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結婚の条件

世界は、三つの大国とその周辺に点在する小国、国の形をとっていない部族の集落で構成されていた。

このダンタリア大陸の西側にセントパルミア公国、中央の砂漠地帯と点在するオアシスとそこに住まう部族を収める騎馬民族国家ハサンファティマ、そして東の端の豊かな大地と海を持つ大蜃皇国。

以前はこの三国が世界の均衡を保っていたが、西のセントパルミア公国が北のバイキングの襲撃と、その敗戦による混乱の最中、親族同士による争いにより五つに分かれてしまった百五十年余り前までの話だ。

今のセントパルミア公国は、中央と東の二国と肩を並べるほどの軍事力も経済力も持ち合わせてはいない。

そんな中途半端な国が生き延びるには、常に策を張り巡らせ周りを出し抜くか、同盟を結び戦争を回避するか、大国に庇護を求めるかくらいのものだろう。

前者は、王の器もだが有能な臣下が居なくては話にならず、また一度たりとも策に溺れることは出来ない。

最も簡単な方法は、敵対している国と言えども娘を嫁がせ同盟を結んでしまう事だ。

嫁いだ相手が凡庸もしくは愚王であれば、民と宮廷を掌握し、王の代わりに王妃が政務を取り仕切る。

反対に賢王であれば、早々に王子を含む子供を沢山産み育て、良妻賢母たれと。

民にとって良い王は短命であるのが世の常である。

それが寿命であるのか暗殺であるかと問われれば、後者が圧倒的に多いのだろうが。

亡くなった王の跡を継ぐのは、幼い王子であるが成人するまで代わりに政を行うのは母親である王妃と決まっている。

その為にセントパルミアの王女達は、幼い頃より王子達と同じく、歴史、政治、経済のみならず帝王学や嫁ぎ先の周辺諸国の言葉を学び、必要ならば剣や銃といった凡そ王女に必要のないものまで叩き込まれるのだ。

そして、血で血を洗うと黒い噂の絶えなかったバッディステッラ王家の中でも、毒姫と名高かった曾祖母が嫁いで来てからは、薬学も含まれるようになった。



国王夫妻からの呼び出しが来たため、アリシアは姉達と一緒に地理について学んでいたが、彼女だけ席を外して執務室へとやってきた。


「お呼びでしょうか、お父様」


「喜べアリシア!お前の婚礼が決まったぞ!彼の大国、大蜃皇国だ!」


両手を広げて喜びを体現しているのだろうが、それはアリシアにとって死刑宣告に他ならなかった。


「私が?大蜃皇国……ですか?」


「そうだ。連中め、漸く首を縦に振りおった」


王侯貴族の家系に生まれたからには、命が下れば敵国へも嫁がなければならないことは承知している。だが、今回は自国から遠いだけでなく、宗教も風習も言葉も何もかも違う場所へ行けと言われているのだ。

何より、他の姉妹と違ってアリシアは生涯独身で、母国から一歩も出ないものだと思っていた。


「順序からいけばお姉様達が先ではありませんか?」


自分の上にはまだ婚約の決まっていない姉が四人も居る。なのに、下から数えた方が早い自分に決まったのか、アリシアは疑問を口にした。


「送ったとも、()()()含めまだ結婚の決まっていない姫の絵を全てな。向こうの回答が、第七王女を後宮へ迎えたし、だ。」


「どうして私の絵を送ったりしたのですか?」


自分の肖像画を送れば、必ず自分を指名してくることは分かりきっている。分かっていて自分の絵を他の姉妹の物に紛れ込ませて送ったのだろう。


「お前は、何も心配せずとも良い。今回の婚姻は、"白い結婚"だ。嫁いで三年は子を作らない事が第一条件だからな」


見当違いな返答をする父王を見ながら、アリシアも考える。

ああ、そうか。嫁がせはするが、どんな理由を付けるのかは知らないが三年以内に連れ戻すつもりなのだ。

だが、大蜃皇国(向こう)がそんな条件を律儀に守るとも思えない。

条件が揃えば結婚の無効を申し立てることや白紙撤回が出来る西側(こちら)とは、そもそも宗教観が違うのだ。

一度後宮に入った女は、死ぬまでそして死んでも後宮から出ることは出来ないはずだ。

大国との同盟を手に入れたと楽観的な両親と大臣達を他所に、アリシア自身は浮かない表情(かお)をしていた。


ーー均衡が崩れるーー


セントパルミアと東の大国が手を結んだと知れれば、我が国と小競り合いをしている周辺の小国に激震が走るだろう。

それだけでなく、西側の豊かな穀倉地帯を狙っている中央が黙っているはずもない。狙っている西側ではなく背後の東から不意打ちを喰らう可能性だけでなく、下手をすれば東西から挟み討ちに遭うのだから。

アリシアは、自分の婚姻が戦争への引き金を引くかもしれないと、特徴的な大きな猫のような瞳を眇めた。


聞きたい事はまだ沢山あったのだが、「下がりなさい」と言われたため大人しく部屋を出ることにはしたが、このまま元の授業に戻る気にはなれなかった。

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