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ディストピア

 思っていた以上のディストピアに暮らしていると思い知らされた。

 他の赤ちゃん戦隊のメンバーは、前世の記憶とか実力で這い上がり、もっと出世して命やタマタマの安全を図って、金持ちになって世話係に良い雌を貰おうと貪欲に活動している。

 それに比べると俺は命を永らえるのだけが望みなので、もしチョッキンされても生きられるのなら構わないと思っている。

「俺はパーティーやクランのリーダーじゃあ終わらないぞ、王族に赤ちゃんの姫がいるそうだから、もっと出世してその子の夫になって王族にまで伸し上がってやる」

 奴隷上りと姫は結婚できないはずだが、ケンが夢を見るのは邪魔をしない。

 でもやっぱりコイツはグリフィスさんコースだ、復活用のベヘリットでも持ってるのだろうか?

「わいはサムライやからな、冒険者ギルドでランク上げして、貴族にして貰うんや」

 こちらは真っ当な夢で、一代限りの下級貴族に叙爵されて、毎月給料が出る程度なら有り得るかもしれない。

「拙僧は武僧だから寺院に入れて頂くか、道場でも開きたい」

「俺は、自由に生きる」

 アグニとタツヤの二人も、大それた夢は抱いてないのでどうにかなりそう。

「俺、世話役の女を一杯貰ってハーレムにするんだ」

 キラーはガッツさん枠の重剣士かと思ったら、よく似た感じのエロマンガ「王国〇続く道」だったでござるの巻。

 夢を持つのも良いだろうが、当面の仕事を逆提案してみる。

「お前らも治療呪文が使えるなら、診療所を手伝ってみないか? 前世の記憶もネタ切れなら、こっちの方が出世できるかもしれない」

 ケンの聖騎士、アグニの武僧は治療呪文が使える。

 初期職業の赤ちゃんをレベルアップして、ヒットポイントを上げてから上級職になったのなら、簡単な治療呪文は使えるはずだ。

「わいもエクスヒールとかエクスキュアまでは覚えてんけど、使える回数が少ないねん」

「俺も」

「俺もその程度だ」

 他の三人も使えるそうなので手伝って貰う、まずは命の大切さを学んでもらおう。


 以後数日掛けて研修して窓口や診療室を増やして貰って、医者5人態勢で治療をする。

 意思疎通の魔法が使える担当官を通じて話したり、俺が少し言葉を話せるので部屋を増やして貰った。

「あうう、にゃわうう、ひゃうああうう(それでは今日から5人医師体制で行きたいと思います。色々あるかと思いますが宜しくお願いします)」

「「「「「お願いします」」」」」

 看護師も多少増員、各員1日に20人ぐらい担当してもらえるだけで、今までの混雑状況が嘘のように解消した。


「だあああ、うあああああっ(俺の言う事が聞けねえのかっ? てめえはただの風邪ひきなんだよっ!)」

「きゃう(感染症、ヒールの列に)」

 部屋の敷居の向こうから怒声や呟き声が聞こえてくる、ケンとタツヤは医者に向いてない。

 ERでも開設して返事もできない急患に当たって貰おうか?

「らうああ、きゃあああ(奥さん、ええ乳してまんなあ、どれ、一丁ご相伴に預からせて貰うて……)」

「うはああ、なうううう(ハァハァ、おじょうちゃん、聴診器当てるから脱いでみようか?)」

 エロ過ぎる。だめだコイツら、早く何とかしないと。

「だうう、はうううぁ(むむ、信心が足りないようですな、もっと仏への信仰を)」

 こっちは宗教の勧誘活動、それも邪教への勧誘。この国は悪魔信仰だから神仏への信仰は違法だ。

「きゃあああ、はぶう、いやああああ(お~前ら、え~かげんにしなさいっっ! 好き勝手やりすぎじゃいっ!)」

 赤ちゃんなのでこの世界への常識も無いし、欲望全開で羞恥心も無い。

 全員に注意して、それでも改善しなければ急患対応だ。


 その後、赤ちゃんの診療所に、どんな病気でも治せる「聖女」がいると言う噂が流れ始めた。

 俺達の事なら名前で判断できそうだし、男女識別用に青や緑の系統のベビー服を支給されているので、見間違いしたりしないはずなのだが、聖人ではないだろうか?

 それともタマタマがチョッキンされるだけでは足りないので、おしっこに便利な筒の方も撤去されて、本格的に宦官になったりオネエ方向に誘導されているのだろうか?

