「え、舞お前大丈夫なの...うわちょ、ちょ、襟引っ張らないでくれ!」


 意を決したのか舞が力強い腕で俺の襟を掴み堂々と正面から人混みを掻き分けて進んでいく。

 入って早々食欲がそそられる匂いを感じ取り思わず視線を横に向ける。

 どうやら串焼きの屋台をやってるらしくちょうど焼きあがった物が出されただろうか。あの村では見ることも無かった食べ物が並び思わず喉が鳴る。

 

 「舞、串焼き食べないか?」

 「串焼き、ってなぁに?」

 「肉とか野菜を串に刺して焼いた物だよ。こっちこっち」

 

 舞の左手を掴み串焼きの屋台に一直線に向かう。


 「おじさん、串焼き2本頂戴」


 白いバンダナを着てるおじさんに向かって指2本立てる。


 「あいよ!まいどありぃ!そこのベンチに座っててくれ」


 隣のベンチに腰掛けて待ってくれとのこと。その言葉に甘え、重い荷物を下ろしどっと疲労感から開放される。


 「あ〜疲れた...」

 「一気に雰囲気変わって慣れないよね...」


 慣れない雰囲気に思わず頭を項垂れてさも死んだかのように目を瞑る。


 「お前らこの辺りでは見かけない顔だな。何処出だ?」

 俺達の様子を見て興味が出てきたのか屋台のおじさんが声をかけてくる。


 「10里先の村から来たんだ。集兵式があるから」

 「えらい若いのにもう兵に?そこのお嬢ちゃんもか?」

 「えっ?えっと私は...」


 急に声を掛けられ話慣れてない舞は俺の後ろに隠れてしまう。


 「あー俺は兵だけど舞は治療士だ。」

 「なるほどな能力持ちか。そりゃ凄いもんだ。そんな未来ある若者にサービスだ2本まけてやるよ。」


 そうおじさんが言えば俺達の前に串焼きを4本渡してくれた。


 「ラッキーだな舞、2本も食べられるぞ」

 「あの人優しいね。嬉しい」


 そう笑顔を綻ばせ、小さな声でいただきますと言い、串を横に持って齧り付く。


 「やっぱ肉は最高だな!体が漲る!」


 本当は道中のご飯に肉も持っていこうかと考えたのだが食品衛生の理由で渋々断念したので新鮮な肉を食べるのはかなり久しぶりのことであった。


 「あつっ...」


 焼きたての串焼きは熱々なので舞が少し顔を顰める。どうやら唇にも少しダメージがあるようで口端を舌なめずりする。その行為に何故か少し目が離せなくなって...








 「おいゴラてめぇ邪魔だ!」


 空気を断ち切るかのような低い怒声に思わず俺も舞も目を合わせる。次には俺に言っているのかと次第に不愉快になり始め、こちらも声をあげる。

 「あんだと?俺達はここで串焼きを食べていただけだ!!⋯あれ?居ない?」


 てっきり俺達の前で怒声を上げているのかと思って目の前に向かって声上げたのにそこに居たのは俺の声に目を点にして呆気に取られている数人の人だけだった。

おかしい。怒声が聞こえたはずなのに。俺の幻聴だったのだろうか。

 首を傾げて考え込む。

 すれば舞が何かに気づいたように俺の服を引っ張り


 「ねぇ連命(れんや)、あれ」


人差し指で指す方向に顔を向ければ薄茶色のフードを被っている人と傍目から見ても機嫌が悪そうな男が向かい合っていた。

 まぁ片方は座り込んでもう1人は座り込んだ人に向かって怒鳴っていたのだが


 「す、すみません⋯」

 「すみませんで済めば兵士は要らねぇんだよ!さっきからちょこまかちょこまかうろうろしやがって!通行人の邪魔なんだよ」

 「少し事情があって...もう終わるので許してくれませんか?」


 よく分からないが恐らくあの座り込んでいる男が長期間あの場所に居た為自然と人の邪魔になってしまったのだろう。それにしても事情とはなんだろうか。長い時間あそこにいる程の事情が彼にあるというのか。


 「チッ⋯とっととすませろよ」


 相手に張り合う気がないと知ればこれ以上声を上げる気力も失せたのか舌打ちだけをしてその場を去った。

 フードの男はまた横に伏せて何やら地面を漁っている。その奇妙な行動にどうも不審感を覚え思わず彼に近づき声をかける。


 「あの〜⋯何してるんですか?もし何か困ってるなら協力しますよ。」

 「えっ⋯ぼ、僕?」


 声を掛けられたことに驚いたように俺に顔を向け、目が瞬く。そんなに驚いたのだろうか。


 「あぁ。お前だよ。」

 「あ、あー⋯いや大丈夫だよ。申し訳ないし」


 その言いぶりからして困っているというのは事実らしい。こちらから声を掛けた身だ、簡単に退くことは出来ない。


 「でもまたあのおっさんとかに怒鳴られたらどうするんだ?いつか通報されちまうかもしれないぞ」




 そう、ハッキリ言ってこの男凄く怪しいのだ。フードで確実に顔が見えないようにしてるし実際俺が屈んでさりげなく顔を見ようと思ったのだが呆気なく目を逸らされ躱された。それに足が長く俺の見立てだけでも180はあるだろう。人を見た目で判断してはいけないがこんな長身フード男が長時間うろうろしていれば通報されるのも案外時間の問題かもしれない。俺はそこを危惧していた。

 


 そんな俺の懸念を知ってか知らずか男が眉間に皺を寄せ考えあぐねるように視線を彷徨わせていたが、やがて諦めたように言葉を零した。


 「⋯じゃあ少し手伝って貰えると嬉しいかな。」

 口元しか見えないが少し安堵の表情を浮かべているように見えた。力になれそうでこちらも嬉しい。


 「それで?何があったんだ?俺は何をすればいい?」

 「探し物を一緒に見つけて欲しくて。」

 「探し物?」


 ふと彼の行動を頭に浮かべれば地面で漁っているのは屋台の下に探し物が潜り込んでいるかもしれないという思考の元の行動だったのか。それなら納得が行く。

 「あぁ、意地悪なマジェスティーが隠してしまった首飾りをね」

 

 口角を上げたその男は困ったような笑みを浮かべたように見えた。




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