赤ちゃん一杯
後日、俺以外の赤ちゃんが前世の記憶を持っていないか調査が開始され、専門の部門が立ち上がって意思疎通の魔法を使って本格的に調べ始めた。
「男だろ? 知ってること全部言って、田舎のおふくろさんを安心させてやろうや」
「あうう」
尋問されて次々に自白させられる赤ちゃん達。
「吐け、お前が何か知ってるのはネタが上がってるんだ」
「ゲフッ、ゲハッ」
その子は授乳後に背中をポンポンしてもらえなかったので、ミルクを吐いてしまった。
「さあ、腹の中のもん全部出してスッキリしてみようか」
「あうう……」
中身をおむつの中に全部出してスッキリしたらしい。
前世の記憶を持っていても、この世界の過去からの転生者ばかりで、歴史書が改正される程度。
異世界からとか未来世界の記憶を持った転生者と言うのは、そうそう見付からなかったようで、その中でも有用な知識を持っている奴はほんの数人しか見つからなかった。
それでも銀行制度とか知っている奴が出て、先物取引とか証券制度とか複式簿記とか、ソッチ系統が飛躍的に進歩した。
とにかく赤ちゃんを集めろと指示が出て、王城は一時新生児保育施設みたいになった。
「バブー」
「ハイー」
「ダー」
赤ちゃん語が飛び交う部屋の中で、まるでリーディングのように事情聴取が行われる。
俺も余計なことを知っている一人なので、アカシックレコードには接続できないが協力した。
(先込めの銃が開発出来たら次は後装です。真鍮製の薬莢が出来れば作って下さい。後ろに雷管を付けて……)
もう絵を描いたり起き上ったりできるようになったので説明が飛躍的に進む。
銃が無かった世界で硝石を探させて、まずは火縄銃、次にミニエ銃といった具合だ。
鉄を溶かすのは無理でも、まず青銅なら溶かすことが出来るので、砂型に青銅を流し込んで銃身や大砲を作って貰う。
高炉とコークスが出来なければ鉄の溶解以降の工程は無理で、プレス加工や薄板加工も無理だが、登り窯や耐熱煉瓦もどうにかして作って貰う。
鉄の銃身は冷間(高温)鍛造でも出来ないことも無い。
(自分の陣営にだけ牛痘を感染させておいて種痘を済ませてから、敵の陣営に天然痘ウィルスをばら撒きます……)
隣にいる奴が生物兵器の話をしている、俺はそこまで非人道的な兵器は喋ってない。
核兵器について喋ってしまったが、あれは魔法兵器としてでも実現は不可能だ。
100万分の一秒まで同時に爆発させて爆縮を行わないと、ウランの点火はできないので、この世界には出現しないだろう、と思う。
ほんの十人ほどの赤ちゃん達から、悪魔の兵器がガンガン誕生して行った。
その十人ほども、生後一年に近くなって何か意味のある言葉を話始めると、前世の記憶が失われて普通の赤ちゃんになって行く。
それでも俺だけ前世の人格と記憶が残った。
さらにゼロ歳にして天才作曲家の赤ちゃんが俺の他にも数名誕生した。
「さあ、気分転換に一曲歌ってみましょうか?」
「フンフンフーン、フフフーフンフーン」
ようは異世界のクラッシックとか流行歌とか、この世界でも通用しそうなテンポで再現してやれば、鼻歌でも絶対音感がある楽師がこの世界の楽譜に移し替えてくれる。
メロディラインさえ美しければスローに編曲してやれば済むし、出自がエルフェンリー〇みたいなエログロアニメの主題歌でも、聖句にまみれていたので讃美歌として世界中の教会で歌われている。(本当)
モーツアルトとかベートーベンとか色々鼻歌を歌うと、編曲されてコンサートも開かれて好評だった。
鼻歌からクラッシックに戻す佐村河内的な作業が行われたらしい。斜視の弱そうなキャラのオッサンが作曲したようだ。
他にも薬の製造に関わっていた奴も発掘され、基本的な薬はこの国でも製造できるようになった、ありがたい。
