イージス、帰還
イージスは8年ぶりに戻ってきた故郷をみて感慨にふけっていた。
―あの夜―
門を守っていた衛兵は、遠くから聞こえる蹄の音を聴き身構えていた。いくらこの村でもこんな夜遅くにやってくる者はほとんどいない。音が大きくなるにつれそれが複数であることも分かって余計に身構えているところだった。
フリックは村が見えてきてようやく一息ついた。
「おい、ビクトール。ようやく着いたぜ!マクギリス領だ。」
フリックという銀髪の髪に青いバンダナを巻き青い皮の鎧で身を包んだ青年が、後ろを走る大柄の男に呼びかけた。
「やっと着いたか!いや〜帝国からはさすがにしんどかったぜ!!途中山賊などにもあっちまったせいでこんな時間になっちまったが中に入れてもらえるかな」
こちらは、フリックという青年とは対称的に大柄で無精髭を生やしたがっしりとした体躯の青年だ。いや、いささか老けて見えるが・・・
「大丈夫だろ!!こっちにはこいつがいるんだから!!間違っても矢で射られたりはしないだろうぜ!」
フリックは、顔面偏差値の高い顔を笑顔にしつつ振り返りながら答えた。
「だといいがな!」
対してビクトールはやけに懐疑的な目をしている。前にも似たような案件で危うく捕まって投獄されるところだったからである。その際は、命からがら逃げ出した痛い思い出がある。
2人のやり取りを聴き、ビクトールの馬の後ろにまたがっていた少年が申し訳なさそうに答える。
「2人とも申し訳ありません。ついたら必ず上手く説明しますので。」
この少年は、2人のいかにも冒険者感とした位で立ちではなく、体の線も細く華奢でまだあどけなさの残る顔立ちをしており、来ている服も病人が着る作務衣の様な格好をしており今にも消え入りそうな雰囲気をしていた。
「あぁ、そりゃ心配しちゃいねーよ!道中もイージスには散々助けられたからな!!」
ビクトールが、後ろを振り向きながら大声で叫ぶ。
イージスは耳元で大きな声を出されたので少ししかめっ面になりながらもなんとか笑顔で返すのだった。
そうこうしているうちに、村の前までつき衛兵の前へと降り立った。
衛兵はこんな時間になんの用だとばかりに、不満げな顔を浮かべ槍を持ち警戒しつつも近づいてくる。
フリックは明かりで顔が見えるところまで歩いて行き、
「なに、怪しいもんじゃないさ。こちらの領主のリオン殿に用があって来たんだ。」
「なに?!余計に怪しいに決まっているだろう!!こんな夜中に来たやつに突然領主様に会わせろと言われて、はいそうですか。となるわけがないだろう!!!なにか、身分を証明できるものはあるか?」
衛兵は一層不信感を募らせながら答えた。
すると、後ろにいた大柄の男が
「あぁ、わりぃわりぃ。俺たちは冒険者ギルド光りの盾のものなんだが、このボウズ・・・いや、イージス様を道案内してあげたって訳なのさ。」
すると、馬に乗っていた少年が降りてきて衛兵に話しかけた。
「やぁ、トール久しぶりだね。僕だよ。覚えてるかな。リオンの息子イージスだよ。8年ぶりの故郷だけどあまり変わってないね笑」
と、少年が親しげな口調で話しかけてきた。それをきいた衛兵は一瞬呆然としたのち顔を真っ赤にして突然怒り出したのだ。
「てめぇふざけんな!!イージス様は8年も前に誘拐されてそれ以来消息が掴めねぇんだぞ!!それを、のこのこと現れてイージスだと!!ふざけるのもたいが・・・」
そこまで、怒ったところでトールと呼ばれた男は目を見開いた。
「いや・・・まてよ・・・その顔、その声。確かに顔つきは大人びているし、声もしっかり大人の声になっていやがるが・・・その両目の違う色。そしてそのペンダントはマクギリス領に代々伝わるもの・・・・・・お前本当にイージスなのか?」
トールは信じられないという顔でイージスの顔をまじまじたとみている。
「だから言ってるじゃないですか。そんなに疑うならもっと近くでこのペンダントでも目の色でも調べてくださいよ。なんなら、昔トールが浮気して別れた奥さんの名前も・・・」
と、そこまでイージスが喋ったところでトールが慌てて止めに入った。
「わかった!!わかった!!てか、ホントにお前イージスなのか!!いや、本当に無事で・・・あんた達にも失礼なことをしたな。」
そう言ってトールはフリックとビクトールにも頭を下げながら、
「今すぐリオン様に知らせてくるからよ!!悪いが時間も時間だし詰所で少し待っててもらえるか?」
そういって3人を詰所まで送ると、急いで領主であるリオンの元へと伝令を出したのであった。