大好きな君から、婚約を解消された
皆の者、ごきげんよう。
俺の名前は王太子。
え、それは名前ではないと?
ははははは!そんなのは充分に承知している。
まぁでも、そうだな、名前が無いと不便だな。
では仮名として『オウタイーシ・リンゴーク』とでも呼んでくれたまへ。
……いや、俺も自分の名を名乗りたい。とても、それはとても…。
だが、周りの皆が呼ばない。
だから次第に自分の名前を忘れ…るわけは無いが、何か意地で公式の場以外では名乗らない事にした。
ああ、すまん、踵を返そうとしないでくれ。
見捨てられるのはさすがの俺でもちょっと悲しい。
ああっ、ちょ、待ってくれ!俺の話も聞いてはくれないか?
ありがとう、そなたは優しいのだな。
いやすまん、名は聞けない。俺には心に決めた女性がいるからな。
誰かって?
婚約者に決まっている。
……何年か前に一度解消されたがな!
今ふくっと笑わなかったか?
気のせい?……そうか、気のせいか。なら良い。
ちなみに理由だがな。
そう、理由、だが、な。こほん。
その、なんだ、ホラ。今流行りの、その…
そう、それだ。
『真実の愛を見つけた!』とふんぞり返ったら、翌日には解消されたんだ。
指差してゲラゲラ笑うのは勘弁してくれないかな?
俺だって時を戻せるなら戻したいし穴があったら入りたいくらい消したい過去なんだ!!
ま、まぁ、それで、その。
当時の婚約者から、解消されたんだ…。
フッ、笑いたきゃ笑えよ。
ってホントに笑うのは……
いや、笑え。俺の代わりに笑ってくれ……。
ちなみにそれが10歳の時の話だ。
〜回想〜
「バッカモーーン!!」
「信じられない!私の息子がクズ要員だったなんて……!」
父上にはしこたま怒られ、母上からは散々引っ掻かれ、挙げ句の果てには監視として嫌味ったらしい側近を付けられた。
そなたは知っているか?
カーティス公爵子息のアイザックだ。
俺の3つ上で、事なかれ主義窓際文官を目指している所を父上に指名され俺の元にやって来た。
「初めましてバカ殿下私の名前はアイザック・カーティスと申しますこの度は殿下の側近となれた事を光栄に思います今後共によろしくお願いします自分の事はどうぞアイザックとお呼びくださいでもなるべく呼ばないでください」
初顔合わせで無表情で棒読みで畳み掛ける様に言われたから俺はこいつを敵とみなした。
しかもしれっとバカ殿下って言わなかったか、こいつ?
いくら数代前の王弟筋の公爵家とは言え不敬だと思うぞ。
だがこいつは態度を改めなかった。
むしろ窓際文官として腰掛けるつもりだったのを側近として抜擢されたから不服なのだと後に言っていた。
公爵家子息がそんな下っ端でいいのか?周りが気を使うわ!
「下から操るのも楽しそうでしたのに、邪魔しやがって」
コイツハラグロヨーミナサンキヲツケテー。
しかしアイザックは腹立つ程有能だった。
常に先回りして行動するのだ。
俺が未だ王太子としていれるのはある意味こいつのおかげかもしれない。
……………悪い顔でニヤリと嗤っていたのは見ないことにしよう、そうしよう。
まあ、そんな訳で、俺の窮屈な人生はそうして始まったのだ。
まあ、……自業自得だな!
婚約者とまた婚約したい。
彼女以外の女性に惹かれる事はできないんだ。
父上と母上には猛プレゼンして、婚約者が納得すれば、と言って下さった。優しい。泣ける。
やらかしてしまった事は戻らない。
だが俺は信じてる。二人はきっと、真実のあ「殿下、妄想癖は大概にしてそろそろ現実を見て下さい」
悦に浸りポエムするところでアイザックに現実に引き戻される。
「アイザック!お前には慈悲の心が無いのか!?」
「それは勿論」
ニッコリと笑うアイザック。
無いな。この腹黒そうな笑みを見れば一目瞭然だ。
婚約が一度解消されてから、奴の腹黒さを思い知った。
あれは忘れもしない、俺のトラウマとなった。
クソッ、バーカバーカ、お前も一回振られてみろってんだ。
「そう言えば忘れるところでした」
にっこりと人の良い笑みを浮かべた時のアイザックは、絶対裏で何か企んでいる。まさかアイザックの分のおやつを盗もうとしたのがバレた!?
にこにこと辺りに花を散らしながら手に抱えたものをばんっと執務机に載せた。
勢い余って一番上の表紙がヒラリと捲れ、チラリと中身が見えてしまった。
俺はそれを見て引き攣った。
「あー、こほん。アイザック氏。念の為聞くがこれは、その、何かな?」
わざとらしく聞くがおそらく答えは思っているものだろう。
「はい、これは元婚約者殿の公爵家から送られて来た釣書にございます」
にっこりと笑うアイザック。
あーー、やっぱりね!知ってた、知ってたよー、分かりすぎるくらい分かってた!
「い・ら・な・い!と何度言えば分かるんだ!
捨てておけ!いややっぱ捨てなくていい!
いややっぱり」
「私に申されましても、これを準備したのは」
「知ってるよ!」
もう泣きたい。ホント泣きたい。そうだ、泣こう。
俺は頭を抱えるしかなかった。
ちらりと釣書の山を見る。
こんなの持って来られても、俺の気持ちは変わらないんだ。
あれから毎日謝罪に行ってもなしのつぶて。
本当は大好きな婚約者。
嫉妬してほしくて出任せで嘘をついたら翌日には婚約を解消された。
それだけ彼女を傷付けたんだと思うけど。
こうして他の女性を勧められるのはやはり辛い。
自業自得なんだけど10歳のいたいけな子の精神的に抉ってくるのはイクナイと思う。
〜回想終了!〜
そうして10歳の時の行動は、俺にとって黒歴史となったのだった。
はあ、誰だよ『僕は真実の愛を見つけたんだ!』とか意気揚々とのたまった奴は……。
俺だよチキショー!!!!
お読み頂きありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
ぜひ彼を応援してあげて下さいね。