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〇〇な子はかわいい  作者: 車男
13/16

ふわふわした子はかわいい

 「おはようー」

「あー、伊丹くん、おはよー」

新学期、無事2年生になった僕は、新しい教室に入って、黒板に書かれた座席表の通りに席に着いた。僕の隣の席に座る、あいさつをしてくれたのは、吹田楓子さん。クラスのみんなからは、フーコちゃんって呼ばれている。1年生のときも同じクラスで、女子だけれど彼女とはよく話していた。背は僕より小さくて、おそらくクラスで一番小さいんじゃないだろうか。茶色がかった髪は後ろで一つにくくって、ゆるっとしたポニーテールができている。顔立ちは幼くって、同学年というより、妹的な存在だった。

「今年も同じクラスだねー」

「ほんとだね、他にもけっこういるね」

「うん、仲いい子とまた一緒だからよかったよー」

 僕と話している間、フーコちゃんは机の下で足をブラブラ、ぶらぶら、動かしていた。ふとその様子を見ていると、その足元に、なぜか上履きを履いていなかった。白いハイソックスだけで、座っているのだった。

「あれ、フーコちゃん、上履きは?」

「あー、えへへ、持ってこなかったんだー」

1年生最後の日、確か上履きを持って帰るように言われていたから、フーコちゃんも持って帰っていたのだろう。僕は無事に持ってきたけれど、彼女はそれを忘れてしまったらしい。上履きを忘れちゃうと、一日中靴下のまま過ごさなきゃいけないらしく、普通はそれを気にしてそうだけれど、フーコちゃんはあまり気にしていない様子だった。今も、上履きのない足を、ぶらぶら、ぶらぶら。足の指をくねくね、くねくねと動かしている。休みの間、掃除をしていなかったせいか床は汚れているようで、くねくね動く靴下の足先は、すでにホコリや砂で灰色に汚れてきていた。

「はい、みなさーん、席に着いてください!」

朝のホームルームが始まるころ、一人の女の先生が入ってきた。初めて見る先生だ。もしかして…?

 バタバタとみんなが席に座ってしまうと、先生は黒板にきれいな字を書いた。

「初めまして。新しくこの学校に来ました。豊中といいます。ことし1年間、みなさんの担任をします。よろしくね!」

どうやら、僕たち2年生の新しい担任の先生らしかった。

「ねえねえ、伊丹くん、やさしそうな先生だね?」

「そうだね」

こっそりと僕の方に声をかけるフーコちゃんは、いつの間にかイスの上に足を上げて正座をしていた。スカートの裾で足の裏を隠すようなことはしてなくて、汚れた靴下の足先が見えてしまっている。足の指の形に汚れていて、ちょっとかわいいと思ってしまった。


 「ではまず、体育館に移動して始業式です。それぞれ移動を開始してくださーい」

先生の指示で、僕たちは廊下へ出て体育館へ移動する。教室は2階だから、階段を下りて、校舎から続くコンクリートの渡り廊下を通って、体育館へ。教室と比べて古さを感じる体育館は上履きのまま入っていい。フーコちゃんは、廊下も体育館も、靴下のままだった。クラスのほかの人はみんな上履きを履いているようで、3年生の先輩の中にも、靴下のままの生徒はいないみたいだった。1年生は、今度入学式だからまだいない。

 体育館では背の順に並ぶことになっていて、フーコちゃんはいつも決まって一番前だった。僕は前から3番目だ。並んで座ると、フーコちゃんは小さく体育座りをして待っていた。スカートの裾から、体育で使う短パンが見えていた。

 短めの始業式が終わって、教室に戻ると、次は大掃除。各学年2クラスずつしかないから、いろいろな場所を掃除しなきゃならない。座っている席で場所が決められて、僕とフーコちゃんは校舎1階の廊下担当になった。

 教室から1階に下りて、ほかの3人と一緒に、掃除用具をもって取り掛かる。フーコちゃんとあと二人の女子は、大きなモップをもって廊下の掃き掃除。僕ともう一人の男子は昇降口の掃除だ。上履きを履いた女子の中で、1人靴下のままのフーコちゃん。それを気にしない様子で、楽しそうにモップ掛けにいそしんでいる。すぐにそれは終わって、2人の女子は窓枠の掃除、フーコちゃんは昇降口の掃除に合流する。

「伊丹くん、あと何かまだ残ってる?」

「うん、向こうの列がまだ終わってないよ」

「おっけい!」

フーコちゃんは掃除用具入れからほうきを持ってくると、靴箱前に置かれたすのこに靴下のまま降りて、履き掃除を始めた。校庭からの砂が入ってくるからか、すぐに砂がいっぱい集まっていく。それをちりとりに集めて、そのまま校庭に捨てていく。

