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シュエの悩み



 トマトで味付けられたマトンミートは、香草を多く使用しているために臭みがなく、大き目な円柱状のパスタによく味が絡んでいる。

 ユエルはこくんとそれを飲み込んで、アイスティーを一口口に含んだ。

 シュエはクック鳥のグリルをナイフで食べやすい大きさに切って、半分を皿に取り分けてユエルの前に置いた。


「ユエルと二人でいると、普段食べきれないものも半分にできるから、色々食べることができていいね」


「シュエさんは、細いのに沢山食べるのですね」


「うん。料理をするのも好きだし、食べるのも好きだね。俺の場合は、魔力を生活のために結構使用しているから、魔力の補充のために食事を多めにとることも必要なんだ。魔力の使用は、長距離を走り続けることと少し似ていてね」


「それは少し、分かる気がします。私も、お勤めのあとはお腹がすきました」


 シュエの前の皿があっという間に空になっていくのを感心しながら眺めて、ユエルは言う。

 空腹になったといっても、そんなに沢山食べることができるわけではなかったのだが、空鯨と己の体を繋げて魔力を捧げると、空腹になったことを覚えている。


「ユエルと話をしていると、安心する」


「え……どうして、でしょう」


「俺は、普通に生きているだけなんだけど、人と人との揉め事に巻き込まれることが多くてね。今のも、そう。ユエルと二人だと、そういうの、ないから」


「揉め事……」


「うん」


「さっきの」


「そう。……多分、だけれど。メルディさんはバルドさんに、俺のことを聞いていたんだよね。それを、エスナさんはたまたま見てしまって……浮気だって、思ったんじゃないかなって」


「それなら、エスナさんにお話ししたらいいのではないでしょうか」


 エスナが勘違いだったと理解すれば、バルドとエスナは仲直りできるのではないかとユエルは思う。

 シュエは悩まし気に眉を寄せると、軽く首を振った。


「……あまり、そういうのに巻き込まれたくないんだ。困っている人がいたら助けるのは、当たり前のことだとは思うけれど。それ以上の感情は、俺にとっては重くて」


「感情が、重い?」


「うん。……なんといえばいいのかな。すごく重たい荷物を、押し付けられている感じがする」


 感情が、重い。

 それはどういうことだろうかと、ユエルはトマトサラダを口に入れながら真剣に考える。


 向けられる感情が、シュエにとっては重石を体に括りつけられているように感じられるということだろうか。

 だとしたら、自分の存在も、シュエにとっては重たいのではないか。

 まるで――両手両足に鉛をくくりつけられて、空の底へと沈んでいくように。


「……シュエさん。私、シュエさんの迷惑にならないようにします」


「えっ……あっ、ごめんね、ユエル。君のことを悪く言ったわけじゃないんだよ。ユエルといると、落ち着く。これは、本当にそう」


「どうしてですか? シュエさんにとっては、私も重たい荷物の一つなんじゃないでしょうか」


「君は、思ったことを隠さずに、飾らずに、真っ直ぐに口にしてくれるね。そういうところが、凄く楽」


「ごめんなさい。嘘をつくことは、慣れていなくて。獣神殿では、この国の人々は皆家族で、善き人しかいないのだと教えられてきました。家では……口を開くとあまりよくないことが起こるものですから、あまり話さないようにしていました。だから、あんまりお話するのが、得意じゃなくて」


「君はそのままでいいよ、ユエル。……まだ少ししか、君と時間を過ごしていないけれど、君が正直でいい子だっていうことは、よくわかるから」


「……は、はい、ありがとうございます」


 ユエルは食事の手を止めると、シュエの横顔をじっと見つめた。

 余計な肉のついていない顎のラインや、細身に見えるのにユエルよりもずっと太い首や、ユエルにはない喉仏。高い鼻梁に、優し気な目元。癖のある黒い髪と、金の瞳。


 綺麗だなと思う。穏やかで優しい口調で話しかけられると、気持ちが安らぐ。

 メルディが、好きになる気持ちも分かる。


「私、シュエさんに大きな気持ちを、抱かないようにしますね」


「大きな気持ち?」


「はい。それはシュエさんにとって、とても重たいのでしょう? だから、迷惑をかけないようにします」


「……ごめん、余計な話をしてしまったみたいだ」


 忘れてと、シュエは言った。

 ユエルは頷いたけれど、シュエにとって恋心や感情は重たいのだと、頭の中で考えて、恩人に迷惑をかけてはいけないと、自分に言い聞かせた。




お読みくださりありがとうございました!

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