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尊い犠牲を無駄にはしないぞ

 

 ここを開いた者よ、知っているか?

 真実の愛とは浮気の事だと。

 俺は知らなかったんだ。

 大衆に出回っている書物がそんな常識を産み出していたなんて。

 ……世に作品を送り出すならその影響力を考えてくれ。

 それ一つでな、知る者と知らない者では差が出るし、知らない者は窮地に立たされるんだ。

 そしてその内容に傷付き涙する者だっているんだぞ。

 文字は武器になる。心に傷だって作れるし、遠い嫌な記憶を呼び起こす事もあるんだ。

 その後ケアするならまだしもいいとこで放置は勘弁な!


 ちなみに俺は知らなかった。

 やったね俺、一つ勉強になったよ!

 もう二度と『真実の愛』などという言葉を使うものか!!



 それから書物は焼けなかったし回収もできなかった。


「それをするなら暴君と見なしますよ!」


 文化部から返り討ちに遭って、トボトボ自室に帰る途中弟に出会い「フッ」て笑われただけだった。


 皆は知っているか?

 王太子が無能なら、第二王子が優秀な場合が多いらしいぞ。

 まさしく俺だな、笑えない。

 俺が王太子の立場にいれるのは、ほぼアイザックのおかげだ。腹立つ奴だが、サポートが素晴らしいのだ。

 カーティス公爵家令息だからこいつも漏れずに風評被害の的なんだろうが……。

 何故かアイザックだけは評判いいんだよなぁ。


 目が合うとにやっと笑われた。


 アイツハラグロヨーって王城内を叫んで回りたいが、気が触れた王太子の烙印を押されかねないので非承認だ。くそう。

 今に見ておれ、と思ったが触らぬアイザックに返り討ち無しだ。ぐぬぬ。かくなる上は有能な王太子になってやる。



「殿下の真実の愛はもうよろしいのですか?」


「ヴァレリア、俺の気持ちは本物だ。君だけを愛している」


「でもいずれ、殿下は低位貴族と懇意になる可能性もありますわよね」


「そんな可能性微塵も無い。いいか、あれはフィクションだ。落ち着いてくれ、あれは架空の話で実際の王太子や高位貴族は関係無い」


「私のお父様には愛人がいますわ。たぶん」


 よーし、公爵抹殺しようそうしよう。


「ヴァレリア、他の者にはいるかもしれないが俺にはいない」


「……では、とある男爵令嬢との噂は何ですの?」


 ヴァレリアから鋭く睨まれた。


 それの原因は分かっている。

 16になったオレたちは、王立アカデミーに通いだした。

 同い年のヴァレリアも一緒だ。

 3年間の課程を経て卒業後、婚約者がいる者は結婚する。

 卒業と同時に結婚するのは貴族の通る道なのだ。


 ある意味人々はここを「最終試練」と呼ぶ。


 何故なら、アカデミー入学までは婚約者とラブラブいちゃいちゃしていたカップルが様々な誘惑(主に浮気の方面)に負け壊れ、新たにカップルが誕生する魔境だからだ。

 それまでの閉じた世界から一気に開放された、まぁ主に性に貪欲な若者がその毒牙にかかり陥落しコンプレックスからか婚約者を蔑ろにする期間とも言えよう。んなアホな。


 そしてアカデミー入学した俺にも、毒蛇はやって来た。


 重たそうな胸をゆさゆさと揺らし、内股で走って来たピンクの髪に青い瞳のとある男爵令嬢が、何故か俺にぶつかってきたのだ。

 その時ヴァレリアをエスコートしていて緊張からか緩かった俺のお腹にクリティカルヒットし、危うく不名誉な称号を付けられるところだった。

 その場を影と従者に任せ、お花畑へ走ったのは今では良い思い出だ。


 だが、それ以降男爵令嬢はなぜか俺に付き纏うようになった。

 おかげでヴァレリアからこうして冷めた目線を送られるようになったわけだ。


 ま、まぁ、その冷たい視線もクールビューティーが増して好きなんだがな!


 で、俺は追い払っているつもりだが、ヴァレリアからはそうは見えていないようだ。

 という事は、周りからもそう見えているわけである。


「あれには俺も迷惑している。だがどこにいてもどんな嗅覚があるのか知らないが何故か付きまとってくるんだ」


「仕方ありませんわ、殿下のその艷やかな金の髪は人を引き寄せますもの」


 えっ、それ褒めてる?

 えっ、ヴァレリアちょっと口を尖らせて拗ねてる?

 えっ、かわいいナニソレやばいかわいい。


「まぁ、いらぬ羽虫も寄せ付けるようですけど」


「俺の頭は誘蛾灯か!?」


「殿下がキラキラしているのがいけないんですわ」


 ぷいっと横を向くヴァレリア。

 えっ、ナニコレ嫉妬百景?

 口を尖らせて拗ねたり、ぷいっと横を向いてもチラチラ見てきたり。


 いやこれ採用、満点あげちゃう。


「俺に誘われるのはヴァレリアだけでいいよ」


「ふ、ふん、仕方ないから誘われて差し上げますわ」


(あああああああああああああああ……ふぅ)


 ふむ、世に出回る書物を読み俺も多少勉強したのだ。

 浮気王太子が胸ボイン令嬢を侍らせるのは婚約者からの嫉妬を期待しているパターンもあるらしいが、今回はそうなのだな。

 ああ、いいな。嫉妬して貰えるならその気持ち分からんでも無いぞ。

 だが俺はしない。

 何故なら書物で勉強したのだ。彼らと同じ過ちは繰り返さない。

 しかし尊い犠牲を無駄にはしないぞ。


「……殿下、なぜ鼻の下を伸ばしてらっしゃいますの?」


「えっ?いや、これは」


「まさか、噂の男爵令嬢の事を考えておいでですの?」


「まさか!」


「本当ですか?」


「待って、俺はヴァレリアの事しか考えてない」


「嘘付いたら針千本通します」


 痛そう!


「まぁ、実際には私の事だけしか考えてない殿下は願い下げですが」


「えっ」


「ちゃんと周りの事や国の事も考えて下さいませ」


 天に()ましますいるかは分からないけれど我が神よ、人間ができた婚約者を我のもとへ遣わせてくれた事に心からの感謝を申し上げる次第。


「もちろん、君と二人で国を支えていきたいと思っている。なんたって、俺は、フッ。

 王太子だからな」


 よし、イケボ決まった。


「あ、はい。じゃないと私の王太子妃教育にかけた人生が無駄になりますので」


 決まってなかった!

 でも君の人生を無駄にはしないぞ。


 そうして俺は決意を新たにしたのだ。

 先人の屍を越えて行く。

 大後悔時代を乗り越える為に。



 えっ、大後悔時代?

 めちゃくちゃ順調だよね、いま?



 えっ、何か、不穏!!?

 俺の明日はどっちだ!!



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