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ベルタ村 3

※2話同時更新しています。



「その、偉そうなことを言ってしまってごめんなさい」

「……いえ、ありがとうございます」


 予想と反して、イザベラはお礼の言葉を紡ぐ。


 その姿からは彼女が魔法に対し、真摯に向き合っていることが窺えた。


「ティアナは優秀な聖女だと言っただろう?」

「……知識はいくらあっても、困りませんから」


 フェリクスからふいと顔を背けたイザベラは、それだけ言うとすたすたと歩いていく。


 聖女の聖魔法属性というのは特別で、同じ聖女にしか分からない感覚がある。


 今は聖女も少ないため、誰かに教えてもらう機会など無いに等しいのだろう。


(仲良くなれたら、色々教えたいことがあるのに)


 子どもの頃と違い、今のイザベラの実力だからこそ教えられることだってたくさんある。


 私は知識だけは豊富だし、彼女や彼女の後に生まれる聖女達のためにもなるはず。


 そうして進んでいくうちに、先程よりも魔物が増えていることに気付く。


「一気に数が増えてきたな」


 フェリクスはまるで肩についた埃を払うように、剣で辺りの魔物を軽く切り伏せる。


(なんだかんだ一番優秀なのはフェリクスなのよね)


 まだまだ彼の本気を見ておらず、底が知れない。


「この先に呪いの元があるみたいですね」

「ええ。でもやっぱり、魔物が少ないのが気がかりね」


 何故だろうと不思議に思っていると、やがて村の最奥にある池が見えてきた。池自体は大きくはなく、橋がかかっていて中心には小さな霊廟のような建物がある。


 あの中に呪いの元があると、直感的に分かった。


「向かいましょう」

「ああ」


 フェリクスは頷くと、道を切り開くように魔物を倒していく。池の上にかかっている橋はかなり劣化していて、歩くだけで崩れ落ちてしまいそうだった。


 慎重に進んでいき、イザベラが霊廟の入り口に手を伸ばした途端、バチッという弾くような音と共に、彼女の短い悲鳴が響いた。


「きゃあっ」

「大丈夫!?」


 どうやら赤の洞窟の扉同様、霊廟は結界に覆われているようだった。


 イザベラの白い手は火傷のように爛れ、彼女はすぐに治癒魔法を使うと「大丈夫です」と小さく息を吐いた。


「……これほど複雑で幾重にも重ねられている結界を破るとなると、かなりの時間を要するはずです」


 今の私達に時間の余裕などない。本来なら数日かけて破るようなものだと察したらしいイザベラの声には、諦めが含まれている。


 普通は誰だってそう考えるだろうし、他に方法はないはずだろう。それでも。


「……私なら、どうにかできるかもしれません」

「えっ?」


 一歩前に出て、霊廟の入り口へと手を伸ばしてみる。


 すると以前と同じように何の障害もなく、触れることができてしまった。


(……やっぱりこの場所にも、私の魔力が使われているのね)


 予想していたことではあったけれど、私の魔力がこの地の呪いにも使われ、多くの人々の命を奪ったのだと思うとひどく胸が痛んだ。


 そんな気持ちが顔に出ていたのか、フェリクスが気遣うように私の背中に触れた。


 その優しい温もりに、救われた気持ちになる。


「どうして……」


 一方、イザベラは信じられないという表情で私を見つめていた。


「無事に解呪が終わった後、全てをお話しします。私の魔力で覆えばお二人も結界の中に入れるはずなので、手に触れても?」

「……ええ」


 聡いイザベラも、私の身に何が起きているのか察したのかもしれない。それでも何も尋ねることはなく、私に手を差し出してくれる。


 私は彼女にお礼を言うと、右手でフェリクスの手に、左手でイザベラの手に触れ、二人を包み込むように魔力を流した。


 二人の手を引いて前へと進み、入り口を通り抜ける。


「本当に通れるなんて……」


 イザベラは戸惑った様子で、繋いだままの手へと視線を向けていた。


 その反応は当然だし、今のこの場で問い詰められないことに感謝せずにいられない。


「とにかく進もう。ルフィノ様以外の魔法使いがいつまで持つか分からない」


 フェリクスの言う通り、村を覆う結界はルフィノの魔力だけによるものではない。


 私は頷くと、霊廟の中へと足を踏み入れた。


 霊廟の中もかなり劣化していて、一歩歩くごとにギシギシと床が軋む音がする。


(どうして魔物がいないの……?)


 間違いなくここが呪いの中心地のはずなのに、魔物が一体もいないなんておかしい。そもそも村の中に少なかったのも不可解で、違和感を覚える。


 やがて霊廟の最奥の部屋へと辿り着き、緊張しながら仕切られていた薄布を除けようとした時だった。



「──誰か、いるのですか」



 奥から人の声が聞こえて、思わず手を止める。聞こえてきたのは、若い女性の声だった。


 

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【脇役の私がヒロインになるまで】

新連載もよろしくお願いします!

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