赤ちゃんなので離乳食の後にはお昼寝の時間などもあり、結構ホワイトな環境で働けている。
空いている時間はとにかく魔法修行。
「ヒール」
自分の周囲が少し光り、極小の効果でヒールの呪文が発動した。
「おお、ついに」
魔力修行の結果と発音の練習により、とうとう回復魔法を覚えた。
昔は魔法を唱えるにも一文字づつタイピングして、綴りを間違えると魔法が発動しなかったりしたもんだ。
これで病気を患っても瀕死の状態からでも復活できるかもしれない。
効果は低くても、今のヒットポイントが1とか2ぐらいしか無いので、覚えられただけでも僥倖だ。
「キュア」
魔力切れなのか発動しなかった、まだ覚えられていないか、魔力の操作が間違っているのかも知れない。
色々な異世界の遺物が出来て、生後一年半以上経過した所で久々に魔王様に面会した。
「大きくなったのに記憶も失わず、良くやってくれているそうだな、おかげで国防計画が捗った」
(ありがとうございます)
銃や大砲が無かった魔法世界で、魔法使いだけに頼らないでも大規模破壊兵器ができたので、雨の日以外は無敵になれたこの国。魔王様ご本人からお褒めの言葉が出た。
火縄銃は雨対策ができないが、要塞砲などはトーチカや天蓋を付けて雨対策。
今の所、周辺国の大使に大砲の破壊力を見せつけた結果、戦争の脅威が無くなった。
魔王国周辺は、南側の海以外は人間の国家に囲まれていて、お互いに反目し合ったり合従連衡を繰り返しているようだが、思想信条が根本的に違うので、周辺国同士の国境紛争や今までの戦争の遺恨が無ければ、全部の国が連合して攻め込んで来る。
「予防接種や種痘も順調だ、天然痘が無くなったのに敵方には生物兵器として使えるのが最高だな」
転生物のお約束、天然痘根絶とペニシリン作成も進んでいるそうだ。
「お前の褒美を考えたが、すぐに死なないようにしたいのだったな、まずレベル上げをさせてやろう」
(レベルですか?)
ファンタジー世界だけあってレベル制度が存在し、レベルを上げるとヒットポイントが上がり、状態異常にも耐性が付くようだ。
「少数精鋭で出陣して、魔物や魔獣を倒すと参加者に経験値が分配される、お主でもレベル100を超えたら殺しても死なん体になろうて」
(それはありがたいです)
今は赤ちゃんなので多分レベル1。紙装甲でヒットポイントも一桁程度、攻撃を受けると一撃で死ぬが、経験値を稼げればダイハードでアンブレイカブルな体になれるだろう、マッスルマッスル。
「今の状態を鑑定しておこう」
現在のステータス
名前 タイチ
職業 赤ちゃん(ウンコ製造機)
レベル 1
ヒットポイント 2
マジックパワー 5
装甲 ふあふあ
ストレングス 1
知能 5
素早さ 1
幸運 2
カルマ 254
魔法 ヒール、キュア
何て能力値が低いんだ、このままでは出撃しても風が吹いただけで死んでしまう。
努力の結果ヒールとかキュアは使えるようになったが、回復魔法を使う前に死んでしまう。
(あの、一撃どころか強風一発で死にそうなんですが?)
「大丈夫だ、騎士団を連れて行っても良いし、お主の飼い主が同行しても良い」
その後、樽みたいな装甲の中に嵌め込まれ、さらに飼い主が背負うようにして運んで出撃する。
目線に隙間だけ開いている樽。これでも戦いに参加している扱いになるんだろうか? どう見てもただの荷物だ。
この世界の神か悪魔が許可しているのか、こんな状態でも経験値が貰えるようだ。
「ターくん、怖がらなくていいよ、パパちゃんが守ってあげるからね~」
「バブー」
飼い主も親バカモード全開でキャラ育成に参加してくれている。そう言えば種雄の父親と言うのにはまだ面会していない、牛の種雄みたいにデッカイのが鎖に繋がれているんだろうか?
