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「許さん!

絶対に許さんぞ!」


 耕三、53才。

 彼は怒っていた。

 早くに妻を亡くし、10年ほど、寂しく1人で暮らしてきた彼に、久しぶりに舞い込んだ春。

 飼っている犬の虎太郎の散歩の途中で、たまたま一緒になった女性。

 おそらく、40代後半。

 彼女も犬を連れていて、その子が虎太郎とウマがあったらしく、2人は楽しそうにじゃれ合い始めた。

 必然的に、耕三も彼女と会話を交わす。


 聞けば、彼女も若くして旦那を亡くしていて、今は愛犬とともに穏やかに過ごしているのだと言う。

 その儚げな雰囲気に、耕三は久方ぶりに胸が高鳴るのを感じた。


 それから、2人と2匹は同じ時間に散歩をするようになって、会うたびにいろいろなことを話した。

 話しても話しても、話すことは尽きなかった。

 お互いに一人暮らし。

 普段、会社でも仕事以外の話はあまりしないのだから、こうして気兼ねなく話せる相手が出来れば、そうもなろう。

 そして、耕三は思った。


 また、人生をともに歩んでみようか。

 この女性と。


 そして、耕三は勇気を振り絞って彼女に言った。

 今度、犬を連れて、どこかへ出掛けないかと。

 彼女は嬉しそうな顔をして、こくりと頷いた。


 耕三は飛び上がって喜んだ。

 その様子を、彼女は微笑んで見つめていた。


 さて、じゃあどこへ行こうかとなり、彼女はお出かけではないけど、自分の家に来ないかと提案してきた。

 お互いの趣味であった料理をしようと。

 以前から、互いの作った料理の写真を見せあい、いつか食べてみたいなどと話していたのだ。

 耕三はますます喜び、舞い上がった。




 そして、当日、耕三は有名デパートの洋菓子が入った紙袋を持って彼女の家を訪ねた。

 つまらないものだが、と言って紙袋を渡し、2人は楽しく料理を作った。

 連れてきていた虎太郎も、彼女の犬と楽しそうにじゃれている。

 そんな姿を横目に、2人は出来上がった料理に舌鼓を打った。


 料理を食べ終え、デザートに耕三の持ってきた洋菓子を食べようとなって袋を開けたが、中のお菓子は半分ほどが焦げていた。


 耕三は怒った。


 せっかく、ここまで順調だったのに!


 まあまあと取りなす彼女に免じて、その場は抑えたが、そのまま何となく解散となり、耕三は家路に着いた。

 家に着き、虎太郎を寝かしつけてからも、耕三の怒りは収まらなかった。


「くそっ!

あのまま順調にいって、最後に想いを告げようと思ってたのに!」


 そんな期待をぶち壊された耕三の怒りが、そんな菓子を売り付けたお菓子メーカーに向かったのは致し方ないだろう。

 

 電話口に、耕三は怒鳴り散らした。

 これでご破算になったらどうするつもりだという恨み辛みを込めて。

 

 結局、耕三の家に担当者が直接謝罪に来ると言うので、耕三はひとまず電話を切った。


「どんなやつが来るか知らんが、ただじゃすまさんぞ」


 耕三の目は、怒りの炎で燃え上がっていた。




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