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去勢

 多少長生きできそうになると欲が出て来る。

 本来、人間のオスは赤ちゃんのうちにちょん切られて去勢されるのが普通らしいが、今の所タマタマを切り落とされていない。

 色々と未来世界の情報を流したご褒美なのかも知れない。

 各種競技に勝ち残った種雄とか、サラブレッドの牝馬みたいに血統書付きの愛玩動物と違い、うちの母親は奴隷上がりの産む機械だ。

 遺伝的な父親の方は、その上の親も優良な両親から生まれたので、生まれながらに種雄になるのが決められていたが、こちらの片親は数合わせの労働者奴隷だ。

 何かもっと功績を上げれば交配の権利をもらえたり、世話役の雌を貰えるかもしれないが、去勢も去勢の中止も言い渡されていないので飼い主が思案中なのだろう。


 あまりテストステロンが強すぎるオスのまま成長すると、スパルタカスみたいな剣闘士奴隷の反乱とかが起こってしまうので、成長前が去勢時期だと聞いた。

 聴取役ののオッサンも「ヤダー、コワイーー」とか言っているオネエが多く、キンニクモリモリの種雄とは明かに体の構造が違っていた。

 この体を成長させても病弱なのは、全部母親側からの劣性遺伝なのだろう。

 それでも珍しいペットを生み出すブリーダーみたいに、近親交配や異種交配を繰り返して突然変異を作るのは禁止され、優良種だけが残されているらしい。

 ドーベルマンのように後ろ足に障害があるのが血統書付きで、それが普通の状態みたいに飼われてる哀れな人間はいない。

 一夫一妻制みたいに、メスが働かないで生活するためだけに結婚したりする悪弊も取りり除かれた。

 メスから「キモイ、コミュ障、汚い、臭い、ブサイク、デブ」と言われるのは交配できずに数世代で消え、オスから「キモイ、コミュ障、汚い、臭い、ブサイク、デブ」と呼ばれるメスも数世代で消えたそうだ。

 従順な奴隷ばかりになり、ルールを守れない、守る知能も無い喧嘩っ早い犯罪者は消滅。

 これで病弱なのも消えていたら天国だったんだけど、優良種でも数十年生きれば長生きした方で、大人になってから病気になるような奴は繁殖後なので処分が遅れているらしい。

 子供のうちから病弱なのは処分対象なので怖い。

 もしかすると「前世の記憶を残しやすい体質と遺伝」なんて物があるなら繁殖させてもらえるかもしれない。


 とりあえず強引なレベル上げだったが、なんとまあレベル100の賢者にしてもらえた。

 魔法の競技会などあれば、赤ちゃん部門では仏血義理ぶっちぎりの優勝だろう。

 格闘とか剣闘士部門では無理そうだが、この調子で成長させて貰ったら、プリ〇セスメーカーみたいに城の外周回り続けて魔物退治していれば、アルバイトとか一切しないでもプリンセスエンドとか、トゥルーエンドの女王様エンドとかワンチャンあるかも知れない。

 オスなのでプリンセス主催の武闘会?で優勝してプリンスに出世か?

 この世界は魔王様とかの設定が逆なので、攻め込んで来た人間の将軍の本陣にライバルたちと一緒に切り込んで、敵の王様の首級を上げるような功績を上げないと王様エンドは無理だが、もう戦争は懲り懲りなので武闘派は遠慮して置く。

 親父の愛人エンドだけは見てないが、バアアの愛人エンドも避けたい。

「ZZZZZZZ……」


「さあ、ターくん、タマタマはチョッキンしちゃいましょうね~、パパちゃんが邪魔なモノを切ってあげるよ~」

(そ、それだけは、それだけはご勘弁を……)

「ハ~イ、チョッキン」

「うわあああああああっ!」

 悪夢だったでござるの巻、うん、まだボールは入ってる。

「ハァハァ、恐ろしい夢だった、喉がカラカラだ」

 枕元に置いてあった水差しから水を飲む、赤ちゃんにあるまじき行為だが、今はこの程度なら余裕だ。

 優しい飼い主と言えど、タマタマが邪魔なモノと認識していればチョッキン確実。

 余計な物が付いていると反抗精神が芽生えたり、懐かずに噛んだりするのが普通だったり、野良猫みたいに1年で成人するとオスは全員出て行って鉄砲玉みたいに二度と帰ってこないで、メスを探し当てた所で過ごすような特性があると、増えすぎて困るので切り取られる。