 世知辛い話だが、この診療所も無料ではない。

 多少なりとも前世の記憶を持っていて、魔王様からの報酬として治療を受けられるか、飼い主が幾ばくかの治療費を負担してくれる奴だけの診療所だ。

 流石に俺一人や、赤ちゃん戦隊メンバーだけで国全部とか王都の赤ちゃんを全員無料で治療していると、一日で魔力が干上がって数日で過労死する。

 治療に参加して貰うとメンバーにも多少の報酬が発生する。


「ターくん、ちょっと王妃様のお見舞いに行こうか?」

「だあぁ(はい)」

 何やら魔王様の奥様の病状が思わしくないようで、お見舞いと称して治療に行く。

 魔物や魔族の医師団の顔を潰さないようにして、聖女だか聖人の赤ちゃんがお見舞いに訪問、赤ちゃんなのでつい間違って治療呪文を掛けてしまう、と言う段取りだ。

 足を悪くされてから余計に体調が悪くなったそうなので、未来の医学知識でどうにかする。

「おや、来たか。お主も忙しいだろうに悪かったな」

「きゃう、うきゃああ(いえ、とんでもありません、何でもお申し付けください)」

 魔王様帯同の上での治療行為、これは失敗できない。

 失敗すれば「死」あるのみ。

「あら、可愛らしい赤ちゃん、貴方が噂の名医様で聖女?様ね」

 王妃様からも事情を聴いてみると、どうも糖尿病から足の神経が痛んできて、歩かないので余計に糖尿病が悪化しているらしい。

「あううぁ、らあああ、うきゃああ(未来の医学では糖尿病と呼ばれる病気のようです。食べ物を食べても運動が足りなかったり、インスリンが足りなくて血糖値が上がる病気です。足先が麻痺したり、手の指まで麻痺したり、血の巡りが悪化して足先まで血が通わなくなる病気です)」

「それは何とかならんのか?」

「ばぶぅ、なうああ、うにゃあ(足と足の血管にリザレクションを掛けてみましょう、他にも膵臓とか、胸腺にもリザレクションを)」

 糖尿と言えば膵臓の機能低下、それと人間は30歳程度で胸腺の機能が終わり、骨髄で作られるT細胞を正しく選別して出せなくなり、正しくない細胞の自己免疫で自分を攻撃し始めるので胸腺も復活させる。

「うあうああ、まううう、きゃあうう(それでは失礼します。リザレクション、リザレクション、リザレクション)」

 壊死し始めている足の神経と血管。痛んでいる膵臓、腎臓、胸腺、骨髄にリザレクションを掛けて各部を細かく復活させる。

 若返りの術でもないが、肩や膝の痛みにも対応して置く。この辺りも未来の医学知識が無いと細かくは対応できない。

「どうなった?」

「良くなったと思うわ」

 すぐには回復しないだろうが、歩く機能に関しては即応できたかも知れない。

「生きている者にリザレクションとは、変わった治療だのう」

「はううう、うあああう、きゃあ(内臓も痛んでおりましたので復活の呪文をかけ、足先と膝辺りまで回復しておきました、様子を見て頂いて調子が戻りましたらまた来ます)」

 急変しないようにお茶など飲みながら様子を見て、ついでに腰痛の元になる背骨の狭窄や寝たきりによる褥瘡じょくそうなども治療して置く。

「また来て頂戴、赤ちゃん先生、孫たちと同じ年頃だから、お友達になってね」

 もし俺だけ友達になったり幼馴染になったり、間違って婚約者とかになるとケンに暗殺される。

「らあうう、うわうああ、わうううう(もし歩けるようでしたら、毎日散歩していただければ良くなると思います)」

「よくやった、治っていたらまた褒美をやろう」

 ガッツリ治療が効いて治ってしまったりすると、今まで医師団は何をしていたのかと言う事になり、御典医が処罰されたりすると報復に暗殺されて死ぬ。

「あうあうあ、うああう、きゅあ(この件は御内密に、私が治したと知られれば医師団や主治医の方に殺されてしまいます。偶然お見舞いに来た赤ちゃんが余計な事をしてしまったとお伝えください)」

