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行方不明


 小麦粉と塩、水を混ぜて練って作った生地に、作り置きのトマトソースとフレッシュトマト、チーズとバジルを乗せる。

 ユエルがシュエに教えてもらいピザを作っている間、シュエは薪に火をつけて燃やして、ピザ窯を温めていた。


 シュエの作った氷をグラスに入れて、輪切りのレモンと蜂蜜、ローズマリーと水を入れてレモネードを作る。


 ピザが焼けるのを待つ間、ユエルはシュエと共にレモネードを飲んだ。

 レモネードは、甘くて酸っぱくて美味しい。


 時折、川の向こう側にある森の木々がガサガサと揺れた。

 小鳥や野うさぎなどが顔を出しては、森の奥へと消えていく。


「ユエル、できたよ」

「もう?」

「窯は、火力が強いから。出来上がりが早いんだ」

「わぁ、本当だ。焼けていますね」


 ピザ釜から取り出されたピザは、生地の端が焦げていてチーズがとろけてポコポコと膨らみ、すっかり焼けていた。

 美味しそうないい香りがする。

 庭のテーブルの皿にのせて、ピザカッターでシュエが切っていく。

 ユエルは大きなてがピザを切り分けるのを見ていた。


 ユエルが何かをしようとしても、シュエが先に行ってしまう。ユエルはずっと面倒を見てもらっている。


「シュエさん」

「ん?」

「なんだかずっと、お世話になっています。私にできることは、私が……」

「あー……癖みたいなものかな。つい、体が動いてしまって。このほうが落ち着くんだよ」

「シュエさんは、女性に人気がある。わかる気がします」

「えっ」

「私、何か変なことをいいましたか?」

「ユエルはなんとなく、そういうことを言わないのかと思っていた」

「私、一応女、なので。少しは、考えたりします」


 何故か動揺しながら、シュエは切り分けたピザをユエルの皿に乗せた。

 ユエルはかしこまって椅子に座ったまま、とろりと溶けたチーズが伸びるのを見ていた。


「チーズ、のびますね」

「ね。よく伸びるよ。熱いから気をつけて」

「はい」


 シュエは自分の分を口に入れると、もぐもぐ咀嚼して、ごくんと飲み込んだ。


「うん。ちゃんと焼けてる。ユエル、食べて」

「はい。わ、のびます。ふふ、のびる。美味しい」

「よかった」


 口の中に広がるチーズと小麦とトマトの味に、ユエルは口元を押さえて微笑んだ。


「シュエさんのお料理、全部美味しいです」

「ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい。探索隊の時は、地上で数日過ごすこともあったから。そこで、食事を作ったりもしてね」

「地上に、人は住んでいるのですか?」

「そうだね。数は多くないけれど、細々と暮らしている人たちがいるよ。彼らは俺たちの事を、翼人と呼ぶんだ」

「よくじん?」

「探索隊の魔導士たちは、背中から翼をはやすからね。俺たちはそれを魔法だとは、説明しなかったし。空鯨の上には、翼の生えた人々が住んでいるって、地上の人たちは信じているんだ」

「不思議な感じです」

「ユエルは、地上に行ってみたい?」

「考えたこと、ありませんでした」


 ふと、何かに気づいたようにシュエは顔をあげた。


「──お客さんだね」

「シュエちゃん!」


 それはエスナだった。

 どことなく青ざめた顔をして、シュエたちの元へと駆け込んでくる。


「エスナさん。どうしました?」


 ただごとではない様子に、シュエは立ち上がる。

 ユエルもエスナの元へと駆け寄った。

 倒れ込みそうになるエスナの手を引いて、ユエルはテーブルまで連れて行って、椅子に座らせる。

 それから、シュエが作ったのと同じように、グラスに氷を入れてレモンの輪切りと蜂蜜を入れて、水さしから水を注いだ。

 ローズマリーの葉を入れてレモネードを作ると、エスナに差し出す。


「ありがとう、ユエルちゃん。ごめんね、二人とも。急に……」

「それはいんですが、何かありましたか?」


 シュエが尋ねる。

 エスナはレモネードを飲み干して、ここまで走ってきたのだろう、呼吸を整えた。


「昨日、バルドと喧嘩したって言ったでしょう?」

「はい」

「実はね、その時にバルドが……浮気なんかしてないって、無実を証明するって言って」

「証明?」

「ええ。私が前から、一度見てみたいって言っていた、天空の花をとりに行くって言っていたのよ。まさかそんなこと、するわけがないって思ってたのに。運び屋の人たちが、バルドの姿、三日前から見ていないって言って」

「家にいるだけじゃないかな。それか、仕事で他の地区に行ったとか」

「バルド、この間帰ってきたばかりだったから。荷運びは体力を使うから、一週間は休暇をもらうの。家にもいなかったわ」


 エスナの説明に、シュエは眉を寄せる。

 ユエルも不安に思い、スカートをぎゅっと握りしめた。

 天空の花とは──。


「天空の花、空鯨様の中央にある空の天峰に咲く花。とりに行くのは、禁止されています。とても危険だから」

「私のせいだわ……!」


 ユエルは記憶をたどり、そう口にした。

 エスナは、両手に顔を埋めて泣き出してしまった。

 声を抑えているが、その体は頼りなく震えている。


「どうしたらいいのか、わからなくて……シュエちゃんに話しても、仕方ないのに」

「エスナさん、私、探しに行きます。私、空の天峰に、登ったことがありますから」


 ユエルは胸に手を当てると、力強く頷いた。

 空の天峰は、獣操士にとってとても重要な場所である。

 聖地と呼ばれており、身を清めるために年に一度は必ずのぼる。

 それに、天空の花は煎じて飲むと、獣失を遅れさせる効果があると言われていて、若い獣操士は天空の花をとりにいくことも仕事の一つだった。


「あそこは、迷いやすいから。もしかしたら迷っているかもしれません」

「ユエルちゃん……」

「駄目だよ。ユエル、危険だ」

「大丈夫です、何度も登りました。道は、頭の中に入っています」

「じゃあ、俺も行く」


 ユエルの決意がかたいことに気づいたのか、シュエは迷いなくそう言った。

 それから「エスナさんも一緒に行こう」と言って、手を差し伸べた。



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