アプソディ公爵家
「はぁ〜!大きいですねぇ!!!やはり、悪いことをしているのでしょうね!!今どき、正しいことだけではこんな立派な家は建てられませんよ!!」
イージスが興奮したような口調で、眼前に広がる正門を見ていた。
「そんなことはいいから。一応相手は公爵だからな。粗相の無いように頼むぞ。」
「えぇ、分かってますよ。フリックは心配しすぎですよ?いくら僕でも身分くらいは弁えてますからね!」
誇らしげな顔で頷くイージスを、フリックとビクトールは憐れみを浮かべた顔で眺めていた。
三人でどうするか話し合った結果、考えていても仕方ないので正面からお邪魔しようということになった。
その間、マイルは何か言いたそうにモゴモゴしていたが、無視した。
「すみませーん」
「ばっ、バカかお前は!!貴族の館にそんな態度をとったら即刻牢屋に入れられるぞ?!」
「何言ってるんですか、元はといえばこちらの息子さんが粗相を犯した身。誉められこそすれ、投獄なんておかしいですよね?」
「そりゃそうなんだけどよ・・・。」
頭を抱えて悩み込むフリックであった。
しばらくして、屋敷の門が開き執事服を着た男が出てきた。
「ふむ・・・。何かご用ですか?こちらは、メルキオ街でも有数の権力を誇る、アプソディ公爵様のお屋敷ですよ。あまり無礼な態度を取られると、それ相応の対応を取らねばなりませんが?」
「いや、失礼した。俺・・いや、私はビクトールと申します。冒険者ギルド光の盾に所属する冒険者です。」
「おや、かの有名な光の盾のメンバーがどう言ったご用件で??」
「はい、実は先日街道を歩いていたところ、公爵様の次男である、マイル様にお会いしまして・・・。その際に勘違いされたのか襲われたのです。街の警察に言っても良かったのですが、まずは公爵様にお伺いした方が良いかと思いまして・・・。」
「それはそれは、マイル様が大変失礼を致しました。ですが、あいにく当主のオルター様は体調が優れず、長兄のイシ様が代理で勤められておられます。そして、イシ様と、マイル様はあまり仲がよろしくないのです。」
「それを僕たちに言っても良いのですか?」
「ええ、もはやメルキオの街では周知の事実。今更隠すことでもありません。さらにいうと、マイル様はイシ様とたもとを別れて3年になります。」
「えぇっ?!そうだったんですね・・・ではこちらにきても迷惑でしたか?」
「そんなことはないですよ。愚弟が失礼を致しました。このようなとこで立ち話もなんです。せっかくいらしていただいたのですから、どうぞ中にお入りください。」
突然後ろから声をかけられ、フリックとビクトールは驚いて飛びさすった。
「おや、急にお声掛けをして失礼いたしました。私は、当主代理を務めますイシ・アプソディと申します。私も腕に覚えがある身でして、かの有名な光の盾の方々とお見受けして少し試してみたくなったのですよ。もっともこちらの少年にはバレていたようですが・・・。」
「いえ、途中まで全く気配もしませんでしたよ。僕も気づいたのは、お声が掛かる数秒前ですし。そう・・・まるで転移でもしたかのように現れましたもんね。」
お互い相手を見透かすような薄い笑顔を浮かべているのを、フリックは頭を抱えたい気持ちを抑えながら眺めていた。