買い物と新生活
朝食を食べ終えると、ユエルはシュエに連れられて家を出た。
ユエルが昨日この場所を訪れたときは、薄暗くてよく見えなかったが、シュエの家の前には大きな果物の木が何本もあり、アップルチェリーや、スターレモン、三角ブドウなどが実っている。
玄関から続くアプローチにはハートいちごがたくさん実っており、一生果物には困らないぐらいに見えた。
果物の木もあれば、色とりどりの花もある。
玄関から少し進んだところに綺麗な水をたたえた小川が流れていて、明るい日差しを受けた水面に魚影まではっきり見ることができた。
「とても、綺麗。シュエさんの家は、静かで素敵な場所に建っているのですね」
「誰も来ない街外れだけれどね。お客さんは、時々くるけれど」
「落ち着きます、とても」
「そう、よかった。ユエルに気に入ってもらえて嬉しい。俺もこの場所は好きだよ。遠くに行かなくても、この場所で全て完結している感じがしてね」
「全て、完結している?」
「ん。空鯨は常に空を飛んでいるでしょう? 俺たちは常に世界を移動している。だから、俺はあまり、遠くに行きたくないなって思っていて」
ユエルはシュエと共に街に向かう道を歩いていく。
昨日一人で歩いていた時は心細いばかりだったけれど、今は空も木々も水も花も、光り輝いているように感じられた。
「俺の家、水はあるし、俺は魔法を使えるから火も風も、氷だって作ることができるしね。植物も、発育を促して育てることができる。魚もいるし、肉は、裏の森にツノ鹿や一角ウサギがいる」
「そうなんですね……私、釣りや、狩り、上手くなろうかと思いましたけれど、必要ないですか?」
「ユエルが? 釣りはわかるけれど、狩を?」
「は、はい! シュエさんのために一角ウサギやツノ鹿を捕まえようかと」
「だめだよ、危ない。ユエル、危険なことはしないで。あの子たちは普段は無害だけど、捕まえようとすると刺してくるからね、ツノで」
「そ、そうなんですね……」
役に立てると思ったのにと、ユエルは少ししょんぼりした。
「ともかく、生活に必要なものは揃っていて、金を使うことは滅多にないから。今日は奮発して、外で食事をしようか、ユエル。君の服と、靴と、それから何が必要かな。歯ブラシ?」
「なんだか申し訳ないです」
「遠慮しないの。俺はお兄さんなんだから。それよりもユエル、君は昨日、街で嫌な思いをしたんだよね」
「嫌な思いというか……仕方ないことだったと思います」
「仕方なくなんかないよ。空鯨を生かすために己の魔力を捧げていた者を差別するのは、この国の一番悪いところだ」
シュエはやや不機嫌そうにそう言うと、足を止めた。
何事かと思い立ち止まるユエルの顔を、両手で包むようにする。
「君の髪、とても綺麗だと思っているよ。本当に。でも、白い髪は街では目立つから。少しだけ、色を変えるね」
ふわりと温かい春風に包まれたような気がした。
ユエルの白い髪は、あっという間に元の黒髪に戻っていた。シュエの手がするりと離れていくのを、少しだけ名残惜しいと思う。そう思う自分が不思議だった。
「髪が黒くなりました……」
「君の髪から失われた魔力を、少し戻した。でも、明日になれば元に戻るよ。俺の家にいるときは、白い髪を隠す必要はないからね」
「私、元々は黒い髪だったんです。ふふ、なんだか懐かしいですね」
「黒髪の君も綺麗だよ、ユエル」
「ありがとうございます。褒められると、照れてしまいますね」
「夜のような黒髪と月のような白い髪の君に、似合う服をたくさん買おうか、ユエル」
「はい、御恩は必ず返しますね」
「気にしなくていいけれど」
失った魔力を、シュエの力を分けて貰って、ほんの少しだけ補うことができたからだろうか。
風に揺れる黒い髪から、シュエの優しい魔力が感じられるような気がした。
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