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スクランブルエッグとシナモントースト



 シュエはユエルを、ユエルが寝ていた寝室のベッドに運んだ。

 ユエルをベッドに降ろすと、「あ。髪がすごいことになってる。癖毛はこれだから」と言いながら、ぱぱっと手櫛ではねる髪を軽く整えた。


「ユエル、昨日の夜の内に君の服を洗って乾かしておいたよ」


「えっ、お洗濯を、してくれたのですか? すみません、私もお手伝いしようと思っていたのに」


「明日からね。ユエルの服がないと思って、少し急いだんだ。炎魔法をいい感じに火力調節して乾燥させたんだけど、普段はあんまりしないよ。洗濯を急ぐような生活は送っていないし」


 シュエはそう言って、クローゼットを指さした。


「クローゼットに君の服はしまってある。着替えて、一階においで。朝食にしよう」


「あの、シュエさん。ここは、シュエさんの寝室ですよね。ベッドも……私に貸してくれたから、シュエさんはソファで寝ていたんですよね」


「ん。気にしないでいいよ。ソファも結構寝心地がいいし」


「でも」


「いいんだよ。ゆっくりしたくをしておいで。二階の浴室に、洗面所があるからね。洗面所の水瓶に水が入っているから、それを使って。俺の魔法で作った水だから、得に問題なく飲めるし、遠慮せず使っていいよ」


 部屋から出ていくシュエを見送ってから、ユエルはクローゼットを開いて服を脱いだ。

 ハンガーに借りていたシャツをかけると、クーゼットの一番下に置いてあるカゴの中に入っている、昨日着ていた服に着替える。


 下着を身につけて、飾り気のないワンピースを着た。

 靴下と布靴をはいて、ドレッサーの鏡で自分の姿を確認して、ブラシで髪をとかす。


 それから洗面所に行って、顔を洗って口をゆすいだ。

 良い香りのする洗髪料で洗った髪からは、花の香りがする。肌も髪も、心なしか艶々しているような気がする。

 体はいつも以上に軽い。重たかった髪が軽くなったせいもあるのだろう。


 そうこうしているうちに、一階からなにやら美味しそうな匂いが漂ってくる。

 今日から手伝いをしようと思っていたのに、まだ何もしていないことに焦りながら、ユエルは一階に降りた。


「シュエさん、私、手伝いを……!」


「店を開くのは昼過ぎで、ほとんど趣味でやっているようなものだから、気が向かないときは開かないこともあるんだ。だから、本当はもっとゆっくり寝ていてもよかったんだけれど」


 階段からぱたぱたと降りたユエルは、キッチンに立つシュエの元へと向かった。

 コンロに置かれたフライパンの上で、黄金色のスクランブルエッグがふんわり炒められている。

 バターと卵の焼ける香ばしくていい匂いがする。


「ほら、座って。珈琲を出してあげるね。それともミルクがいいかな。ユエルは、何の飲み物が好き?」


「好きなもの、あまり考えたことがないんです。獣神殿では、出されたお食事を、ありがたくいただいていました」


「獣神殿の料理は、味気ないでしょう? 俺の記憶では確か、つぶした芋ばかり出ていた気がするよ。脂や砂糖は控えめだね。獣操士の健康を管理するために、粗食が推奨されていた」


「い、いえ、その……私の家は、あまりお金がありませんでしたから、お腹がいっぱいになるぐらいのお食事を頂けるだけで、ありがたいと思っていました」


 シュエはやはり、獣神殿についてかなり詳しいようだ。

 ユエルは促されるままにカウンター席に座った。

 シュエはぐるぐるとかき混ぜたスクランブルエッグを、白い皿にうつした。


 それから、ガラスのケトルになみなみと入った珈琲をカップに入れて、そこにミルクを注いでカフェオレにすると、ユエルの前に置いた。


「珈琲は苦いから、ミルクと混ぜた方が飲みやすいかな。砂糖は、テーブルの上にある瓶の中。甘い物が好きだったら、沢山入れてかき混ぜて」


「ありがとうございます。私も、なにか」


「手伝わなくていいよ。これから、共同生活をするわけだから、ある程度の家事は手伝って貰おうかなって思っているけれど、その時はちゃんと頼むし、今は仕事中じゃないわけだし。朝食ぐらい、緊張しないでゆっくり食べて欲しいな」


「でも、私」


「俺はユエルよりもずっとお兄さんだからね、もっと俺に甘えていい」


 白い皿の上のとろりとしたスクランブルエッグに、作り置きの瓶詰めのトマトソースをかける。

 それから、コンロの横にあるトースターで焼いていたパンを、同じ皿の開いている場所に乗せた。


「スクランブルエッグと、シナモントーストだよ。バターと、少しの砂糖。それからシナモンがふってある。甘くて美味しい……と、思うんだけど。どうかな」


「ありがとうございます、でも、シュエさんは」


「俺は朝食は、あんまり食べないんだ。だいたい珈琲だけだね」


「じゃあ、わざわざ私の為に」


「料理、好きだから。それに、朝からユエルのために料理をつくることができて、俺は嬉しいと思っているよ」


 シュエは皿をユエルの前に置いた。それから、フォークとスプーンも置いてくれる。

 皿の上には、四角くて厚みのあるシナモントーストと、スクランブルエッグ。それから、カフェオレ。


 ユエルにとってはあまり馴染みのない料理ばかりだ。

 とても、いい匂いがする。


「どうぞ、ユエル。量が多かったら残してもいいからね。召し上がれ」


「……あの」


「ん?」


「ありがとうございます、いただきます……!」


 ユエルはぺこりとシュエに頭をさげて、フォークを手にした。

 申し訳ない気持ちもあるし、どうしてこんなに優しくしてくれるのかと戸惑う気持ちもある。


 けれど、これは自分のためにシュエがつくってくれた料理なのだ。

 ありがたくいただくのが、礼儀というものだろうし、純粋に嬉しい。そして美味しそうだった。


 ぱくりと、スクランブルエッグを口にする。

 まろやかな卵の味と、バターの風味。すっきりとした味わいの酸味のあるトマトソースの味が舌の上でひろがった。

 こくんと、飲み込んで、カフェオレを口にする。


 ミルクの甘さと、珈琲の苦さが混じり合って、優しい味がする。

 シナモントーストは甘くて、不思議な香りがした。


「美味しいです、シュエさん! すごく、美味しい」


「うん。よかった。美味しそうに食べてくれて、嬉しいよ、俺も」


 シュエは珈琲を飲みながら、にこにこ微笑んだ。




 

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