豪勢なお昼ご飯と痴情のもつれの気配
黒マトンの挽肉とみじん切りの玉葱をいためてトマトソースで味付けしたソースがペンネと絡んでいるマトンミートのパスタ。
薄切りにしたトマトにフレッシュチーズが挟まり、綺麗に花のように並べられたトマトサラダ。
カクテルグラスに茹でられて綺麗に赤色になった川エビが、ぐるっと引っかけるようにして盛り付けられた川エビのカクテル。
半分に切られているボートのような形の長ナスに、チーズをのせてこんがり焼いてあるナスのチーズ焼き。
卵も肉も皇国ではよく食べられるクック鳥の胸肉を、叩いて平たくしたものにパン粉をまぶして香草と一緒に焼いたクック鳥のグリル。
それからアイスティーが二つ。
次々と運ばれてくる料理で、ユエルたちの座るテーブルの上はいっぱいになった。
二人分の食事にしては多すぎるのではないだろうかと思いながら、ユエルは並べられていくどれもこれも美味しそうな料理を見つめていた。
「お待たせしました。これで全部ですね。あぁでも、シュエさんに会えてよかった。あのときはありがとうございました。私、お礼を言おうってずっと思っていて」
メルディはてきぱきと料理を運んだあと、熱心にシュエを見つめながら言った。
ユエルはもしかして自分は邪魔なのではないだろうかと考えながら、じっと料理を見ていた。
話を聞く限り――メルディは、街を歩いていたら怖い男性たち(怖い男性たちというものをユエルはいまいち想像できないのだが)に絡まれてしまった。
それを、たまたま通りかかったシュエが助けてくれたのだという。
シュエは優しいので、ユエルを助けたようにメルディのことも助けたのだろう。
いつもそうしてたくさんの人を助けているのだろうと、メルディの話を聞きながらユエルは思う。
「以前、うちの店に来てくれたときに、バルドさんと話していたのを思いだして、バルドさんに聞いたんです。喫茶パライナ、街外れの喫茶店で働いている人だって……でも、探したんですけど、どこにあるか分からなくて」
「そうなんだね。困っている人を助けるのは当たり前だし、よくあることだから気にしなくていいよ」
「私、助けて貰って嬉しくて……シュエさん、もしよければお礼をしたいから、今度一緒にお食事でもどうですか?」
「遠慮しておくよ。悪いけど、俺は今日、一人じゃないんだ。だからあまり邪魔をされたくなくてね」
シュエがメルディに冷たくするのを見て、ユエルは視線を料理からシュエの横顔にうつした。
誰にでも優しいいいひとなのだろうと考えていた。
だから食事の誘いも「いいよ」と、答えるのだろうと思っていた。
そうしたらユエルは邪魔になるので、どうしようかと考えていたところだった。
男女のことは詳しくは分からないけれど、明らかにメルディはシュエに好意を持っているように思えたし、愛らしい女性に声をかけられたのだから、きっと嬉しいだろう――と、思う。多分。
男性の気持ちはよくわからないけれど、そんな気がしていた。
「あっ、私ってば、ごめんなさい。シュエさんの……妹さんかしら」
「あ……はい、妹、です」
「違うよ」
「えっ」
シュエは妹のようなものだとユエルのことを言っていた。
だからメルディの問いにユエルは頷いたのだが、シュエはそれをすぐに否定した。
駄目だったのだろうか。やはり血が繋がっていないし、獣失をした女など妹だと言われるのは嫌なものだろう。
ユエルは妹と言われたのが嬉しかったので、少し悲しい気持ちになった。
「ユエルは俺の大切な恋人。だから、悪いけれど邪魔をしないで欲しいんだ」
シュエはユエルの手を軽く握ると、「ね?」と、同意を求めてきた。
ユエルは困り果てながら、小さく頷いた。
どうしてそんなことを言うのだろう。分からないけれど何か理由があるはずだから、ここは合わせておいた方がいいだろう。
何故かは分からないけれど、妹と言われたときよりも、胸の奥が切なく疼いた。
愛しげにユエルを見つめる金の瞳から、視線を逸らす。理由はわからないし、シュエとは恋人ではないのでこれはきっと演技なのだろう。分かっているのに、落ち着かない。
メルディは「恋人……」とがっかりしたように呟いた。
それから少し唇をとがらせて「じゃ、ごゆっくり」と言って、店の中に戻っていった。
メルディがいなくなると、シュエは深く溜息をついた。
これで二回目だ。さっきもメルディがいなくなった途端に疲れたように溜息をついていたなと思い出しながら、ユエルは首を傾げる。
「シュエさん」
「ん。……ごめんね、恋人とか、言って」
「それは別に構わないのですけれど、大丈夫ですか? 私のためにお買い物をしなきゃいけなくて……ごめんなさい」
「え?」
「シュエさん、すごく疲れたみたいに見えます。五歳ぐらい老けた感じです」
「それはまずい。五歳老けたら俺は三十一歳になってしまう……」
「二十六歳なんですね。私よりも八つ年上です」
「隠してたわけじゃないけど、ばれてしまったね。すごくおじさんって感じがする?」
「しないです。若いです」
「ありがとう」
シュエは「冷める前に食べよう」と言って、たくさんの料理をユエルの為に皿に取り分けてくれた。
ユエルはシュエがフォークを持ってマトンミートのパスタを口にするのを見てから、自分もトマトサラダを口に入れた。
まろやかなフレッシュチーズにトマトの甘さと酸味が絡んで、少し青臭さのあるオリーブオイルのドレッシングがチーズとトマトを一つにまとめあげている。
「美味しい……」
「よかった。ユエル、君との買い物に疲れたりしないよ。メルディというウェイトレスとバルドさんとエスナさんの恋愛の縺れに、巻き込まれた予感がしてね。だから、ちょっとうんざりしてしまったんだ」
「巻き込まれたんですか、シュエさん」
「うん。おそらく」
話を聞いていたけれど、気づかなかった。
どのあたりで巻き込まれたのだろうかと、ユエルはマトンミートのパスタを口に入れながら考える。
考えはしたものの、結局よくわからなかった。
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