表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/14

入院

 城に戻された赤ちゃん戦隊は診療室の隣に入院し、俺も熱が出て入院したかったが、診療室に急患が押し寄せていてできなかった。

「あううぁ、はうあ(何か吐き気がして、何も食べられなくて)」

「きゃあああ(いかん、心臓弁膜症じゃないか)」

 前世の経験で病気の種類だけは詳しい、心臓の弁を修復する事だけに集中するんだ。

「うはぅ、ああああ(エクスヒール)」

 何とか修復、入院して暫く様子見、次っ!

「先生っ、うちの子が、うちの子がっ」

 何かを誤飲してしまったようで虫の息。

 世間では割り箸を咥えて遊んでいてそのまま転倒、喉の奥に割り箸が刺さって抜いたものの既に脊髄が損傷していて、まさか医者もそんな事になっているとは知らず見落とし、家に帰すと亡くなってしまい、医者が損害賠償請求される事例もあった。

「だう、ふあああぁう(手術オペの準備をっ)」

 赤ちゃんの気管に入る大きさのピンセットを使って誤飲した物を撤去、気管は傷付けてもヒールで治せるので気にしない。

「ふああ、うきゃあ(駄目だ、奥に入り込んでしまう)」

 何か魔法で出来ることはないか? そうか、重力制御魔法で何とか?

「はううっ、きゃあああっ(重力制御)」

 赤ちゃんを固定しておいて、のどに詰まったものだけを重力で取り出す、ジリジリと進んで来る誤飲した物がスポーンと取り出せた。

「きゅあああああっ(やった)」

 紫色をしていた赤ちゃんの顔色に、赤みが差して回復して行った。

「ふう,あうう(次っ!)」

「この子が死んでしまって、私どうすればいいのか?」

 突然死症候群なのか、うつ伏せで窒息したのか、ミルク吐いて窒息したのか、原因は分からんがとにかく復活だ。

「うああああうあ、なう、きゅう(リザレクション! キュア、ヒール)」

 土気色の顔に赤みが差し、死んでいた細胞がよみがえる。

「ああっ、赤ちゃん、私の赤ちゃんっ!」

「らああぅ、あぶうう(入院して様子見)

 他の急患も処理してようやく落ち着いた診療室。ここも赤ちゃん専門の駆け込み寺として定着して行った。


「奇跡のメスを振るう赤ちゃん医師か……」

 そんな生活も悪くないと思い始めた所に、赤ちゃん戦隊リーダーのケンが入って来た。

「お前も結構イケる口になったようだな」

 ニヤニヤと笑って中二病言動をたしなめられる。

「いたのか?」

 赤ちゃんらしく顔を赤くしてバブバブ言っていると、勧めもしてないのに患者用の椅子(赤ちゃん用)に座って何か語り始めた。

「俺達は安息日(日曜)に活動することに決めた、お前も付いてこい」

「いや、診療所があるから離れられないって」

 ケンの手には先程貰った金貨が握り締められている。余程うれしかったのか、ベビー服にはポケットが付いてないからなのか、ギュッと握って離そうとしない。

 これ、一瞬でママに巻き上げられて「貴方の将来のために貯金しておく」とか嘘つかれて、生活費とか化粧品代にされて泣く奴だ。

「安息日ぐらい良いだろう? 俺達も休みは自由に行動する許可を貰った」

 この強引なやり方で飼い主とか魔王様からも許可をもぎ取って来たんだろうが、何で休みの日に危険な冒険をしないといけないんだ、俺は長生きがしたいだけだ。

「それよりお前ら「太陽の牙」とか名乗ってるけど、反政府組織じゃないだろうなあ? そんなもん参加しないぞ」

 普通の人間なら奴隷制度に歯向かって、魔族や魔物の支配から抜け出そうとするかもしれないが、俺は自分の命に危険を及ぼすようなことはしない。

「反政府組織? 俺達は真っ当な冒険をして、真っ当な報酬を貰おうって言う、正直な商売をする集まりだぞ、そんなもんじゃない」

 赤ちゃんと話してるとは思えない語り口調だが、単に中二病的ネーミングが被っただけで、反政府組織じゃないらしい。サマリン博士とかラコック報道官とかに騙された訳じゃない。

「お前はたぎらないのか? 異世界に来て魔法まで使える、魔物と戦って他の国と戦争して報酬や地位や名誉まで思い通りになる、ここで一旗揚げてやろうとか思わねえなら男じゃねえ」

 いや、お前もチョッキンされて男じゃなくなる危機なんだが?

