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聖女と聖女 5

大変お久しぶりですみません……!

すでに完結まで書き終えているのでちまちま更新してまいります!引き続きどうぞよろしくお願いします;;



 イザベラが帝国に来てから、もう四日が経つ。


 長年聖女がいなかった帝国に私だけでなく彼女も来てくれたことで、民達はかなりの安心感や期待を抱いているようだった。


 やはりイザベラは私以外の人には愛想が良いらしく、彼女への評価も上がり続けている。


 一方、私は顔を合わせてもほぼ無視で、二人きりで話す機会もないまま。フェリクスがイザベラに理由を尋ねても「言いたくない」の一点張りだという。


 イザベラの私への態度が許せないらしく、フェリクスは話をすると言ってくれたけれど、気にしていないからと言って宥めている。


 何より明日はいよいよベルタ村に行く日だし、直前に変に拗らせてしまうのも嫌で、無理に声をかけたりせずにいたのだけれど。


「……ありがとうございます、皇妃様」

「いえ、大丈夫です。お力になれて良かったです」


 仕事の合間に偶然イザベラに出会(でくわ)し、道に迷っていた彼女を図書館まで案内した。


 一応は丁寧な態度をとっているものの、やはりイザベラの態度からは私を嫌っているのが伝わってくる。


「図書館には何の用事ですか? 目的の本があるなら、本棚まで案内しますよ」

「明日までできる限りのことをしたいので、帝国について調べようと思いまして」


 どこまでも帝国のために一生懸命になってくれている彼女に、胸を打たれる。


「……本当に帝国を大切に思ってくれているんですね」

「はい。私はリーヴィス帝国を第二の故郷だと思っていますから。大切な人達も思い出もここにはあります」


 イザベラの声音や言葉からは、心から帝国を想っているのが伝わってきた。


(その思い出に、(エルセ)との過去も含まれているかしら)


 やはり危険な場所へ赴くのだから、少しでも関係が良いに越したことはない。


 もしも私がエルセの生まれ変わりだと伝えたら、少しは印象が良くなるだろうか。


 そんな淡い期待を胸に、口を開く。


「……イザベラ様はエルセ・リースのことも知っているんですよね?」


 するとその瞬間、彼女の纏う雰囲気が一気に冷える。


 同時に、きっと私は言ってはいけないことを口にしてしまったのだと悟った。


「大聖女様のことは、二度と口にしないでください」

「どうして?」

「……嫌い、だからです」


 イザベラは消え入りそうな声で言って立ち上がると、私をきつく睨んだ。


「全ての呪いを解いた後はもう、あなたに用はありません。そうしたら私とフェリクス様が結婚して帝国を守るので。昔、約束したんです」

「えっ?」

「とにかく明日、私の足を引っ張らないでくださいね」


 イザベラはふんと鼻を鳴らしてそれだけ言うと、立ち去って行く。


 その場に残された私は、呆然とその後ろ姿を見ていることしかできずにいた。


(私って、イザベラに嫌われていたの……!?)


 ティアナは嫌われていてもエルセとして嫌われているなんて、想像していなかった。


 あの頃はいつも大好きだと言ってくれていたし、嫌われていた様子だってなかったからだ。


「な、なんで……?」


 これではもう、エルセだと知られると余計に印象が悪くなってしまいそうだ。


 何より最後のフェリクスと結婚する、約束もしていたという言葉が頭から離れない。そんなこと、周りの人々もフェリクスも言っていなかったのに。


 なぜだか胸が苦しくなって、心臓の辺りを右手でぎゅっと押さえる。


 とにかく明日も朝は早いし部屋に戻って休まなきゃ、と立ち上がった時だった。


「ティアナ? 暗い顔をしているけど、何かあった?」

「フェリクス……」


 顔を上げた先にはフェリクスの姿があって、どきりとしてしまう。


 会議を終えたところらしく、これから彼も部屋に戻って休むところだという。


「明日のことを考えていただけよ」

「今、イザベラと話していたよね? 何か言われた?」

「…………」


 多忙な彼に余計な心配をかけたくなくて誤魔化そうとしたものの、無駄だったらしい。フェリクスは私の手を取ると、そのまま手を引いて歩いていく。


 そして着いたのは、フェリクスの部屋だった。いつものようにお茶を淹れようとしたところ、腕を掴まれる。


「今はいいよ」


 そしてそのまま、ソファに並んで座った。


「……なんだか遠くない?」

「そ、そうかしら」


 思わず誤魔化してしまったけれど、普段一緒に座る時より人ひとり分、フェリクスとの距離を空けてしまっている。


 先ほどイザベラから聞いた「結婚する約束をした」という話が頭を過ぎり、何故か離れて座ってしまった。


 こんな露骨な変化に、勘の良いフェリクスが気付かないはずがなく。


「俺、何かした?」


 じっとアイスブルーの両目で見つめられ、ぎくりとしてしまう。


 ──フェリクスがずっとエルセを一途に想ってくれていたことだって、分かっている。


 だから、何も疑うことなんてない。そう考えたところで、ふと引っかかりを覚えた。


(……疑うって、なに?)


 まるでフェリクスの気持ちが常に自分に向いていないといけない、とでもいうような烏滸がましい考えに、自分でも困惑してしまう。



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【脇役の私がヒロインになるまで】

新連載もよろしくお願いします!

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