道徳の教科書に載ってそうな不道徳な話
「ア」にも「イ」にも見える字を書いた。ジャンケンのグーチョキパーみたいなやつだ。
翌日、先生に呼ばれた。
「これって、『ア』でいいのか?」
他の人の答案のその部分が下から覗いていた。
答えは「ア」だった。
「はい、アです」
本当は分かっていなかった。
「了解、わざわざ呼んで悪かったな。次からは分かりやすい字で書いてくれな」
「はい⋯⋯失礼します」
後日。
「ごめんなさい先生! 実は僕、あの問題分かってなかったんです!」
「だろうな」
「えっ」
「分かってる奴はちゃんと書くからな。『ア』が書けない中学生なんていないだろ?」
「確かに⋯⋯」
「良かったよ、申し出てくれて。信じて待ってたんだ。ありがとな」
「先生⋯⋯! こんなに優しい先生を騙そうとしてたなんて、僕は⋯⋯!」
「気にするな、誰にでも間違うことはある」
「ありがとうございます! じゃあ気にしません! さようなら!」
「えっ、ちょ待⋯⋯」
その日はぐっすり眠れた。
そう簡単に人は変われない