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死神の微笑み

私が終戦の日を前に、大量に戦争映画を見ていたノリで完成させた作品になります。


『男たちの大和』~『硫黄島の手紙』~『日本で一番長い日』~『永遠の0』~『太平洋の奇跡』『あの花がさく丘で、また君と会えたら』『ラーゲリより愛をこめて』と回っていました(笑)


資料もネットで探したので、ちょい鬱気味です。WWWW

 

ー君に会いたい 


 今日、君の夢をみた。


 エプロンを着て、俺の為に食事を作る君の姿が目に浮かぶ。


 目玉焼きとハムと、ポテトサラダ……


 そんな何気ない日常が、どうしても切なく思える。


 もうすぐ戦争が終わる…たぶん、もうすぐ、戦わなくてよくなるー




−−−−−−




 届かないデータ通信を切った。


 彼女は生きているのだろうか? 


 それとも……


 荒れ果てた国がどうなっているのかわからない。




 焦土となったこの国に希望はあるのか……


 この基地が最後の防衛線だ。




 俺は特攻兵だ。


 そう、戦闘機の熱核エンジンを使い、空母に体当りを行い核攻撃をする。


 それは実行されてきたが、その前に多くが撃墜され、無駄死にした。


 


 そう、俺は多くの仲間を見送った。


 本当に……いつの時代だよ。




 多くの仲間に死神が目をつけて連れ去っていく。




 死神が俺の肩を叩かない事を祈った。その死は俺が志願していたというのに………


 


 そこに死神がいた。


 いや、本当は……ただの男だ。


 彼は月をみている。


 その、男の言葉で多くの仲間が死んでいった。




「君は起きていたのか?」




 男は冷たい目で無関心に俺をみていた。


 俺はとっさに敬礼する。




「もうしわけありません! 閣下」




 この基地の一番の上官、中将だ。


 隙のない軍服に、特注の鮫皮軍刀、汚れ一つない軍靴、全てが模範的な軍人だった。




 その男は冷たい美声で一言。


 


「よい」




 この男の声を俺はききたくない。




 いつも、戦友に命を下すのはこの男、そしていつも、この男は空虚な言葉をくちにした。


 俺はこの男は嫌いだった。




−−−−−−


 


 「故国の安寧のために正義に生きるべし、成功を祈る……」




 そんな美麗な声で、訓示をたれる中将……


 しかし、声に感情がみえない淡々としている。




 出撃するのは私ではない。


 そう数人の戦友たち、これが最期の華。




「私も必ず後に行く……来世で会おう……」




 彼らはそうして、戦闘機をのっていく。


 特別攻撃、いわゆる体当たりだ。 




 いま、出撃するのは彼女の兄……そして、俺の幼馴染だ。


 たしか、彼女の最後の肉親。つまり、彼女は一人になった。


 


 彼女が哀れだ……でも、同時に俺は死神から見逃されたことに安堵してしまう。なさけない。


 そんな彼は俺に彼女を頼むと口にしていた。




−−−−−−




「よい月だ」




 中将が月をながめていた。


 驚いた、この冷たい男がそんな物をほめるなど。


 なにを考えているんだ。この男は。




「見るべき者がいない、月はさみしいものだ。君はどう思う」




 さびしい……この男が?


 そんな、感情などないと思っていた。




「閣下にもそんな感情があるのですね?」


 


 こんな失礼なことをいってしまい、青ざめた。 


 今、死神に目をつけられたに違いない。




 ところが死神は表情をかえずに。




「……ふむ。捨ててきたと思っていた」




 いつもの美声で感情のない回答にすぎなかった。


 俺は言葉を探す。


 


「人がいなくても月は輝いてます。人など気にしてないかと」




「国破れて山河あり……か」




 ここで、閣下は不穏な事をくちにする。


 お、おい、国が負けるなんて事を平然と、中将は頭がおかしくなったのか。


 


 俺は別の言葉を探す。




「けれど、月も風流を理解するものにみてほしいでしょう。そのために我らも……」




 そこで言葉が止まる、俺は彼女の為に戦っていると思っていたけど、彼女の為に生きたいと思う。




「なるほど、それもそうか……」




 そんな俺の葛藤をよそに納得したように閣下はうなずいた。


 本当にわけがわからない。




−−−−−−


 


 やっと、終わった……




『戦局日にあらざるにして好転せず……ともに協調し平和の復興に邁進せり』


 


 妨害されていたデータ通信が突如、戻ると陛下の声から敗戦が伝えられた……




「なぜだ! 負けてない! まだ我は生きている! 最後の玉砕を!」




 お前、そんな美麗を信じてたのか、同僚の慟哭を俺は遠い国の出来事のようにながめた。




 俺がここで考えていたことはたった一つ、生きて終われた……そう、彼女に会えると。




−−−−−−




 ―国のために、死ぬるは本望。


  ただ、残された君が気がかりだ。


 


