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転生

 どうやら転生したようだ。まだ母親の腹の中にいるのか薄暗い。

 赤ちゃんは前世の記憶を持っていて、母親に生まれる前の事や前世の事を話すそうだから、まだ記憶が残っているようだ。

 前世のチート記憶よりも病気での苦痛の連続は忘れてしまいたい。

 最近の転生物ではインフレが進行して、ゼロ歳の赤ちゃんが魔法を行使して無敵になるのまで登場したので、できることなら胎児のままでも魔法が使えるようになりたい。

「あら、赤ちゃんがお腹を蹴ったわ」

「そうかい、元気な子だと良いなあ」

 父親らしき男の声が聞こえた。

 候補が複数いるかもしれないがこの際キニシナイ。うん、健康に生まれたいね。

 まず周囲を確認して健康を損ねるようなものを排除する。

 首にへその緒が巻き付いてる! まだ動きづらい手足を使って首も動かし、へその緒を首から外す。

 奴隷が多すぎて間引かれるのとか、父親から腹パン堕胎を食らわないように気を付けなければならない。

「あら、また蹴ったわ、元気な子ね、男の子かしら」

「メスも欲しかったけど健康ならオスでも良いか」

 先程の父親とは違う声が聞こえた、それも明かに人間じゃない大きさと声で、インコやカラスの声真似みたいだ。

 もしかしないでも、ここも約束されているネバーランドで、大人になったらピーター・パンに殺されるか、バーコード管理されたり番号で区別されていて、魔物の高級食料になって最後は食われる2択しか無い世界なんだろうか。

 母よ、出来れば早く言語を教えてもらって、もし魔法書があれば読み聞かせてくれ。

 ああ、それでも身分は奴隷で、もしかしないでも魔物の愛玩動物なのか? 書物は絶望的だ。

 本好き〇下剋上みたいに製紙から始めるのは嫌だ。

 まず自分に魔力があるのかどうか試してみる、出産までは暇なので体を動かせるようにして、身体強化など魔法の基礎ぐらいは身に付けておかなければならない。

 ね、眠い、史上初の胎児のまま魔法を使えるようになる野望が……

「ZZZZZZ……」


 睡眠時間が多いのには困ったが、魔法修行を繰り返す。

 母親の腹の外を感知する第三の目、まだ目も開いてない赤ちゃんだが「もしや、其方は目が?」「フフフ、既に心の目は開いて居り申す」と言う訳で、千里眼のような周囲の察知能力を磨く、磨く、磨く。

 そして周囲の物を操作するテレキネシスのような力と、自らの体を鍛え抜く身体強化をっ!

「ふおおおおおっ!」

 既に我が身、不退転っ、という訳で免疫力を上げ発育も促進する。

 まず体を鍛え直さなければならなかった(映画タクシードライバー的に)。

 初期設定通りならこの体は病弱で弱弱しくてチンチクリン。

 余り成長しすぎてロシアのレスリング金メダリスト、アレクサンダー・カレリンみたいに新生児の体重が7キロもあると母親の中から出られないが、小さすぎてすぐにオークに負けてしまって「くっ殺せ」だったり、弱すぎて虐めまくられる地獄みたいな人生で自殺するのは嫌だ。

「ガッツ、ガッツ、ガッツ、ガッツッ!」

 健全な肉体に健全な精神が宿るッッ!! な訳で、ガッツィーな人物になれるように命の炎を燃やす。

 いや燃え尽きては何にもならないが、省燃費モード過ぎて前世では死んでしまったので、病魔に負けない強い体から作成する。

 目標としては「奴はエネルギーの塊さ」と呼ばれるような、顎が割れてるマッチョマン。

「うおおおおっ、燃え上れ俺の心よっ、燃え上れ熱き魂っ!」

 ちょっと熱が入り過ぎて羊水がボコボコ言い始め「こんな所で(ママと)繋がっちゃってるよ、羊水がフットーしそうだよ」みたいになったので自粛する。

「ZZZZZZ……」


 自分の身体強化の前に母体を鍛え直さなければならなかった(映画タクシードライバー的に)、母親の食欲を増進させ身体強化も施す。

 暫くすると母親の体も、どこかのセキレイのヒロイン達みたいに「どこの女子プロレスの団体所属ですか?」「六、七人も屋根の上に立つと天井まで抜けますよ」みたいなガタイになった。

 あれは女性作者視点から「これだけの巨乳ならまずは骨格からして……」という作画だったが、手塚治虫先生の「おっぱいはいくら大きくても良い」の原理原則を使用しなかったからだ。

 出産時の女性は体重を支えられるように女子高生みたいなブットイ足になって、ガチムチのガタイになるが、今の母親はもっと凄いことになってるだろう。

 まず自分の体を強化する前に母体の強化。

 父親に「体、大丈夫?」と聞かれていたが、悪阻つわりで痩せ細ってやつれて行くのではなく、逆に凄いガタイになってウェイトリフティングのブルガリア方式みたいに、ダンベル上げながらバナナとかモリモリ食っているのを心配されていた。

「あはは、なんだかとっても健康なのよ」

 出産に向けてトレーニングを欠かさず、スクワットもしてダンベル上げて、お腹の中の俺と一緒にガンガン成長していく。

「見て、この上腕二頭筋、今までこんなに筋肉が付いたことなかったのに、子供の男性ホルモンの影響かしら?」

 現在の母親には髭が生え始めている。この調子なら今世はアレクサンダー・カレリンも夢じゃないかもしれない。


「身体強化っ、魔力強化っ」

 本日も日課の魔力強化と身体強化を行う。もう出産には十分な肉体を手に入れ、母親の腹の中で筋トレもしている、出産後に即「天上天下唯我独尊」とか言いつつ立ち上がり、左右の手で天地を指さすのも夢ではない。