 飼い主に生殺与奪の権利を握られ(性的な意味で)ているのは恐ろしい。

 働かないでも生きて行ける天国かと思ったら、タマタマチョッキンされるディストピアだったでござるの巻。

「今生も童貞のまま死ぬのか、30歳にならないでも自動的に魔法使いじゃないか」(なってます)

「俺、今度の人生では結婚するんだ」

 死亡フラグを立ててみるが、その場合、他人の子供を育てさせられる「地球へ…」みたいなディストピアになる。

 それも他人の子を育てるのに同意しないで浮気される方だ。

「そこを曲げてなんとか、リッチになってからエルフ美少女奴隷とか買っても遅いんだよっ」

 赤ちゃんの間から心配することではないが、魔王様からもチョッキンは規定事項のように言われているので、とりあえず長生きできるようになったのだけでも感謝して置く。

「うう、チョッキンからは逃げられないのか」


 次の登城、意思疎通の魔法で会話している担当官にも聞いてみる。

(あの、俺達って全員去勢されて切り取られるんでしょうか?)

「ああ、聴取中に何か変えて、記憶を失うといけないから保留中のはずだよ。前世の記憶が残りやすい子供って事で残して貰えるかもなあ?」

(おおっ)

 とりあえず、聴取中にちょん切って生きる希望を失って脱力して、普通の赤ちゃんに戻るといけないので、その間はチョッキンが免除されているようだ。

 前世の記憶を失った後のタマタマ生存の可能性は低いが、忘れなければ良いのである。

「ぬおおおおお、忘れるな、俺の体、タマタマを守れっ」

 もしかするとリザレクションも覚えているので、パーフェクトヒールがあるとちょん切られて以降も手足でもタマタマでも生えてくるかもしれない。

「チョッキンの件は一応保留だ、一度魔王様にお願いしてみよう」


 その後、俺は治療魔法が使えるので、城に来ている赤ちゃん専門の治療医に任命されてしまった。

 いや、感染症がうつったらどうするんだよ!

 診療室が宛がわれ、医療スタッフが配属されて、城内で赤ちゃんとママ用の診療所が開設された。

「ばぶばぶ(訳:先生、最近喉の調子が悪くて)」

 赤ちゃん同士の会話なので、翻訳がいらないのが理由だそうだ。

「あううぁ、いあ、だああぁ(訳:風邪ですね、治療呪文にしましょう、エリアヒールの列に並んでください)」

 赤ちゃん語で会話しながら診療し、患者が十人ほどたまるとエリアヒールを掛ける。

「ああぅ、だああぁ(訳:エリアヒール)」

 魔法の発動には呪文はあまり関係ないらしい、本人の強い意思が問題になる。

 風邪のウィルスヒールではは除去できないが、悪寒や発熱、喉の痛みと言った症状を緩和できる。

 他の感染症にかかって発熱している赤ちゃんも、死に至るような高熱を緩和してやり、ベビーベッドから落ちて骨折とか打撲したのも治療する。

「先生、うちの赤ちゃんが息をしていないのっ!」

「ばぶうぅ、うはぁ、あうううっ(訳:どうしてこんなになるまで放っておいたんだ? リザレクションッ! ヒール)」

 呼吸が止まって紫色の顔をしていた赤ちゃんは、頬に赤みが差して回復して行った。

「ああっ、赤ちゃん、赤ちゃんっ!」

「たああぁ、だうううぅ?(訳:俺は一体どうなったんだ?)」

「はうぁ、きゃあああっ(訳:息の根が止まってたから復活の呪文を掛けたんだ、危ない所だった)」

「きゃうううっ、おあううあ(訳:恩に着るぜ、助かった)」

 復活呪文まで使えるので赤ちゃん専門の名医として扱われた俺。


 そうすると赤ちゃんの顔見知りもできて、馴染みの看護師とか薬師とかが大勢できた。

 ある日、昼休みのお昼寝の時間に、前世の記憶を持っている赤ちゃん連中に囲まれて勧誘を受けた。

「あう、まあああ、なうう(なあ、俺達パーティー組まないか?)」

「だあ?(え?)」(以後翻訳後の内容でお送りします)

