表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇〇な子はかわいい  作者: 車男
9/16

同級生の書店員さんはかわいい

 「いらっしゃいませ〜って、あ、田中くん!来てくれたんだ!」

本棚の前に屈んで、新しく入った本の整理をしていた女の子は、僕を見つけると嬉しそうな表情を浮かべた。学校の制服の青いシャツに、黒い7部丈のパンツ、黒っぽいローファー(これも学校のかな?)を履いていた。見たところその足下に靴下が見当たらないが、見えていないだけでフットカバーを履いているのかもしれない。

「うん、送ってくれた写真、今日で笹原さんのシフト入ってたし、新刊も出たみたいだし、行こうかなと思って」

「えへへ、嬉しいな。新刊って、何の本?」

「山田悠介の新作だよ。情報番組とかでもけっこう言われてると思うけど…」

「やまだゆうすけ…、あったかなあ」

笹原さんは手に持っていた本を一度ラックに戻し、店の入り口の方へ向かった。長く伸ばした髪をポニーテールにしていて、歩き出した時にそれがふわっと広がる。歩くたびに右へ左へゆらゆら揺れる。

 笹原さんについていくと、入り口すぐの平置き台に様々なポップとともに新作の文庫・単行本・マンガなどが並んでいる。その中に、僕の目当ての本はあった。

「やまだゆうすけ…、あ、これ??」

「そうそう、あらすじは知ってたんだけれど、内容が気になって仕方なくって」

「面白いの?この人の本!」

「うん、有名どころでは、ーーとかあるけど」

「なんか聞いたことあるなー。ごめんね、あたし、マンガ本しか読まなくって。…えへへ」

そう言って申し訳なさそうに舌を出す笹原さん。学校では活発な方で、クラス委員を務めている。そして部活はテニス部。学校だけでも忙しいのに、休日にこうしてバイトまでするなんてすごい。僕だったら体力がもたないだろう。

「今度読んでみるね。他には何か探してるの?」

「うーん、目当てはこれだったけど、せっかく来たからいろいろ見ていくよ」

「おけ!じゃああたしは仕事に戻るねー。あんまりお友達と話してるの見られると店長に怒られちゃう!」

こっそりそう言って、笹原さんは再び先ほどの棚へと向かっていった。僕は新刊を手に取って、別の列にある文庫本コーナーへと向かう。新しい本屋なので、品揃えも最近出た本や、ロングセラーの本中心に揃えてあるらしい。

 そのまま壁の方へ見ていくと、ちょうど笹原さんが壁沿いの本棚にマンガ本をしまっているところだった。けっこう上の方まで並んでいて、背のそんなに高くない笹原さんには最上段の本をしまうのは難しそうだった。すると笹原さんは近くから踏み台を持ってくると、うんしょ、と微かに声を出して、右足、左足とローファーを脱いだ。汗でくっついて脱げないのか、左足のローファーは足先をぶらぶらさせて、パカン、と床に落ちて転がった。現れたのはやや赤くなった素足。どうやら初め思った通り、笹原さんは素足のままでローファーを履いていたらしい。笹原さんはその素足のままで踏み台に乗り、最上部の棚に本を入れ始めた。20冊ほどをしまわねばならないようで、まず10冊を入れてしまうと、一度横に置かれたラックに素足のまま戻り、また残りの10冊を入れ始めた。見たところその踏み台は靴を脱いで乗る必要はないようなのだが、きちんと靴を脱いで載る笹原さんに、いつもの真面目さが垣間見えた。それか、知らないだけなのかな…?マンガ本を入れてしまうと、笹原さんは一度素足のままペタッと床について、改めてローファーを履きなおしていた。かかとの部分は手を使って、最後までしっかり足を入れる。学校ではソックスを履いた姿しか見たことがなかったので、素足で靴を履くなんて意外だった。靴下、忘れちゃったのかな…。靴を履いた笹原さんは僕が見ていたのに気づくと、ニコッと微笑んでまた小さく手を振ってくれた。

  「ありがとうございました!また来てね!」

「うん、また休みの日に来るよ」

丁寧にブックカバーを付けて、袋に入れてくれた本を受け取ると、僕は店を後にした。もうちょっと笹原さんの働く様子を見ていたかったけれど、あんまり長居しても迷惑だろう。帰り際、笹原さんが小さく手を振ってくれたので、僕も振り返す。今度は、彼女のおすすめのマンガも読んでみようかな、帰り道、僕はそう考えていた。


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