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そして、花火が打ち上がる

 ひゅるるるる……




 校庭の中央から打ち上がった花火は光の尾を引きながら、空高くへと飛び上がっていった。



 ドッ、パーーン!



 そして、夜空に大輪の、光の花を咲かせる。


「おっしゃー!」


「たーまやー!」


「やったぜ!」


「きれーだねー!」


 無事に花火を打ち上げた少年たちが、花火に負けないぐらい輝かしい笑顔を見せた。


 一発だけの花火はすぐに消え、その残滓(ざんし)がパラパラと落ち行く。


「……終わっちまったな」


「準備は大変でも、見るのは一瞬だからね」


「ま、でも、綺麗だったな!」


「うん。

すごかった」


 4人は再び中央に集まると、暗闇の中、それぞれの顔を見回す。

 隆がぽつりと呟く。


「みんな、本当にありがとう。

すっごく綺麗だったし、すごく、嬉しかった」


 隆が鼻をすする音が聞こえたが、暗くて、3人にはよく分からなかった、ことにした。


「……連絡するからな!」


「うん、僕もするよ!」


「手紙も書く!」


「うん、僕も書く!」


「あー、なんだ。

大人になったら、またこうして集まろうぜ」


「うん!絶対に!」


 3人からの言葉に、隆が答えていく。


「今度は、優太の花火大会を、4人で見ようぜ!」


「それ、いつになるんだよ」


 光彦の軽口に、優太が笑いながらつっこむ。


 そして、4人の笑い声の花が、校庭に咲き誇った。



「こらー!

おまえら!

なにやってるんだー!」


「げっ!

やべっ!」


「うわっ!

なんであんなに大勢、警備員さんがいるんだ!」


「あーあ、見付かっちゃった」


「ま、そりゃそーだよな」



 その後、彼らは不審者確保のために応援に駆け付けた警備員に捕まり、親と教師にこっぴどく叱られることになった。

 本来、打ち上げ花火には届け出が必要で、違反すれば罰則があるのだが、今回は事情を考慮して、厳重注意で済んだのが救いだろう。












「な、なんで……。

なんだあれは……」


 藤堂は呆然としていた。

 最高傑作が爆ぜるはずだったのに、夜空に花火が打ち上がった。

 事態を飲み込めず、藤堂はただ、その場に立ち尽くした。


「確保ぉ~!」


「ひひゃ!」


 そして、突撃してきた警備員の義之によって、藤堂はあっさりと取り押さえられた。


「なんなんだ、あの花火。

こいつの仕業か?

やべー、俺、クビかなぁ」


 義之は散りゆく花火を見上げながら、遠くを見つめていた。

 その後、駆け付けた応援が花火を打ち上げた少年たちを捕まえ、一緒にやって来た警察によって藤堂は警察署に移送された。


 捕まった人物が全国指名手配犯の藤堂だと判明し、警察は騒然。

 義之は花火の一件で盛大に叱られたが、警察から感謝状と懸賞金を送られると、本部は手のひらを返したように彼を褒め称えた。










「あ、花火」


 無事に爆弾処理班によって爆弾が解除され、翔子が警察から事情を聞かれていた頃、外で寒さに震えながら翔子を待つ後輩社員は、冬の夜空に咲いた花火を見付けた。


「……せっかくなら、先輩と見たかったな」


 その後、ようやく解放された翔子と後輩社員は居酒屋で、翔子のエピソードと花火の話に花を咲かせた。


「だーかーらー、今度は夏に、一緒に花火大会で花火を見ましょーねー」


「とーぜん!

約束だかんな!」


 酔っ払った2人の約束を、翌日には2人ともすっかり忘れていた。

 その約束が果たされるのは、もう少し先の話……。










「まあ!

見て!耕三さん!

花火よ!」


「ああ!

綺麗だ!」


 お気に入りのお菓子を食べて、すっかり話も盛り上がった2人が、暖房で火照った頬を冷やそうと縁側に座っていると、真冬の清んだ夜空に花火が咲いた。

 虎太郎と女性の犬は遊び疲れたのか、居間でくっついて眠っていた。


「本当にキレイ……」


「……」


 あなたの方が綺麗だ、なんて、言いたくても言えない自分に、耕三はやきもきしていた。


「……耕三さん」


「はい?」


「また、夏にも、こうして2人で花火を見たいものですね」


「え?」


 外を向く女性がどんな顔をしているかは分からなかったが、耕三は意を決して口を開いた。


「そ、そうですな。

ら、来年も、再来年も、その先もずっと!

こうして、2人と2匹で花火を見たいものです!」


「……」


「……」


「……それ、いいですね」


 表情は見えなくても、耳まで赤くした彼女の気持ちが、耕三にはちゃんと分かった。




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