  君を置いて、散る私を許していただきたい……


  ここに少ないですが砂糖菓子を送る。




  幼い君が喜んで食べていた事を思い出す。


 強く後の世を生きてほしい、彼をよろしく頼む。




 ただ、もう一度会えたら、その時は、いやこれ以上は未練だ。元気で生きて、それだけを願う―




 この手紙の主はこの世にはいない。


 私が選び命じ殺した者だ。


 


 今、このデータに集めた物は、彼らの最後の家族への通信。


 検閲されて、美麗で飾られながら、せめて感情を残そうと書きのこしたもの。


 せめて、本心の通信を許してほしかった。


 


 私は中将として、この戦略を聞かされたときには気が触れたかと思った。




 わからず屋め、何が精神だ、魂だ。


 そんなものより、まともな作戦を立ててくれ。


 この機体を役立ててくれ、そうすれば、彼らの死をムダにはならなかったはず。 




 これでは、かつての大東亜と同じだ。


 バカどもめ!




 これらの通信と同じく私は美麗に飾られた指令書に感情を殺して伝えていく。


 


 かつて、憧れた空はこんなものではなかった。


 自由と夢が交わる空は、もっと美しかったはずなのに……


 少年の日からの憧れはこんな所で……




 戦争が終わった。


 終わるのは良い、ただ、私はどこで死ねばいい。


 彼らに対して、どう責任をとればいい……




−−−−−−




 私は古い戦闘機『雷竜』にふれる。




 覚悟が決まった。音速を超えるジェット機にレーザーやミサイル飛び交う戦場で10世代以上前の戦闘機で戦うなんてバカのすることだ。




 拳銃自殺、軍刀で頚動脈を切ることも考えたが、死ぬなら、彼らと同じ死が良い。




 責任を取ることにもならない、むしろ、終戦後のこの国の立場を悪くすることだろう。




 胸元から妻と娘、愛犬が写った写真を取りだす。


 生きて会えたはずだった。


 二人の顔と愛犬の顔が浮かぶ。


 よく笑う、普通の家庭……しかし、私が見送った2862人の若者の顔が、よぎる。




 私は……




「なにを……してるのですか?」




 見つかってしまった。


 部下たちだ。




 一人、行こうとしていたのに…止められるか。




「なに……散歩だ」




 私は最後にうそぶいた。


 そんな、言葉をよそに、部下たちは敬礼し、口々に声を荒げた。




『私達も連れて行ってください!』


「私も、終わるのに納得は行ってません」


「むざむざ生き残って何になると」




 私は唇をかむ。


 また、彼らまで死なせるというのか……。




「これ以上、誰かを見送るのはできません!」


 


 彼らの言葉に私は共感してしまった。


 そうか、皆が同じ思いだった……


 


 私だけが見送っていたわけではないと。




「わかった。君達もそうであったか……」




 ついに私は命をくだす。


 たぶん、これは私の戸惑いと良心への、言い訳からでた命令だ。




「志願するものだけ……前にでよ……」




 なぜ、ここにいる若者の未来を考え、私だけ飛ばなかったのか。


 国の復興と未来を考えないのか?




 私はそれよりも、自分と同じ気持ちの者を見捨てられなかった……弱い人間だ。


 


 誰もいない事を祈りながら、私はただ一人飛ぶことを怖くなっていた。


 しかし、皆が一歩踏み出していた。




「ああ、やっと、同じように……君たちと飛べる。それが、私の誇りだ」




−−−−−−




 死神がほほえんだ。


 そうくもりない、心からの笑顔。


 いつもの低い声に喜びの感情がのっていた。冷たい男が初めて見せた表情だった。




 皆が歓喜の中にいた。


 だけど、俺は絶望の中にいる。




 ついに俺は捕まってしまった死神に。




 生き残れたはずなのに、一番ムダな時に足をふみだしていた。




 これで死んでしまう。


 嫌だ! 嫌だ!




 死にたくないのに、死なずにすんだのに、どうして、どうして……




 俺は最後の点検を終えて戦闘機に乗り込んだ。




 閣下だけ、旧式の戦闘機『雷竜』にのっている。


 初めて乗った戦闘機だから、そういっていた。


 一番みすぼらしい機体だ。




「どうして……俺は」




 次々と、仲間たちは飛び立っていく。


 そうだ! ここで飛び立たなければ、俺は生き残ることが、彼女のもとに帰れるのに……


  