「いや、俺達種雄じゃないから、今すぐタマタマ切られても文句言えないぞ」

「それも許可を取った」

 グッジョブ。でもこの手の語りをすると、音楽性の違いですぐに解散したり、ベルセルク的な破局になったり、俺がグリフィスさんみたいに切り刻まれたり、こいつが姫様に手出しして切り刻まれた後に「捧げる」されたり、主義思想の違いとか無能なので追放されたり、田舎でモフモフと一緒に鍛冶仕事したり畑仕事してスローライフしてしまう。

「俺は前世で病弱で、病気で苦しんでから若くして死んで、今生でも病弱で長生きできないと決まってる。寿命が30歳までしかないから、そこから不死王リッチになって長生きするつもりだ」

 こちらの意思は通じなかったようで、何やらニヤニヤしているケン。

「リッチ? いいねえ、宮廷魔導士にでも出世するつもりか? 俺は剣王とか騎士団長になるつもりだ」

 駄目だコイツ、話通じねえ。

 中二病解釈しか出来ない残念な脳みそだ。

「とにかく、俺は平和に生きたいんだ、診療所は生き死にで殺伐としてるけど、人助けをして感謝されるんだから良い仕事だ」

 後はパーフェクトヒールとかリザレクションの最上級呪文さえ覚えたら、王国の最高医師の一人になれる。

 ソッチ系の職業なら王国が占領されてからでも他国に処刑されない。

「いや、お前はそんな、眠ったまま死ぬような人生に飽き飽きしているはずだ、一度冒険の味を知ってしまったら二度と抜け出せなくなる、来週迎えに来る」

 ケンは言いたいことを言うと隣の入院部屋に戻って行った。

 冒険ってハイハイしながら薬草採取して、他の冒険者が採取した分も貰って、働いた以上にお小遣い貰っただけなんだが?

