【本編完結】君といつまでも
「殿下、まだですか?もう式が始まりますよ」
ミナノモノ、元気カ?
俺はオウタイーシ、またの名をオスカー。
今俺は窮地に立たされている。
「あ、アイザック、俺はもう駄目だ。俺の事はいいから、先に行け……」
「何アホな事言ってるんですか。今日の主役は殿下でしょう」
「違うぞ。主役はヴァレリアだ」
「ロックハート嬢の添え物がいないと引き立たないでしょう?早く出て来て下さい」
「出て行きたいのはやまやまだが、大決壊を起こしていてな……」
ぐぎゅるるるる、と鳴る俺のお腹。
キリキリキリ、と痛む俺の胃。
今日は結婚式なのに、頑張ってくれない俺のお腹を恨みながらトイレとお友達になっているところだ。
「お薬ありますから。落ち着いたら出て来て下さいね」
ゔゔ、情けなや。
ヴァレリアが絡まなければ何てこと無いのに、愛しい人の前で格好つかないとは。
そう言えばアカデミーの入学式でも緩かったな……。
あの時は確か、ピンクがお腹に痛恨の一撃を与えたんだった。……何だか懐かしいな。
そういえばピンク嬢はあのゲリラライブの後孤立していたが、見かねたヴァレリアが手を差し伸べたのだ。
ヴァレリアと友人たちが淑女のイロハを教えて、ある程度身に付けたが、婚約破棄させた側としての責任で、アカデミー卒業後は自ら平民になったそうだ。
風の噂では舞台女優になってカツラいらずのピンク髪令嬢役をやっているらしい。
あまりにもハマり役なので、彼女が出る舞台は結構人気なのだとか。
と、回想しているうちにお腹がだいぶ落ち着いてきたのでトイレから出てヴァレリアのもとへ向かった。
「ヴァレリア」
「オスカー様」
純白のウエディングドレスに身を包んだヴァレリアは、まさしく女神、まさしく天使。そこにおわすは輝かんばかりの月の化身。
光の妖精がいるとしたらまさしく彼女。彼女以外にいるだろうか、いやいない。むしろ妖精や精霊ではなくその上におわす上位の、あれだ、あれ、……そう、それだ。
己の語彙力の無さが恨めしい。
あな美しや、あな麗しや。
世界中の言葉を尽してもその姿を称えるには足りないだろう。
「……オスカー様?……私、おかしいですか?」
「えっ、いや、その、あまりの白さにあっと驚くユートピアで桃源郷で」
「……大丈夫ですか?」
しゅるり、とヴァレリアが動くと衣擦れの音がして、優美な動作とその赤い唇に釘付けになる。
ごぎゅっ。ンマッグッグ。
「だ、大丈夫だ。問題ない」
い、いよいよ、け、けけけけ結婚するのだ、と実感すると、緊張からか鼓動がどっこどっこと鳴り出した。
「み、見惚れていただけだ。問題ない」
「まあ……。ありがとうございます」
睫毛ながっ!頬赤っ!
伏せがちになった瞳を縁取る睫毛にそこはかとなく様々な感情を揺さぶられる。
「あっ、いた、殿下!お薬飲んでください」
「あ、ああ」
「どこかお悪いのですか?」
緊張からお腹緩いとは格好悪くて言えない!
「緊張しすぎてるんですよ。7歳からの夢が叶うから」
苦笑するアイザックから薬を受け取り、水で流し込む。
そうだ。
7歳から10年以上。
この日の為に頑張ってきた。
様々な問題はあったけれど、この日を無事迎えられたんだ。
何だかそう思うと、だばだばと涙が溢れてきた。
「で、殿下!?」
慌てる二人を尻目に、俺の涙は止まらない。
「ゆ、夢じゃ、無いんだよな」
もしかしたらこれは書物の中の話で、全ては俺の夢物語かもしれない、とふと思ってしまったんだ。
「夢ではありませんわ、オスカー様」
ヴァレリアがハンカチで俺の涙を拭いた。
「夢であってたまりますか」
拭きながら、ヴァレリアも涙を溜める。
だが頬から滑り落ちない。さすがは淑女。益々惚れた。
「ヴァ、ヴァレリア、俺、君が好きだ。ずっと、好きだった。結婚してください。愛しています。王太子妃になって下さい。側妃は取りません。これからも、君だけを愛します」
「オ、オスカー様、今日、結婚式ですわよ」
「うん、でも、なんか、言いたかった。へ、返事……」
感極まった俺の、結婚式当日のプロポーズを、ヴァレリアは苦笑して。
「オスカー様、私もあなたを愛しています。
あなたのプロポーズ、お受けします。
幸せにして……いいえ。
二人で幸せになりましょうね」
とびきりの笑顔で笑った。
「オウタ……。ごほん。
オスカー・アーウィン・ファレル。
そなたはヴァレリア・ロックハートを、病める時も健やかなる時も愛し、敬い、慈しむ事をここに誓うか?」
「誓います」
「ヴァレリア・ロックハート。
そなたはオウ……。ケフン。
オスカー・アーウィン・ファレルを、病める時も健やかなる時も愛し、敬い、慈しむ事をここに誓うか?」
「誓います」
「では、誓いの口付けを」
ヴァレリアは少し屈み、俺はヴェールをあげた。
「愛してる」
そうして、ヴァレリアに口付けた。
唇を離し難く、証人の咳払いが聞こえるまでそのままだった。
「ここに新たなる夫婦が誕生しました。
皆様がその証人でございます」
盛大な拍手が鳴り響いた。
「王太子殿下、王太子妃殿下、おめでとうございます!」
辺りは祝福の声で包まれる。
その声を聞きながら、二人で見つめ合った。
それから数年後。
「お父様、真実の愛ってご存知?」
「ふぎゅぐぉっ」
「父上、はしたないですよ」
可愛い盛りの娘と息子は、市井の書物が大好きでよく読んでいる。
その影響か、俺の消し去りたい過去を容赦無く掘り起こしてくるのだ。
「『俺は真実の愛に目覚めたんだ!お前との婚約は破棄する!』って、ただの浮気宣言にしか聞こえませんわよね?
とてもコケコッコーだわ!」
うーん惜しい。娘よ、それを言うなら滑稽である。
「真実の愛って何だろうね。偽物もあるのかな」
息子よ、それは、ホント、何だろうなぁ……。偽物……考えた事無かったな。やはり違う目線は重要だ。
それに気付かせるとは……やりおるな。
そんな可愛い盛りの無邪気な子どもたちに罪は無い。
罪は無いが。
近くにいる側近たちは笑いを堪えている。
今日はアイザックが休みで良かった。あいつに聞かれていたら盛大に肩を震わせていただろう。
「我が子たちよ、真実の愛というのはだな」
そうして俺は語るのだ。
真実の愛がなんたるかを。それによって始まる、ある王太子の話を。
後に一冊の本にして、俺自身が教科書となるのはまだ少し先の話である。
~~~fin~~~
本編はこれにて完結です。
明日より番外編となります。
もう少しお付き合いくださいませ(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾




