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ベルタ村 1



 ベルタ村の解呪をする、当日の朝。


 私はフェリクス、ルフィノ、イザベラと共に馬車に揺られ、目的地へと向かっている。ゲートを使って長距離移動をしたため、計七時間ほどで到着するそうだ。


 そのため朝の四時に出発し、朝日を背に馬車は走り続けている。


「イザベラ様、体調はどうですか?」

「問題ありません」

「…………」

「…………」


 一度、イザベラに声をかけたものの、冷ややかな返事をされて会話は終わってしまった。


 いくら嫌われていても、浄化の際には協力をしなければならない場面だってあるはず。


(このままで本当に大丈夫かしら)


 万全の状態で望んでも「絶対に大丈夫」と言い切れないのが呪いというもので、やはり不安になってしまう。


 そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、隣に座るフェリクスが膝の上に置いていた手にそっと自身の手を重ねた。


「大丈夫だよ。俺もついているから」

「ええ、心強いわ」


 フェリクスがいると、どんなことでもできる気がしてくる。彼の手をきゅっと握り返し、前向きな気持ちで感謝の言葉を告げた。


「ベルタ村の結界は国に仕える魔法使い達が張ったものでしょう? 彼らが到着するまで時間がかかったでしょうし、どうして広範囲に広がらなかったのかしら」


「当時ベルタ村にいた魔法使いが、命をかけて最後まで結界を張っていたそうです。全てを抑え切ることはできなかったようですが、そのお蔭で被害は減りました」


 その魔法使いの張った結界を土台にして、駆けつけた帝国の魔法使い達が今の結界を張り、完全に封鎖されたのだとルフィノは教えてくれた。


「……そうだったのね」


 そんな選択、誰にでもできるようなことではない。優れた結界を張れる魔法使いなら、生き延びる道だって探せたかもしれないのだから。


 胸が痛みながらも、多くの人々の命を奪った呪いを絶対に解いてみせると、きつくロッドを握りしめた。


「ティアナ、手を」

「ありがとう」


 フェリクスの手を取って馬車を降りると、そこには木々に覆われた小さな村があった。


「ここが、ベルタ村……」


 外から見る様子は、普通の村となんら変わらないように見える。


 ただ驚くほど静かで、生き物の気配が一切しない。そして村を取り囲む一定の場所から先には植物も一切生えておらず、そこが結界との境界線なのだと分かる。


「……完璧な結界ね」

「はい」


 思わず呟くと、隣に立つルフィノが静かに頷いた。


 多くの人々が命懸けで張った結界は、見事なものだった。こうして村の目の前にいても、呪いの気配をほとんど感じないくらいには。


 だからこそ、違和感を覚えてしまう。


 ──十五年前に張られたものにしてはあまりにも強力で、完璧すぎる。


 強力な結界というのは、常に魔力を供給する必要がある。これほど広範囲なら尚更だ。赤の洞窟の結界だって常に私の魔力を使い、張られていた。


 何よりこれは聖女でもなく当時の魔法使いによるものだと聞いているからこそ、なぜこれほどのものが維持されているのか理解できなかった。


「どうなっているの……?」


 イザベラも同じ感想を抱いたらしく、首を傾げている。そんな中ふと、結界の手前に小さな祠があることに気が付く。


 そこには花が供えられ、小さな男性の像が置かれている。男性の像には傷み古びた、水晶でできたブレスレットが掛けられていた。


「これは?」

「この地に最初に結界を張った男性を祀ったものです。このブレスレットが結界の媒介になっているそうです」

「そうなのね。何か神聖なものなのかしら」


 とにかく中へ入って調べるしかないと、きつくロッドを握りしめる。


「準備ができたら、結界を破ります」

「はい、よろしくお願いします」


 ルフィノに頷いたフェリクスは、村の外で待機する魔法使いや騎士達に指示をしていく。


 私達だってルフィノだって、失敗する可能性はある。

近隣の町の住民達は一時的に避難するよう指示をしてあるけれど、何が起こるか分からない以上、守りを固めるそうだ。


「フェリクス様の結界は、私が張ります」

「ええ、お願いします」


 イザベラの提案に頷く。私の力を信じていない以上、彼女もその方が安心できるだろう。


 何より今の私よりも、イザベラの方が魔力量は多い。

少しでも魔力を温存しておくためにも、彼女にお願いする方がいい。


 私は自分の周りにだけ、瘴気から身を守るための結界を張った。


 赤の洞窟では魔力量が少なくてルフィノに頼ったけれど、ある程度回復した今なら、これくらいは問題ない。


 魔力のコントロールには自信があるし、最小限に抑えられるだろう。


「……本当に、聖属性魔法が使えるんですね」


 私が結界を纏う姿を見て、イザベラは驚いたように目を見開く。やはりその反応が引っかかり、ずっと気になっていたことを尋ねてみる。


「イザベラ様は私が魔法を使えないという話を、どこかで聞いたのですか?」

「ファロン王国で見たんです。あなたが何もできずに泣いている姿を」

「えっ?」


 予想していなかった言葉に、次は私が驚く番だった。


(イザベラがファロン王国に来ていたの……?)


 他国の聖女、それも王女の訪問となれば大々的に出迎えられるはずだけれど、私はそのことすら知りもしなかった。


 けれどいつも周りからは避けられ蔑まれ、神殿内──自室からも用がなければ出されることもなかった私が知らなかったとしても、おかしくはない。


 けれど、あの頃の私の姿を実際に見ていたのなら、イザベラの態度も頷ける。


 彼女からすれば何の力もない無能な私が、優しいフェリクスやルフィノに甘え、穀潰しとして呑気に暮らしているように見えるのだろう。


 まだまだ聞きたいことはあったけれど、ルフィノ達の準備も終わったようだった。とにかく今は、目の前の呪いを解くことだけを考えなければ。


(それに、自身のすべきことをこなしていれば、誤解も解けるはずだもの)


 結界を解くためのルフィノに、そっと声をかける。


「上手くいきそう?」

「はい。お手本のような素晴らしい結界ですから、解析もしやすいです」


 強い結界といえど、正しい手順と魔法式により張られたものだからこそ、魔法についての造詣が深いルフィノからすれば解析がしやすく、問題はないようだった。


「結界を破った後、即座に新しいものを展開します」

「分かりました」

「──いきます」


 その瞬間パリンと軽い、砕けるような音がして、私達三人は一瞬で結界の内側へ入る。


 直後、ルフィノがあっという間に新たな結界を張り直したのが分かった。


 他の魔法使いたちも後に続き、魔力を注いでいく。


(流石ルフィノだわ)


 そうしてほとんど瘴気を外に出すことなく、完璧な新しい結界が村全体を覆った。これでしばらく呪いが外に漏れ出ることはないはず。


 やはりルフィノは私が知る中で最も素晴らしい魔法使いだと、改めて実感する。


「行ってきます」


 一度振り返って目線を送ると、ルフィノは笑顔を返してくれる。必ず成功させて戻ってくるという気持ちを込めて私も笑みを向け、歩き出した。


 

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【脇役の私がヒロインになるまで】

新連載もよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
[一言] コミック2巻、前倒しで本屋にあったので本日買って読みました! 続きも気になりちょこちょこ覗いてますので更新お願いします(^^)
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