 俺は飛んでいた……終わりだ。ここで死ぬ。




 せめて、苦しまずに終わる事と、彼女が幸せに生きることだけを願う。




 空を翔ぶ黒の翼竜のむれ、ただ閣下の雷竜だけは濃緑、本当に目立つ。




 やがて、戦闘がはじまった。 




 敵の哨戒中の戦闘機部隊はふえていくだろう。


 意味のない最後のあがきだ。




『戦争は終わっている。停止せよ。貴殿らの行為は条約違反となる。停戦せよ』




『いな、我らの戦争は終わっていない。故に付き合っていただこう、我らの悔恨のため!』




 閣下のいつもの低い声に喜びの色がのっていた。


 あんなに冷たい男だと思っていたのに、こんなにも感情豊かだったのか。




「……不器用な死神だ」




 思わずつぶやいた。


 不器用に生き残りたいのに死ぬ行為をした俺と、死にたいのに今まで生きてしまった閣下はにているのかもしれない。




 時代により本心を口にできなかった者たちだ。


  


 バカな国、バカな戦争、バカな人々。バカな俺。そんなことより必要な事や意味はあっただろ。自問自答が募る。


 


 しかし、その間に戦闘は広がっていく。




 妨害された通信により目視で、レーザーをミサイルを避けていた。


 そんな中で仲間たちは散っていてしまう。


 彼らは必死に戦う。




 その中でも閣下は速度が遅い、熱核エンジンすらない『雷龍』、つんでいるミサイルも古く、レーザー機銃すら積んでいない。




 ただ、閣下は海面スレスレで飛ぶ、一つ間違うと海面に叩きつけられて沈むだろうに。海を盾にし、時に上昇し舞う。




  閣下の戦闘機は当たらない。


 そうか、熱反応しないほどの旧式の戦闘機だから無事なんだ。


 


「すげー」




 はるかに劣る戦闘機で旋回し、攻撃をさけ、海に柱を立てていき、爆風は後方で咲いていた。




 仲間たちは沈んでいく間に、閣下は時代遅れの実弾で、敵機を落した。




 そうか、レーザーの速度ははやく、戦闘機の速度と釣り合うので、直線で撃てる。


 しかし、機銃では前に撃っても風圧と戦闘機の速度でズレがでてしまう。




 ゆえに撃ち方にコツがある。レーザーと機銃の差を閣下は逆手に有利をたもっている。




 速度では劣る雷竜をかり、接近し背面をとり、機銃で落とす。




 ミサイルは敵空母を落とすために使わない。


 バカなお人だ。


 残っているのは俺と閣下だけというのにあがいて、戦っている。




『私の戦死後、君は投降せよ。これが、最後の命令である。君は愛する人のそばにいなさい』




 通信から私は最後の生きる希望が伝えられた。




 見抜いていたのか、あの死神は……


 俺は最後まで死神に見逃されていた。




 『やっと、君たちと……』




 それが、最後の閣下の言葉だった。


 通信と同時に閣下の戦闘機は敵空母へと突っ込み、激しい炎に包まれ、ただ、あの程度のミサイルの爆発では沈みはしない。




 ただ、閣下の一機が成功した、戦果はほとんどないに等しかった。




−−−−−−




―私はこれより特攻でいく。


 いくたびも青空に向かう彼らを見送った。


 彼らはよく戦い、よく散った。 


 死を見送った私も逝かなければいけない。


 そう約束したのだ


 私も必ず後に行く、来世で会おうと。


 このような状況になる前に死ぬべきだった。


 しかし、かように生き延びてしまった。 


 決断が遅くなったが、私は彼らに報いるたびに空に行く。


 そして、私の馬鹿げた行いにつきそってくれた部下たちに感謝する。


 彼らに罪はなく、全て私の責任である。


 同時に敵国に陳謝する。


 残った者は国の再興に尽力してほしい。


 最後に妻よ、娘よ。バカな私の事は忘れてくれてかまわない。健やかに…


 月の美しさを愛する心を捨てず、そして、月を平穏にながめる日が来ることを祈る―




 それが彼のデータ通信に残した遺書だった。 




 バカな男だった。


 彼の評価は悪い。なにせ、戦争が終わったあとの特攻。


 最悪の場合は敗戦を認めたことは罠だとされ、戦争継続だってあり得た。


 それに、生き残れたはずの23人の若者をムダ死にさせたのだ。


 遺族からも蛇蝎の如く嫌われ、せせら笑われた。


 


 冷たい声の男だった。 


 基地では死神と罵られ、嫌われていた男。


 ずっと、こらえていたのだろうか。


 本当の気持ちをおし殺していた。




 俺は閣下が残した記録を読んだ。


 その記録は戦争の大事な資料として残された。




 本当の閣下は家族と犬を大事にし、皆の前で笑う男だった。




 なんだ、こんなバカな男だったのか。


 そんな思いとともに彼の記録の電源を落とした。

 8月16日、最期の特攻が行われた日に描き終えました。閣下のモデルになった宇垣纒中将達をモデルとしています。彼らの行いを賛美はできません。しかし、最後に特攻の責任を感じと約束を守った事は間違いないと思っています。


 最後に第二次世界大戦で散った多く人達に哀悼を示します。 この平和な世の中が続くことを願っております。



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