飼い主は魔王様側近で忙しいはずなので、騎士団にでも任せておけば良さそうなものだが、ペットのネコか犬を育成するのと同じで、自分でやるのが楽しいのだろう。ネコと和解せよ。
「剣士様、金属スライムを捕獲してまいりました」
「うむ、宜しい」
貴族の権力と騎士団の労力をフルに使って、逃げ足が速そうで捕獲するのがまず無理そうな名前のスライムを捕まえて来たようだ。
如何に魔王軍と言えど、知能を持っていないスライムとかは制御できないし、味方としては扱えない。
「フフフ、お主はターくんの経験値となり、血肉となって生きるのだ」
箱の中にいる、金属スライムは逃げられない。
風の剣士のこうげき、金属スライムに1600のダメージを与えた、金属スライムを倒した。28500の経験値を得た、タイチはレベルが18上がった。
一気にレベル19かよ……
「次のスライムです」
「うむ」
結局、この日だけでレベル100まで上げて貰え、ヒットポイントも上がって死の淵からかなり遠ざかった。
現在のステータス
名前 タイチ
職業 赤ちゃん(死の作曲家)
レベル 102
ヒットポイント 92
マジックパワー 203
装甲 53
ストレングス 80
知能 67
素早さ 73
幸運 51
カルマ 260
魔法 ヒール、キュア、エクスヒール、エクスキュア、エリアヒール
アイス、ファイア、アイスランス、ファイアボール
この国最強の赤ちゃんが爆誕したようだ。
これだけ能力値があれば簡単に死なないし、一気に上級職にも転職できるだろう。
「どれ、なかなか死ねない体になれたか?」
(ありがとうございました、魔王様。騎士団をフルに使って魔物を動けないようにしてもらったおかげでレベルが大幅に上がりました)
捕まり立ちと高速ハイハイしかが出来ない赤ちゃんだったのが、今では一人で立ち上がって剣を振ったり、サンライズ立ちできるようになった。
まだオムツが取れないので、力むと漏らしてしまうのが難点だ。
「ふむ、転職の儀式もしてやろう、何か成りたい職はあるか?」
治療専門の僧侶とか、30歳童貞でもないのに魔法使いになれる。剣士とか騎士には向いていないだろう。
今の所、両方の魔法を覚えられる賢者を目指すのが良いかもしれない。
(それでは、賢者でお願いします)
「良かろう」
この国の大司教でもある魔王様直々に転職の儀式を行ってくれた。
「よし、これでお主は賢者になった」
レベル1に戻っただけでステータスは変わっていない。その後も飼い主が同行してレベル上げに協力してくれて、騎士団が鎖で押さえつけている高レベルの魔物を討伐して、オマケで最初の約束通りレベル100まで上げてくれた。
現在のステータス
名前 タイチ
職業 賢者 (ふあふあの殺戮者)
レベル 100
ヒットポイント 158
マジックパワー 487
装甲 68
ストレングス 91
知能 206
素早さ 122
幸運 114
カルマ 660
魔法 ヒール、キュア、エクスヒール、エクスキュア、エリアヒール、リザレクション、エクスエリアヒール、エクスエリアキュア
アイス、ファイア、アイスランス、ファイアボール、アイシクルスパイク、エクスプロージョン、ブリザードスノウ、ファイアインフェルノ
うん、赤ちゃんが普通の魔物オーバーキルできる。ファイアインフェルノって何だよ? ただの赤ちゃんが「これはメラゾーマではない、メラだ」ができてしまう。
このレベルだと宮廷魔導士レベルで、ついでに国防の要になってしまう。
ギャグものでは無い上に、全年齢にしたため下品なギャグ使用不可、一人称視点に困難を感じています。