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心と心をくっつけたら気持ち悪いでしょう - 『新世紀エヴァンゲリオン』

作者: 銀次

 『新世紀エヴァンゲリオン』、特に旧劇について詳しいことは言いつくされているので、大雑把な事は私が好き勝手言ってもいいと思う。


 この作品の出発点は、庵野さんの喧嘩があって、クソみたいな言いあいと懇願を伴う説得があって、結局うまくいかない。「どうしてあんなに言ってもわからないんだ」って感想から出発しているんじゃないかと思うんです。原因は大体コミュニケーション不足。「結局は分かりあえるはずで、意思が融合されれば、心が由来のあらゆる問題は解決される」世界は平和に。もしそんなことが可能なら……。


 そんなif、作中ではごたごたと設定がくっついて人類補完計画と名付けられているが、これを前にして、作者はどんな感想を抱くかという問題と回答が『新世紀エヴァンゲリオン』です。回答は旧劇アスカの最後のセリフの通り「生理的に無理」です。


 私がこの問題設定と回答に気が付いたのは最近ですが、本放送で主人公にいろいろと生きていても良いと言わせて見ても解決しなかった監督が、心と心を混ぜるなんて気持ち悪いそんなものは願い下げだ、俺は理由を言っているんじゃなくて、嫌なものはいやなんだと、全世界が融合を望んだとしても、俺はいやだという回答を強い意志でつかみ取り、言い切るところ(言いきらせるところに)に、すがすがしさを感じるわけです。説明がないのは当たり前なんです。生理的に無理なんですから。そして、融合の拒否は我々も経験している面倒な人生の存続を願うことでもあります。


『新世紀エヴァンゲリオン』について、監督から新解釈が提示されて、結果間違っていてもこう言うものだと私は信じています。そこまでして回りめんどうくさい人生を生きることを選び取る、以来、ロボットアニメは、明日を選び取ることが是となったのではないでしょうか。


 もう一点、この問いを思いついた時に、不意に思い出したのが、『カラマーゾフの兄弟』のイヴァンの独白です。内容は、人類補完計画のモデルだろう最後の審判について。説明が面倒なので引いておきます。


「いいかい、たとえ、すべての人間が苦しまねばならないのは、苦痛をもって永久の調和を購う為だとしても、何んの為に子供までが引合に出されるのだ。――どういうわけで子供まで材料の中にはいって、何処の馬の骨だか分らない奴の為に、未来の調和などと言うものの肥やしにならねばならぬのか」「ねえ、アリョウシャ、僕は決して神様の悪口など言っているのではないのだよ。すべて生あるもの、嘗て生ありしものが声を合わせて『主よ、汝の言葉は正しかりき、汝の道は開けたればなり』と叫んだ時、全宇宙が、どんなに震えるかという事も、僕はよく想像出来る。母親が自分の息子を犬に引裂かした暴君と抱き合って、三人が涙ながらに声を揃え、『主よ汝の言葉は正しかりき』と叫ぶ時には、それこそ勿論、認識の終わりが到達したので、何も彼も明らかになるだろう。処が、待ってくれ。僕にはそれが許せないのだ。――神聖なる調和なぞ平に御辞退する、なぜって、そんな調和はね、あの臭い牢屋の中で小さい拳を固め、われとわが胸を叩きながら胸を叩きながら、購われる事のない涙を流して『神ちゃま』と祈った憐れな女の子の一滴の涙ほどの価値もないからだ。なぜ値打ちがないのか。この涙が永久に購われることなく捨てられるからだ。――僕は、調和なぞ欲しくない。人類に対する愛の故に欲しくないのだ。僕はむしろ購われぬ苦しみの方をとる。た(・)と(・)え(・)()の(・)()え(・)が(・)()()っ(・)て(・)い(・)て(・)も(・)、購われぬ苦しみと不満とに終始したいね。それに、一体この調和という奴が、あんまり高価に踏まれ過ぎているよ、僕等の懐具合ではね。――僕は神様を承認しないのじゃない。ただ『調和』の入場券を、謹んでお返しするだけなのだ」(『ドストエフスキイの生活』小林秀雄著三〇〇頁より)


 ミーチャは、義憤から全人類の『調和』を拒み、その後有名な大審問官の劇詩ではキリストと言う人物の謎めいた許しの魅力を描くところに特徴があると言えよう。これが、ドストエフスキーなりの回答(の一部)である。


 庵野監督は、全人類の『調和』を拒むが、それは自分の血肉を分けた登場人物の判断に限り、それ以外は知らない、寧ろ受け入れている節がある。思い出してほしい、最後の二人以外は殺し、背景は調和に失敗した儀式の残骸と血の海である。氏にとってはキリストなど問題ではなく、あくまで『調和』、具体的にはこころとこころをくっ付かせること、さらにそこから見えるだろうものが「気持ち悪い」のだ。そして、あくまで俺の意見と言う点にこだわったのである。

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