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UG ears スカイウォッチャー

暇にまかせて立体パズル

時間があったので作ってやりました。

全部木製のキットでトゥールビヨンの置き時計を作るっていう、ウクライナ製の子ども向け立体木製パズルですね。

対象年齢14歳以上、税込価格9,740円。

コレ、いろんな意味で子どもには無理です。

まず、私は20年ほど前まで東京都認定の伝統工芸士っていう指物の職人をやっていました。さらに引退してから趣味で機械式腕時計を自作したりもしていました。そんな私でも、このキットをとりあえず組み上げるのに12時間かかりました。

もし、14歳でこれを動くように組み上げる事が出来た人がいたなら職人としてスカウトしたいです。どこかの工業大の研究室に飛び級で今すぐ入学したほうがいい。テスラに匹敵する人材に育つと思います。それくらい難しい代物です。

まず、機械式時計とトゥールビヨンの構造について、これ以上無いくらい簡単に説明しますと、

機械式時計は大きな時計でも腕時計でもゼンマイ式の物は全て『振り子』が付いていて、振り子が左右に揺れるリズムで時を刻んでいます。柱時計のように分かりやすい振り子が付いている物もあれば、腕時計のようにテンプと呼ばれる円形の振り子が付いている物もありますが、それらが左右に往復する時間の長さで、時計によって1往復で1秒とか10往復で1秒とかという、それぞれ針を進める速さが決まり、経過時間を表示出来るという仕組みになっています。

振り子はユルーいバネで吊されていて、ちょうど真ん中の位置で張りもちょうど真ん中になるようセッティングされています。その振り子のバネを駆動用の強力なゼンマイで引っ張って離す。するとユルイバネはビヨーンってゆっくり戻って反対側の当たるところまで行って、また中間くらいまで戻って来るでしょ? それを中間くらいのところにある爪で引っ掛けて捕まえて、また強力なゼンマイで引っ張って離す。その繰り返しが機械式時計の時を刻む仕組みです。この振り子の根本に片押しの突起が付いていて、それが歯車を押して回す事によって時計の針が進むという構造になっています。

これでも今なら充分普通に時計としては機能しますが、今から100年くらい前には時計屋に『時間が狂う』という苦情が殺到したそうで、要は当時、家や家具の造りが今ほど完璧じゃなく、振り子時計を置く床やテーブルが水平じゃなかったため、職人がどんなに完璧に作っても振り子が振れる左右のバランスが各家々、置き場所によってバラバラで時計の性能もバラバラになってしまうという現象が起きていました。

そこでブレゲさんという人が発明したのがトゥールビヨンという機構です。この発想は凄い。

トゥールビヨンとは円形の振りテンプ自体を前後左右に各360°回転させながら振り子を振るというとんでもない構造で、振り子自体が常にいろんな向きで回転しているため置き場所の水平や重力の影響を気にしなくて大丈夫というものです。実際には、この構造が最も適していたのは腕時計ですが。

トゥールビヨンはテンプが前後360°、左右360°同時に回転するため上下左右に本体との軸が無く、パッと見テンプが浮いているように見えます。

構造としては、動力源のゼンマイの力は一旦全てテンプ全体の外枠を横方向に回すギアへと流れます。テンプ外枠が横に回ると今度は縦方向に固定されたギアによって内枠が縦方向に回転し始めます。その内部縦軸のギアをシャフトによって横方向に変えてテンプを振り、そのテンプのリズムによって前段の縦横の回転数を制御。時計の針を動かす動力源はゼンマイ直結の歯車から摂っていますが、トゥールビヨン側の制御によって歯車はテンプのリズムでしか回らないようになっているため、テンプと針が離れていても針は一定に進むという、めちゃくちゃ遠回りな機構です。

こんな構造を考え出したブレゲさんは超天才、もしくは超変態だというのは間違いないですが、言ってしまえば100年も前に開発された機械なので図面さえあれば誰にでも作れる物ではあります。例えば今の電化製品、PCだとか有機ELのテレビを部品から全部自作しろって言われても絶対に無理ですが、このトゥールビヨンなら木の板とバネだけで、それを組めば14歳から作れるらしいので(笑)。ただ、実際にトゥールビヨンの腕時計を作る人とか尊敬しますよ。何が凄いって、このパーツの量です。パーツが既にあって、それを組み上げていくだけなら未だしも、独立時計師の人たちってこれらのパーツを全部切り出していくわけでしょ? しかも、その一つ一つのパーツにちょっとでも狂いがあったら全体が動かなくなる訳で。

そろそろ話を戻して、このUGearsのキットですが、これもちゃんと動くように作ろうと思ったらそれなりに大変です。

パーツはレーザーカットしてあるとはいえ、やはりプラモデルみたいに枠に付いているので取り外す時に必ずバリが残るんです。物が時計なので歯車にバリが残っていたりしたら一発アウトなので全てのパーツでバリは全ての取りましたが、コレ、素人の方には無理なんじゃないかと思いました。製造の過程でどうしようもないのかもしれませんが、バリはほぼ全て歯車の凹の底にあります。しょうがないので昔職人時代に使ってた切り出しとか極細の油目ヤスリとか引っ張り出してきて歯車の溝のバリを取ったりきれいに成形し直したりしましたが、こんなの道具がなきゃ無理だと思いました。

さらに、サンドペーパーとか蝋などもほんの一切れづつ付属しているのですが、どっちもホントにゴミ。多分応急用の全く使い物にならないクズしか入っていないので、ちゃんと仕上げたいなら蜜蝋とかのそれなりのグリスが家にある必要があります。

その他、間違ってはめてしまったところを外そうと思っても腕時計の裏蓋外し工具が無いと外せないくらいキツくハマってしまったり、プラハンで叩かないとハマらない個所があったりと、木工の道具やグリスとかが普通に家に揃っているようでないと、ただパッと目について買って作っても動かないと思います。

あと、71ページもある説明書っていうか製作の手順書、ほぼ全て英語とウクライナ語です。数行の日本語があるページもありますが、日本語がめちゃくちゃで英語を読まないと意味が分からないレベル。細かいところでは、注意点がクローズアップされた図解になっていたりもしますが、この辺もアメリカ仕様なのでダメが『×』で正解がチェックマークなので、たまに『あれ?コレ間違った?』って思ってしまう事がありました。

そんなこんなで12時間で組み上げてましたが、これだけ慎重に作って行ってもちゃんと動くようにヒゲ(ユルい方のバネ)を調整するのにその後半日ほど様子を見ながら調整したり、作ってる途中、駆動用ゼンマイの巻き取りの際に巻き取り完了と同時にバネが一気に解放されて内部の木製ベアリングが全部吹き飛ぶデフォルト仕様に心が折れそうになったり、ほんとになんか、出来上がってもあまり嬉しさを感じませんでした。

最後に究極だったのが、調整まで全部終わっても、なにかこう動きに駆動用ゼンマイの力不足を感じまして、どうやっても3時間くらいでテンプまで動力が行かなくなってしまうので散々原因を調べてみた結果、

『ゼンマイを最大まで巻き上げると2時間ほどもトゥールビヨンの動きを再現するオモチャです。トゥールビヨンの動きを堪能しましょう。時計としては使えません。』

だそうです。

最悪です。

いろいろと厳しいパズルでした。

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