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喫茶パライナの不思議



 食事を終えてシュエが支払いを済ませている間、先ほどはあれほどにこやかだったメルディはずっと不機嫌で無愛想な対応をしていた。

 シュエと会話をしていたことも忘れたようなメルディを気にする様子もなく、シュエはさっさと支払いを終えるとユエルを連れて店を出た。


「アメリアさんの店、料理が美味しくて好きだったんだけど、しばらくは近づかない方がいいね。他にも食事ができる場所はたくさんあるし、次は別の店に行こうか、ユエル」


「メルディさん、機嫌が悪そうでした」


「困ったものだね」


「シュエさんのことがそれだけ好きだったんですね」


「一度助けただけだよ。俺は名前も知らなかったし、顔も覚えていなかったし」


「シュエさんはあのお店に何回も行っているのに、メルディさんのことを知らなかったのですか?」


「食事に行った先のウェイトレスの顔や名前なんて、いちいち覚えていないよ。エスナさんのことを知っていたのは、エスナさんは俺の店に来る人だからで、バルドさんもそう」


 シュエは片手にユエルのために買ってくれた服の入った袋を抱えている。

 空いている方の手で、ユエルの手を握っている。先ほど、シュエにとっては誰かから向けられる感情が重いのだと聞いてしまっているから、手を繋いで歩いているユエルは尚更落ちつかない気持ちになった。


 一度助けただけの相手は、シュエにとっては特別な相手ではないのだ。

 メルディもそうだし、それはユエルも同じ。

 それを忘れないようにしないといけない。ユエルにとってシュエは恩人でも、シュエにとってユエルは助けた誰かのうちの一人でしかないのだから。


「……そういえば、シュエさん」


 ふと気になって、ユエルは尋ねる。


「メルディさんは、シュエさんのお店の場所を聞いたのに、辿り着けなかったって……お店から街への道は、まっすぐで、わかりやすかったのに。どうしてでしょう?」


 そんなに迷いそうな道でもなかった。

 行くあてのなかったユエルが迷い込んだぐらいだ、道が雑草で塞がれているわけでもなければ、何本もの曲がり角があるわけでもない。まっすぐな一本道だった。


 場所を聞いて向かえば、すぐに辿り着けそうなものだと思うのだが。

 そう思いながらシュエを見上げる。シュエは秘密を打ち明けるようにして、どことなく楽しげに目を細めた。


「あぁ、それはね。喫茶パライナは実は俺の魔法でいつも隠してあって」


「魔法で、隠す?」


「そう。結界というのかな。客が増えすぎると疲れてしまうし、混雑するのは嫌だなって思っていて。一日に、二人か一人、客が来ればいいかなっていうのと……あとは、余計な人間を、招き入れたくなくてね」


「結界……」


「ユエルが俺の元に来た時、光玉が、君の周りに浮いていただろう? あれは、俺が作り出した俺の店への道標。あの光玉が、俺の店へ来ることのできる人を選別しているんだ」


「光玉が、選んでいる……私は、選んでもらったのでしょうか」


「そうだね。光玉には、悪心のない者を通してと、伝えているんだ。光玉は、人を見る。俺の店に連れてくる人を、選り分けてくれるんだよ」


「……どうして、メルディさんは、辿り着けなかったのですか?」


 それこそ、よくわからない。

 ユエルは獣失を起こしていて、シュエにとっては迷惑で面倒でしかないだろう。

 メルディはシュエに好意を抱いている。選ばれるべきはメルディであって、自分ではないのではないかと思う。


「光玉が選ばなかったのには、相応の理由があるのだと思うよ。あの女性のことはよくわからないけれど、……選ばれなかったのだから、気をつけるべきなのだろうね」


「……シュエさん、どうして、私は」


「光玉が君を選んだのにも理由はある。光玉は俺の分身のようなものだから、君を俺が助けるべきだと、判断したんだろう。それは正しいと、思った。だから、俺は君を店に招いたし、一緒に暮らすことを決めたんだよ」


「ありがとうございます。私、自分がいい人なのか、悪い人なのか、わかりません。でも、シュエさんが助けようと思ってくれたことを忘れないように、いい人間でいたいと思います」


「俺は、今日は君に余計な話ばかりしている気がする」


「ごめんなさい、余計な話がどの話なのか、よくわかりません」


「ユエル。君は君のままでいればいい。いいとか、悪いとか、気にしないで大丈夫。俺だって別に、いい人間なんかじゃない。ただ、面倒なことに巻き込まれるのが、好きじゃないっていうだけでね」


「私を助けたことは、すでに面倒なことなのではないかと思います」


「そんなことはないよ」


 シュエはユエルから手を離すと、そっと頭を撫でた。

 感情が好きじゃないと言ったり、面倒なことに巻き込まれたくないと言ったり。


 けれど、ユエルのことは迷惑ではないと言う。

 ユエルにはシュエのことがよくわからない。わからないけれど、撫でられると無性に恥ずかしかった。 


(私は、妹のように思ってもらっている。だから、シュエさんは私に優しい。それは嬉しいけれど、恋人と言われた時も、変な感じがした)


 シュエの優しさに、寄りかからないようにしないと。いつでも一人になる覚悟をしておかないといけない。

 必要な雑貨などを買って、帰路についた。

 夕方の街を歩きながら、ユエルはそんなことを考えていた。



お読みくださりありがとうございました!

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