 それにしてもケンこそ「奴はエネルギーの塊みたいな奴だぜ」と言う羨ましい生き方をしている。

 太く短い人生を生きるのも良いのかも知れないが、俺にはそんなエネルギーが無い。


 診察が一段落して、エリアヒール数回で解放された俺も看護師に入院部屋まで運んでもらえた。

「頭いてえ」

 発熱して悪寒がして頭痛もある、クシャミと咳が無いだけマシだがキュアとヒールだけでは大して治ってない。

「エクスキュア、ヒール」

 病原菌を減らすと多少気分が持ち直した。

「初めての冒険はどないやった?」

 入院部屋の隣にはパトリックが寝ていた。

「いや、薬草を十本ほど、教わりながら集めただけで、他は冒険者のオッサンが集めてくれたじゃないか」

 赤ちゃんとしてちやほやされ、おねむになったらお昼寝、ジュース奢って貰って、帰りにお小遣いまで貰って帰って来ただけ。

 それも土から感染症を貰ってきて、全員発熱して寝ている。

「わいも何にもしてなかったんやけどな、あんたがご褒美にレベル上げして貰て、ケンが自由行動の許可取って、キラーが去勢なしにしてくれて、他の奴も同じご褒美貰えてん」

 前世の記憶持ち赤ちゃんは結構優遇されていて、全員欲しいご褒美を貰えて、他の赤ちゃんが欲しがったものも貰えたようだ。

「俺は命を危険に晒したくない、魔物の顔も見たくない」

 この生き方のポリシーに変更は無い。

「上級職のレベル100だぜ、そうそう死なねえよ。週末のお散歩で、赤ちゃんの間は騎士団とか冒険者の護衛付きのおさんぽだと思えばいい」

 足元の方からキラーに話しかけられた。また来週も両腕を固められて、草原までおさんぽさせられるようだ。

「俺、産まれ変わってから自分で金稼いだの初めてなんだ、この金貨ずっと取っておくんだ」

 残念ながら飼い主が金持ちなのは俺だけのはずだ、他は奴隷の中から連れて来られた労働者の息子。

 それも父親とは血が繋がっておらず、チョッキンされた後に世話役の女(産む機械)と暮らしてるけど、種雄の子供を育てさせられてるタマナシの息子だ。

 まるで男は全員去勢されて、女は漢民族にレイプされて子供を産まされて民族浄化されてる最中のチベットかウイグル並みのディストピアだ。

 金貨なんて持ってると一瞬で奪い取られ、母親が生活費にするならまだしも、父親に「お前の母親と一緒で、もう体でも売って来たのか?」と金を取られた上で飲んだくれて虐待されるかもしれない。

 奪い合いになると、レベル上げで強化されている赤ちゃんだから、ちょっとした事で一般人の育ての父親なんか殺してしまう。

「おい、お前ら、よく聞いてくれ。お前らの父親は一般人の奴隷だよなあ? そんな贅沢な暮らししてる奴は居ないだろうから、金貨はすぐに母親か血の繋がってない父親に取られるだろう。その時暴れたら一般人の父親なんか簡単に死んでしまう。そうしたら死罪は免除されるかも知れないが、牢屋と聞き取り調査の部屋の往復の生活になる」

 ちょっと声を張って前世の記憶がある赤ちゃん戦隊の連中に聞かせてやる。

「大丈夫や、わいらはもう育ての父親からは引き離されて、オカンは世話役に連れて来られとるだけで城の中で飼われてる。オカンにはわいらの金の管理する権利も使う権利すらない、わいらの資産は国で管理される」

 思ってた以上にディストピアだったでござるの巻。

 育ての父親は既に母親から引き離されて、別の世話係の女でも宛がわれているのだろう。

 母親は出世した扱いになるのか城で管理されて、前世の記憶を持つ重要な赤ちゃんの世話係として飼われている。

 奴隷には金貨を持つ資格なんか最初から与えられておらず、使うことも許されないようだ。こいつらだけ別格。

「わいらはトクベツなんちゃら市民でな、魔王様の養子って事になって、魔族の次になる二等市民扱いなんや。金とか資産を持つのも許されて、世話役の女も希望の女が選り取り見取りなんやで」

 魔王様に気軽に会わせて貰える俺は飼い主からして特別扱いで、こいつらは産まれてからもっと過酷な生活をしてきたようだ。

「育ての親を殺しても、拙僧達は罪に問われない。前世で家畜を殺しても罪に問われないのと同じく、身分が違うのだ」

 前世の記憶を持っている赤ちゃんは二等市民に出世し、三等以下の奴隷を殺しても、父親母親両方殺しても罪に問われなくなったこいつら。

 俺の方が愛玩動物として安楽な生活をしてきたから、根本的な考え方が間違っていたようだ。

 もし障害を持って生まれたり、働けなくなるほどの怪我や病気をすると安楽死処分の奴隷たち。

 去勢されていなければ反乱を起こすぐらいのディストピアだが、俺達は数万分の一の確率で去勢されない側に滑り込み、世話役のメスも選べる立場に立ったらしい。

「あんたも、もうちょっと出世しとかんと、いつ命落とすかも分からんし、自力で稼いで自分を買い取るぐらい金貯めとかんと、すぐにタマタマも首もチョッキンやで」

 考えが甘かったのは俺の方でござったの巻。

 生存戦略として、前世の記憶がある赤ちゃん、愛玩動物や医者の立場以外にも何か用意して置かなければならない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