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思想のメロディ(随筆集)  作者: 藤原光
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私が私として存在するということについて(前編)

 私が私として存在するということについて考えると、そもそも私として存在している私とは、いったい何であるのかという問題が成り立つ。そしてその私の問題について考えるためには、私は私の存在性、在り方について吟味する必要がある。なぜならば私たちは、私はどのように存在しているのか。という謎を解き明かすことで、私が私であるという曖昧な存在論の問題理解に対して、初めて具体的な自己表明を得ることができるからだ。

 まずは私の存在性について考えたい。存在とは言葉通りに、その対象の事物が在るということである。従って私の存在というのは、私がこの世に在るということである。しかしこの在るという言葉が以下に事を難しくしていることか。私はこの世界に存在しているが、私の存在が肉体に依存しているかと言うと、決してそんなことはない。何故ならば私は私の死後も、私に関する記憶を持つ者による認識によって、この世界から完全に消滅してしまうという訳ではないからだ。事物が在るということは決して肉体に依存されない。私の死後も、私という存在が他者の記憶によって認識されるのならば、私という在り方には、必ず精神的な意味が含まれているはずだ。

 私が生きている限り私は存在する。これは疑いようのない事実だろう。しかし私の死後も私は他人の記憶によって存在することができる。ここで私が問題として取り上げたいのは、この二通りの在り方で存在する私は、全く同じようにして存在する私なのかという問題である。

 まずこれらを考察するにあたって、私は私という個について考える必要がある。この私という個のことを、今後、私は私の個性と呼ぶことにする。まず個性とは、その人特有の性質や性格のことである。そして私が私の個性について理解するためには、私は私という人間を外面性と内面性という二つの面を通して観察しなければならない。なぜなら私という人間を語るにあたって、私は私の外面性か内面性かのどちらかをおざなりにしてしまえば、私は私という本質から重要な一部分を欠如させた状態で、私という個性を語ってしまうことになる。この大きな欠如から成る私は、私として語るには物足りなく、これでは私という存在を充分に実証することができない。これは当たり前のことではあるが、これこそが私という存在を認識するにあたっては、最も重要な要素となるのだ。

 個性というものを解釈するにあたっては、その対象となる人物の外面性と内面性との二面的観察が必要である。そこで問題となってくるのが、他者が私の個性を解釈するためには、内面性観察が余りにも不完全で、それが記憶からのおおよそな推測としてのみ可能であるということだ。それと同様に私が他者の個性を考察するときも、外面的観察は可能であるが、私が他者の心を知る術などは一つとしてない。要するに私達が他者の内面性を説明しようと思えば、沈黙することしかできないのだ。

 私が存在するというときの私には、私という個性的な意味を含んでいる。では私の死後、私は他者による内面性を欠いた私像によって、この世に存在しているということになるが、この内面性を欠いた私像というものは、私という個性を認識するにあたっては、深刻な問題となるのではないだろうか。

 私の死後、私という存在は他者による認識によってのみ存在するが、この私というものは他者の記憶に刻まれた外面性だけによって存在していることになる。先ほどに個性の解釈には二つの視点による観察が必要であると述べた。もしそうであるならば、他者の記憶だけで作られた私というものは、それを個性として観察した場合、余りにも不完全なものとなってしまう。そのような不完全な個性が、本当に私という存在と同一の意味を持つのだろうか?

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