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自転車乗りには響かない(自転車乗りは止まらない特別編2)

作者: クリクロ

 緑に囲まれた郊外のオープンキャンパス。昼になると決まってヒロトと一緒にこの食堂に入りびたる。そしていつものたわいもない会話が今日も始まる。


「今回だけは、ふざけないで聞いてほしいんだ」


いつもとは明らかに雰囲気が違っていた。それは『茶々を入れろよ』という前フリではなく、完全に真面目モードなヒロトがそこにいた。


「なぜなら命に直結する話だから」


その言葉を聞いてあの言葉を思い出した。


『失った命は法律ですら生き返らす事は出来ない』

(自転車乗りは止まらない第1話参照)


俺もそこまでバカではない。おそらくふざけた話ではなく『そういう話』なのだろう。俺は気を引き締め、無言でうなずいた。



「走行中にパトカーや救急車のサイレンを聞いたことはあるよな」


「ある……けど」


……そっち系の話か。これはもうツッコミどころか相槌あいづちも入れてはいけない雰囲気だと瞬時に悟った。



「勿論、パトカーも救急車も常にサイレンを鳴らしているわけではない。だがらこそ逆にいえばサイレンを鳴らすという行為は、それほどひっ迫した状況を表しているんだ」


「それに対し、ドライバーは反射的に理解する。ひっ迫かどうかは理解していないまでも、進路妨害の交通ルールに抵触することくらいはわかる。だから、サイレンが聞こえたら停止するか車線を譲る」


「ところが、自転車乗りにはこのルールが徹底されていない。浸透されていない。すぐそばで聞こえるサイレンを平然と聞き流し、青信号になればいつもと同じように横断歩道を渡る。そんな光景を俺は目の前で見て、本当に愕然がくぜんとしたよ。このサイレンがなぜ響かない?誰かの危機的サインだとなぜ届かない?」



この時のヒロトの目力めぢからはハンパなかった。まるで俺が怒られているようなそんな殺気すら覚えた。


「これは実際に救急車に同伴として乗った身でなければわからないかもしれない。目の前のストレッチャーに苦しそうに横たわっている姿ごしに救急車のフロントガラスから目の前の道路状況が見える。なんでこの場所はこんなに混んでいるんだ‼︎ なんでお前らは道を譲らないんだ‼︎」


「……勿論、これは完全な俺の独りよがりさ。ワガママだよ。だけどさ、この緊急時にワガママを言わないで、いつ言えるって話さ」



珍しく興奮気味に話すヒロトを見て、本当に言葉が出なかった。仮に救急車に乗っている患者が身内で一刻を争う重症な状態だったら、サイレンの意味に気づかず平然と横断しているこの不届き者に対しきっとヒロトと同じ考えを抱くに違いない。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


『青信号に変わったから渡る』

あたり前の行為が、あたり前でなくなる時がある。……その事を知らない大人がいる。


連載中の『自転車乗りは止まらない』は自転車にまつわるエピソードですが、この話よりマイルドにコミカルに仕上げています。興味があれば、それらも是非。

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