「うむ、そうしておこう。しかし治っていたら御典医でも主治医の地位でも思いのままだぞ?」

「あううううあ、うきゃあああ(すぐに暗殺されると思いますのでご勘弁を)」

「ではまた「内密に」治療に来い」

「うああぅあ(承りました)」

 こうして、どうにか王妃様の治療を終えて、首が繋がって生きたまま退出できた俺。

 王命でお后の治療を受けても、治療できなかったりすると、どこかのそばかすの薬屋でも独り言を言う間もなく殺される。


 治療所に帰ると早速ケンに絡まれた。

「お前、王妃様の治療に行ったそうだな?」

「足とか痛んだところにリザレクションを掛けて来た、次はお前が行け」

「このまま王家の主治医とか御典医にでも成るつもりか? さては王子様とかお姫様の幼馴染でお友達になって出世しようって魂胆だな?」

 話が通じないが色々とバレテ~ラ。でもそんな命が幾つあっても足りない役目はコイツに任せる。

「御典医とか幼馴染とかになると、俺ならすぐに首が飛ぶ。ソッチは全部お前に任せた、次に呼ばれたらお前が行け」

「いいのか? 出世の早道だぞ?」

「死ぬのは嫌だ、今回も治せたからよかった物の治せなかったら首が飛ぶ。治したら治したで医師団とか御典医の顔を潰したから、暗殺されそうで怖い」

「うん、お前の行動は全部「いのちだいじに」だったな。出世しようとか、主治医を追い落として成り代わろうとか思ってないな」

 一応納得してくれたようだ。それでも風の剣士様が偶然ペットを連れたままお見舞いに行くので、次回も俺が連れて行かれる。

「内密に面会して治療するからな、次も俺が連れて行かれそうだ、一緒に来てくれ」

「分かった」


 悪い方の予想が当たって王妃様の具合が良くなったのか、数日後には呼び出されてしまい、飼い主に無理を言ってケンも連れて行って貰った。

「まあ、来てくれたのね赤ちゃん先生。あれから凄く具合が良くてね、まるで若返ったみたいなのよ」

 天然系でふんわりほわほわしている王妃様は、宮殿の政治とかには興味も無く、壮絶な追い落としや競争には関わっていないらしい。

「あぶうう、ひやああ(それは宜しゅうございました、お役に立てて光栄です)」

 宮廷闘争の最中さなかで、王妃様がお茶会でも開いて赤ちゃん先生の評判を上げるごとに、俺の命は危うくなって行く。

「あら? 今日は赤ちゃんがもう一人」

「ふわあああぅ、あううう、だああぁ(赤ちゃん専用の診療所の同僚です、こう見えてもレベル100の聖騎士なので、王子様やお姫様の護衛騎士にでもお使いください。未来の知識も持っているので典医などもこちらに)」

「きゃう、ひあああぁ、らうううう(お初にお目にかかります、ケンと申します、聖騎士にございます)」

 いつもの気安い口調ではなく、礼儀正しいが赤ちゃん言葉で御挨拶するケン。

「まあ、赤ちゃん先生に、赤ちゃんの聖騎士さんが護衛についてるのね、羨ましいわ」

 即採用にはならず、俺の護衛として扱われてしまったケン。帰ったらまた絡まれる。

 多分、ガッツリと野心を出した言い分とか雰囲気が、王妃様に好まれなかったのだろう。


「よくやってくれたな、典医にも医師団にも出来なかったことを、診察もほどほどに治してしまったのだからな、何でも好きな褒美をやろう」

 魔王様からのお褒めの言葉が出た。前回医師団や主治医にはお叱りは無いように言ったつもりだが、赤ちゃんに負けたと知れば自主的に辞表を出して、差し違えに赤ちゃん先生の命を狙って来るはずだ。恐ろしい。

「典医を責めないよう聞いておったがな、やはり辞表を出して来た。後任はお主に任せる」

 ガチ死亡フラグキターーーー! 御典医本人は直接手出しして来なくても、周囲の人間が放ってはおかないし、弟子とか家族に毒殺される。

「きゃああああっ、あぶうあ、ひやあああっ(いえ、御典医の方は御引き止めください、未来の知識をお教えしますので、今までのご経験があれば私などより余程優秀でしょう)」

 あの、これ助命嘆願なのですけど魔王様気付いてます? もっと直接的な表現の方が良い?

「ふああぁ、ばぶうう、うわああああ(その御役目、是非わたくしめにお申し付けください。御典医でも助手でもやり遂げて見せましょう)」

 空気読まないでケンが発言した。直言の許可出てたっけ? 赤ちゃんだから良いのか。

 それにしてもお前、医学的知識無かっただろ? 確かに種痘を済ませてから敵方にだけ天然痘ウィルスばら撒くように言ってたけど、ドクターキリコみたいな医者になりそうだ。

「ふふ、野心がある赤ん坊か……」

「まあ、自分から売り込むなんて」

 魔王様には気に入られたようだが、天然系の王妃様からはドン引きされて嫌われたはずだ。

「うはうぁ、あふううう、あうあうう(私共は冒険者としてもパーティーを組んでおりまして、全部で6人治療呪文が使えるものがおります。本日は一人だけ連れてきましたが、気が合うものがおりましたらお召ください)」

「まあ、赤ちゃんの冒険者パーティー? 是非見てみたいわ」

「うああうぁ、ふああああ、あうう(御典医の方や医師団の皆さんには未来の医学知識をお教えしますので、辞表などは撤回して差し上げて下さい)」

 とりあえず玉虫色の折衷案で誤魔化し、後日講習でも開いて医師団には未来の知識を教える。

 そうしておかないとJIN先生みたいに牢屋に入れられて、石子抱きの拷問を食らう羽目になる。

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