「マッスル、マッスル」

 どこかのマッスル鈴木のように、大会に出るのに低血糖になるまで搾り上げてカッチカッチにして、家族が勧める飴玉すら拒否して死んでしまうと本末転倒だが、最初の目的、長寿で健康を超えて体作りをしている。

 短命と病弱の呪いを弾き飛ばす勢いで体作りを続けているが、それでも何かの伝染病にかかると、病院がない世界なので病気を発症すると死んでしまう。

 前世では平常時の体温が35度だったが、もっと上げてやらなければ病魔に勝てない。

 外の世界には魔物が跋扈していて、魔族の加護下にあったとしても、散歩中にチベタンマスチフとかブルドッグみたいなのに襲撃されると一瞬で噛み殺される。

「おや、この子には魔法の才能があるようだ、お腹の中から魔力が溢れている」

 例の巨大インコみたいな声が聞こえた、うっすらと影のような形状が分かるが、その知覚通りだと母親の約2~3倍、3メートル宇宙人ぐらいの大きさだ。

「そうなのですか?」

 ハインライン作品に核戦争後に飛ばされた未来では、黒人が支配している別世界で、白人は手の親指切られてる奴隷階級、大きさも白人は交配で小さくされてチビッコばかりというのがあったが、うちの母親の身長は少なくとも130センチはあると思う。

「うん、お母さんは出産が終わっても働かなくていいよ、ここに住んでこの子を育てるんだ」

「宜しいのですか?」

 母親が喜んだのか幸せな要素ドーパミンが流れ込んで来る。奴隷か野良だった母親が出世して家ネコかお座敷犬になれたようだ。

「ああ、魔法は世話係にでも教えさせよう」

 ここの文化だとペット自慢も高い需要があって、足が速い奴隷人間とか、障害物競技に強い奴隷、算数ができるペットなんかの競技があるらしい。


「出産前に魔力草とか回復草を煎じたポーションとか飲むと子供に良いらしいよ」

「はい、頂きます」

 お腹の中の子供のおかげで貴重品のポーションまで貰える母。

 え? 前世の貧しい生活より愛玩動物の方が贅沢できるんじゃないの?

 ホームセンターとか行くと、カートに山盛り愛玩動物グッズ載せて買い物してる客がいたけど、どう見ても貧しい家の子供より贅沢してて、猫用犬用おやつとか猫砂とか満載してたからなあ。

「おお、ポーションキターーー! もっと魔力源を頂戴っ! 超回復っ!」

 母親がゴックゴック飲んだポーションを胎盤伝いにゴックゴック吸収する。

 筋肉の方は鍛えた後の超回復とか無いそうだけど、魔力の方は使い切ったり空にして気絶すると超回復がある。

 俺、生まれ変わったら健康になって、魔法も使えるようになるんだ(死亡フラグ)。


 数日後ついにトレーニング中の母親が産気付いた、母親の腹にいた日数は不明だが早産の範疇に入ると思う。

「ああっ、う、産まれる~~」

 それでも今のうちに出産してもらっておかないと本格的に出られなくなるので僥倖だ。

 外の貧民街などで産まれると、胎児のうちに十分な栄養が行き渡らず、タンパク質が不足する炭水化物中心の貧乏飯だと、未熟児だとか脳や内臓が発育不全になるが、結構いい生活をしていたのでその心配はないだろう。

 破水してから数時間を掛けて比較的安産で産まれられた。巨大児に近かったが母親の筋肉の方が勝ったらしい。

 飼い主や飼い主の子供が、俺が生まれる所を見て子牛や仔馬の出産でも見るように号泣。

 本当に3メートル宇宙人で巨大インコだった。

 出産時はこの世の地獄に落とされたので、俺もいつも通り号泣。

 前回死ぬときは周囲から羨ましがられて周囲が泣いて俺は笑っていた。

「ああ、この子が私の赤ちゃん」

 始めて母親に抱っこしてもらい、3メートル宇宙人にも抱っこしてもらった。

「ほら、この方が風の剣士様よ、貴方の飼い主」

 フェンリルやベヒモスには産まれなかったけど、魔物の愛玩動物だったでござるの巻。


 産まれてから暫く経った。

 出産すぐの「天上天下唯我独尊」は遠慮したが、すぐに首が座ってハイハイも開始。

 親や飼い主の声からも、どうやらこの国は役所で予告されていたように、魔族が支配しているらしい。

 支配階級の魔族が貴族として君臨していて、長寿で知能も高いエルフは支配側にいて下級貴族階級。

 人間や獣人はその下の奴隷階級で、ドワーフやコボルトは専門職種を生かして鍛冶作業や鉱山作業。

 人間の生息地は魔族の愛玩動物や下働きで、走ったり芸(算数など)をするのが上手い飼い人間が尊ばれ、体力も無く知能も低い者は生殖を許されず、食用にも適さないので、魔族が支配して以降、ほんの数世代で出来の悪いのや懐かない奴は淘汰されたそうだ。

 魔王は元は人間だったそうだが、不死の魔法を唱えて不老不死を手に入れたらしい、羨ましい。是非一度会ってみてご教示願いたい。

 別に人類のプライドを掛けて反逆の狼煙のろしを上げたりしないし、反抗したりもしない。

 ただ今生は長生きして健康に過ごしたい。

 時代背景の設定は、拙作「暗黒の皇帝(仮題)」を踏襲しています。


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