ゲーム好きな子はかわいい
「おつかれさまです!」
「あ、おつかれー」
放課後、ホームルームがおわって一目散に部室に来たものの、まだ誰も来ていなかった。はやる気持ちを押さえて、自分の持ってきたゲーム機の電源を付けて、これまで進めてきた別のゲームをして待っていると、数分してすぐ後輩がやってきた。僕より一つ下の高校2年。やや茶色がかったショートボブで、メガネがチャームポイント。ちなみにこのメガネ、有名アニメとのコラボらしく、フレームにキャラの模様が入っているらしい。制服はきっちりしていて、スカートはひざ丈、リボンもしっかり結んで、ブレザーのボタンもきちんと留めていた。
「センパイ、持ってきましたか?」
「もちろん!」
「あたしもです!」
お互いにカバンの中から取り出したのは、昨日発売だった大人気の新作ゲーム。しっかり近所のゲーム店で予約して手に入れた。後輩も同じように、無事に購入できたらしい。本当は昨日のうちにやり始めたかったけれど、後輩と一緒にこの場で始めたくって、我慢に我慢を重ねて、なんとかここまで持ちこたえた。後輩も来たことだし、一刻も早く始めよう!
「早く始めよう!」
「まってくださいよ!落ち着かせてください!」
そう言って後輩の緋村紫音(シオン)は、ブレザーを脱いでイスにかけると、その上にリボンを外しておいた。シャツの第一ボタンを開けて、部室のソファに体を預ける。そして履いていた上履きを脱いで、さらにハイソックスまで脱いでしまった。するする、と静かな部室内に、衣擦れの音が響く。普段はこんなことはないんだけれど、新作ゲームをやり始めるときやイベントのときなど、本気を出したい時は決まって素足になってしまう。そしてシオンはその状態のまま、素足を上履きの上において、靴下は床に脱ぎ置いたまま、ゲーム機を起動する。僕はそれに合わせて、新作ゲームを起動した。二人同時に、ゲームのスタート画面が現れる。
「わあ、画面、きれいですね!」
「そりゃそうだよ!ささ、始めよう!」
嬉しさと期待のあまり、上履きの上で素足をバタバタさせるシオン。今日でどこまで進むだろうか。
チャイムの音で我に帰ると、外はすっかり暗くなっていた。僕はイスに座ってゲーム機を机の上でプレイしていたが、シオンはいつの間にかソファの上に寝転がっていた。素足を伸ばして、足首のところでクロスさせて、スカートの裾から中に履いた体育用のパンツが見えてしまっている。これもたびたび目にすることなので、さして気にはしない。
「んんー…。そろそろ下校時間だね、帰らなきゃ」
僕がそう声をかけるけれど、シオンはすっかり集中してしまって、その声は届かないらしい。このまま残っていると見つかったときにメンドウなので、急いで帰り支度をしなければ。没収でもされたら大変だ。
「シオンさーん、帰るよー」
何度か声をかけるけれど、イヤホンをしているのもあって一向に手が止まらない。仕方なく僕は、手を伸ばされた素足にそっと触れさせた。こしょ。
「うっはああ」
とたんにソファから飛び起きるシオン。ゲーム機を取り落しそうになって、あわてて受け止める。
「もうっ、危ないじゃないですかあ」
ソファの上に女の子座りをしてほおを膨らませるシオン。はたから見たらかわいいんだろうけれど、僕と彼女の関係なのでドキドキするようなことはなくなった。
「ゴメンゴメン!でも、そろそろ帰らなきゃいけないよ」
「え、あ、ホントだ!すみません!片付けますね!」
そう言って素足のまま立ち上がると、素早い手つきでゲーム機をしまい、カバンを机の上に置いた。脱いでいたブレザーを羽織りながら、
「準備できました!続きはそれぞれのお家で、ですね!」
「は、はやいな…。だね、また連絡するよ」
「じゃ、帰りましょ!」
そう言って、裸足のまま飛び出そうとするシオンを慌てて止める。
「ちょちょちょ、ハダシ、ハダシ」
「あ、ほんとだ!えへへ、すみません!」
シオンはちょっと顔を赤くしてソファの前に置いてあった上履きに素足を入れる。脱いでいた靴下を拾うと、慣れた手つきで丸めてカバンに入れた。かかとを踏んだまま、部室を出るシオン。素足のまま帰ることにするらしい。僕も部室を出てカギをかけると、並んで昇降口を目指す。それぞれ靴を履き替える。シオンは素足のまま、ローファーを履いていた。ゲームに本気を出しちゃうと、体がほてって靴下を履きたくなくなるらしい。
「じゃあ、また後で、です!」
「ああ、宿題もちゃんとするんだよー」
「はあいーー」
僕は電車通、シオンは自転車通なので昇降口で分かれる。ローファーからかかとを浮かせながら、シオンは楽しそうに帰っていく。かくいう僕も、一刻も早く進めたくって、いつもより早足で駅を目指した。
つづく