「あ、伊丹くん、ちりとり借りていい?」

「うん、はい」

「ありがとう!」

フーコちゃんは、すのこから完全に土足エリアのコンクリートのたたきに靴下のまま下りてしまって、ちりとりに砂を集めるとそのままペタペタと外へ出ていってしまった。ちょっとちょっと…!止めようとしたけれど、本人はいたって何でもない様子で、砂を捨てるとまた中へ戻ってきた。白い靴下は、今度は砂で茶色く汚れ始めていた。

 教室に戻ると、次はホームルーム。宿題の提出と、自己紹介を終えて、係りや委員会決め。フーコちゃんは、またさっきと同じように、机の下で足をぶらぶら、足の指をくねくねと動かしていた。朝と比べて、しっかり伸ばされていた靴下は、今はクシュっと下ろされて、短くなっていた。自分で下したのか、自然とそうなったのかは、わからない。


「では、今日はこれで終了です。気を付けて帰ってね!」

始業式の日なので、今日は11時には終わって放課となる。僕とフーコちゃんは美術部に入っていて、今日から夏にあるコンクールに向けて作品を作ることになっていた。今日は何を描くか、題材を決めたり、簡単なデッサンをしたりすることになっている。

「伊丹くん、準備できた?いこっか」

「うん、美術室でいいんだよね」

「そうだよー」

美術室は校舎の3階。階段を上る。上から3年生が降りてきていて、僕は自然とフーコちゃんのうしろを行くことになる。踊り場の窓から明かりが差し込んで階段はとても明るい。そのおかげで、フーコちゃんの足元もよく見えた。半日しか過ごしていないものの、始業式での体育館までの往復や大掃除のせいで、白い靴下の裏にはくっきりと茶色の足型が浮かび上がっていた。

 「じゃあ、今日は久々だし、デッサンからやりましょうか。ペアを組んで、お互いに体の好きな部分を、描いて。制限時間は…そうだな、12時半まで。はじめ」

顧問の美術の先生の指示で、今日の部活動は体のパーツのデッサンということになった。自然な流れで、僕はフーコちゃんとペアを組むことになる。男女のペアは珍しいけれど、なんだか僕と彼女はいつも組んでいるような…?

「なにをかこうか?」

「伊丹くんは、どこがいい?」

「えっと…」

そう聞かれて、迷ってしまう。あまり女の子の体をまじまじ見ちゃったら…、だめだよね?

「あ、あそこのペア、足を描いてるよー。私たちもそうする?描きやすそうだし!」

フーコちゃんからの提案で、僕たちはそれぞれの足を描くことになった。別のペアは靴下を脱いでいるけれど、その必要もないかなと思って、靴下は履いたままだ。ずっと校舎内を歩いてきたフーコちゃんの足…。

「よいしょ、と。じゃあお願いしまーす」

「う、うん…」

僕たちはそれぞれ向き合って、体のすぐ横に別のイスを置いてそこに足をのせてかくことにした。くしゅっとなった白い靴下に包まれた足が身体のすぐ横に。足の裏も完全に見えてしまっている。もにもにと動く足の指、足の形に茶色く汚れてしまった足の裏、そして足の裏以外もところどころ灰色っぽい汚れが付いていた。こんな靴下を見てしまっていいものかドキドキしながら、けれどフーコちゃん本人はまったく気にしていない様子で、僕の足をデッサンすることに集中していた。遅れてはいけないと思って、僕も気を引き締めてデッサンに取り掛かる。輪郭から、影を付けて…。足の裏の汚れは、表現しないようにした。陰を付けて、ごまかしておこう…。

「…そろそろできた人は、私に提出して、帰っていいぞー。もうすぐコンクールだから、少しずつ考えておくようにー」

先生のこえで、がたがたと部員たちが席を立つ。僕もなんとか完成していたけれど、フーコちゃんの方はまだもう少しかかりそうだった。お互いに足を伸ばしたまま、しばし待機。そして12時半のチャイムが鳴ったところで、ようやくフーコちゃんの

「できた!」

コールがかかった。

「みてみて、どうかな?」

「わあ、うまいね!」

伸ばしっぱなしでしびれた足を押さえながら、フーコちゃんの作品を見せてもらう。フーコちゃんも急に足を動かしたせいでピりピリしたらしく、足をペタッと床につけて耐えていた。

「うー…しびれたあ」

「だ、大丈夫?」

「うん、ちょっとまって…!」

そしてまた足をぶらぶら、指をくねくね…。そして回復したようで、ぴょん、と立ち上がった。後でくくった髪が、ゆらゆらと揺れていた。


つづく

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