 戦争とか冒険とか懲り懲りなのだが、転生組で前世の記憶保持者は、ご褒美に全員レベル100にしてもらっていて、冒険者組合とかに入っても余裕でレベル上げや冒険ができる。

(俺が前衛でリーダーやるからよ、レベル100仲間達でパーティー組もうぜ)

(いや、赤ちゃんは冒険者登録できないだろう)

(レベル上げしてもらう時に許可貰ったんだ、魔王様のサイン入りだぜ)

 魔王様の署名済みの、冒険者登録許可の書状を突き付けられた。

 前世の記憶を流したご褒美に、異世界チートでレベル100にしてもらい、冒険者としてブイブイ言わせたい赤ちゃん達に誘われてしまった。

 確かコイツが種痘するよう進言して、敵側に天然痘ウィルスばら撒くように言った奴だ。

(いや、冒険とか興味ないし、長生きしたいだけなんだ)

(記念に登録するだけだって、みんな乗り気だぜ)

 何か「先っぽだけ」みたいな営業トークに踊らされ、他の赤ちゃんも乗り気らしく、目の色が変わっている赤ちゃんたちに両腕をがっしり固定されたまま連行され、馬車で冒険者ギルドまで連れて行かれた。

 監視の目はあるが、こいつら行動の自由が結構あるようだ。


 馬車を降ろされると、西部の酒場みたいな両開きのドアがある冒険者ギルドに入らされた。

 本来ドアが開けられないとか、怪力でドアを壊してしまうのがお約束だが、全員背が低いのでドアの下を潜り抜けて、両腕を固定されたまま連行される。

 全員身体強化の魔法で剛力になっているので逆らえない。

「赤ちゃんだ」

「おい、赤ちゃんが来たぞ」

 普通なら荒くれ者の冒険者に絡まれて、登録年齢ギリギリの奴が登録しようとすると「小僧、家でママのオッパイでもしゃぶってな、ギャハハハハ」とからかわれるのがお約束だが、本当に家でママのオッパイしゃぶってる赤ちゃんが6人ほど登録に来てしまった。

「何しに来たんだ?」

 まるでベビーカートを押した主婦が、満員電車の中に入る時のように人の列がザッと分かれた。

 まず意思疎通魔法が使える担当官が受付で申し出る。

「魔王様の特別な許可を得ていますので、この子達の登録をお願いします」

「はぁ?」

 さすがに今まで赤ちゃんが登録に来た試しはなかったのか、受付嬢も素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

「ばぶぅ、はうあ、だああ(俺がリーダーのケンだ、こう見えてもレベル100の聖騎士パラディンだぜ)」

 戦隊物ならレッド、熱い暑い熱血リーダーのケン。パーティーに参加してもこいつか誰かに追放されそうだ。

 ヒットポイントを上昇させてから更に上級職にしてもらったらしく、全員レベル100超えの赤ちゃんパーティー。

 カウンターの上に乗せられたベビー服姿の赤ちゃんが何か言っているので、受付嬢も和んで頬をツンツンし始めた。

「可愛い……」

「赤ちゃんはレベル100の聖騎士だと仰っています」

「「「「「な、なんだってーーーっ!」」」」」

 周囲の冒険者も驚き、まるで人類が絶滅するような悲鳴を上げた。

 ベテランの冒険者でもせいぜいレベル50、レベル100ともなるとAランク冒険者とか達人の範囲に入る。

「あふう、ふああ、きゃう(ワイはパトリック、前衛のサムライや)」

 関西弁系のキャラで糸目で笑顔のお人好しなサムライ、金にはうるさそうな感じだ。

「さああ、あう(タツヤ、シノビだ)」

 ダグオンとか戦隊物ならブラック系の無口キャラ、人間とはコミュ障だが、動物とかと心を通わせそうな奴だ。

「ま、まず冒険者カードを作りますので鑑定を」

 受付嬢は赤ちゃん語が理解できないので、まず鑑定用の水晶を出してカードの作成を始めた。

「これに手を当てて下…… ああっ!」

 ケンが水晶に手を当てると、まるで冒険者ギルドに太陽が降りたような眩い光に包まれた。

「うああう、あううう(見たか? 俺の実力を)」

 俺と同じチートなレベル上げをしたにも関わらず、なんか偉そうにしているリーダー。

 こいつをリーダーとは認めていないが選挙でもしたんだろうか? 自称?

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