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真面目のマジメ食堂

作者: 柚根蛍


 夏、それはひたすら暑い蒸し暑いだけの鬱陶しい季節。蝉の鳴き声は耳障りだし、夏休みの影響で外で遊びまくってる子供たちを見ているとイライラする。これに至ってはただに嫉妬なのだが、それは俺も本心ではわかってるんだ。

 何も好きで嫌いになっているわけじゃない、理由がないと嫌いなんかにならない。食べ物なら不味かった、人間ならウザかった、気に入らないだっていい。

 それでも一番嫌いなものは何か。何でも何かと理由をつけて嫌いになりたがり、他人を見下すクズのような塊。勉強もしていないあったし会社に入れば失敗続き。……そう、俺が一番嫌いなのは自分自身である。生きる価値のないクズ人間とわかっていながら、死にたくないと甘っちょろいこと抜かす、自殺しようとしても全て未遂に終わった。自殺して死ねなかったとかじゃない、自殺という行為自体未遂だったってことだ。

 甘いんだよ俺は、全てに関して。

 ……それで今日、俺は勇気を出して死のうと決意した。真剣(マジめ)にだ。


「これが人生で初めてやり遂げることなんて、全く笑っちゃうよな」


 目の前には交通量の少ない道路、良く暴走族が通ってる俺が死ぬにはおあつらえ向きな場所だ。

 何故って?決まってる。俺はとことんクズだ、だから死ぬ瞬間までクズになるんだ。暴走族に俺を跳ねさせて俺は人生終了、向こうも最悪一生物のトラウマを味わえるって寸法さ。クズすぎて反吐が出そうだ。


「うわーなにあの人、きたなーい」

「まじウケるー」


 通りかかった女子高生が俺を指差し嘲笑う。笑えばいいさ、どうせ死ぬんだから気にしなくていい。

 待っているといつもの五月蝿いバイクの音が聞こえる。あいつらもクズだが、仲間作って俺よりはマシな人生。折角だから俺の代わりに最悪の景色を見せてやるよ。


 すると、横断歩道の向こうのほうから何かやって来る。よく見るとそれは少女であり、二人組。ボールを追いかけ横断歩道にって…おいマジか!?俺が死のうって時に他の奴に死なせてたまるかよ──

 男は、力の限り走る。助けたいと言う気持ちではなく、目の前で他の人間に死なれたらまた恐怖で自殺ができなくなると考えたからである。


「おらどけっ!そこは俺の特等席だ!」

「何考えてやがる!ぶつかるぞーーーーー!」


 暴走族達が騒いでいる。これで俺は逝くんだな。グッバイ世界、二度と帰ってくるかこのヤロウ。

 そこで男の意識は途絶え──


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『おい、聞こえるか。クズよ』

「なんだよ、うっせー……な?」


 おい、なんだなんだどうした俺は!?なんで喋れる!?なんで感覚がある!?なんで──生きてんだよ!?


『気付いた様じゃな、クズ野郎』

「呼び名進化してるし、ってかあんた誰だよ!?ここ、どこな訳!?」

『狼狽えるな、まず聞けクズめ』

「なんだこのジジイ…」

『ワシは神じゃ。お前の行動、見ておったぞ。クズ』

「随分口の悪りぃ神様野郎だな」


 そう言うと、神と名乗る老人は手に持つ杖をクズに向ける。


天誅(てんちゅう)!』

「いっでぇぇぇえぇぇぇぇぇ!?うわ!なんだよそれ!?」

『神様と呼べ、神様と』


 今ので逆らえないと察したのかクズは渋々とそれを了承する。


「神…様」

『最初からそう素直になってれば良いものを』

「うっせ」

『いいか!?そもそもそんな暴言を許してる時点でワシの心の寛大さは神レベルなんじゃ!そう、神だからの!はははっ!』


 ギャグなのかすら分からないつまらない戯言にクズは「けっ」と悪態突く。


『お前は死んだ!バイクに轢かれての』

「そりゃ、また光栄なことで。んでなんなの?神様が楽園にでも連れてってくれんの?んなーわけねぇなあ」

『地獄では生温い…異世界の刑じゃ!』

「何なのそれ?ラノベの世界かっつーの」

『クズ、お前は死ぬ時にさらに罪を重ねた』

「は?なんだそれ」

『お前がバイクに当たりに行ったせいで意識の逸れた暴走族はブレーキを踏むのが遅れ、お前と一緒に姉妹も巻き添えになり、お前を轢いた暴走族は仲間のバイクに撥ねられ死んだ!』

「はぁっ!?」

『よって、お前を異世界に送る!』

「そこで何させられるんだよ!?」

『魔王を倒せ!お前の死なせた姉妹と、暴走族と一緒に!善業を積み魔王を倒せえぇーーーっ!』

「はぁぁぁぁぁあああああああ!?」


 そうして、俺は。異世界に送られることとなる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…お……ろ!起き……!」


 声が聞こえる、何だろう糞うるせぇ。


「起きろ!起きろって!」

「あぁ!うるさい!」


 苛立って飛び起きた。

 そしてそこに広がる世界は、少なくとも俺の知っている世界ではなかった。


「なん……だよ!これ!ここ!」

「おいシカトしてんのか、おっさん!」

「なんだぁ?てめ…あ」


 その女を見ると、見覚えのある格好をしている。……こいつ俺がぶつかったバイクの奴じゃねぇーか!


「おい!神様って奴から聞いたんだぞ!アタシを殺したのはあんただってな、どう責任取ってくれるんだよ!」

「ねぇ、あの人達、怖いよお姉ちゃん……」

「ここどこなのー…ママどこー?ボールはどこなのー」

「ハッ!」


 後ろから声がする、二人。ということはもしかしてだが……。やっぱボールを追いかけてた姉妹じゃねーか!

 どうするよ俺、どうするよ。わけ分かんねー世界に送られて初っ端から修羅場ってどーゆーコトよ!?


 なんやかんやで暴走族と姉妹と共に魔王を倒すことになった俺はなんやかんやで暴走族を落ち着かせて街に向かうことになった。


ーーーーーーーーーー


「そうだおっさん、アタシの名前はケイコだ。おっさんの名前はなんだ?」

「俺が何で言わなきゃなんねーのよ」

「おじさんこわいー!」

「こわいのー」

「うっせ、自分の名前が好きじゃないんだよ」


***


「そうだおっさん、アタシの名前はケイコだ。おっさんの名前はなんだ?」

「なんで二回同じこと言うんだよ、言わねーって」

「おじさんには名前がないのかな?」

「多分そうなの」

「嫌いなんだって言ってんじゃんか!」


***


「そうだおっさ──」

「なんなんだよケイコ!さっきから何度も同じ事を!」

「はぁっ!?なんで急にキレたし、というか何でアタシの名前知ってるんだよ!」

「おじさん怖いよお姉ちゃん…」

「私もなの…」


***


「そうだおっさん、アタシの名前はケイコだ。おっさんの名前はなんだ?」


 おい、どういう事よこれ!?まさか神の野郎の仕業かよ。名前を言うまで進めねぇつもりだな!分かったよ、やればいいんだろ!


「はぁ…俺はハジメだ」


***


「そうだおっさん──」


 偽名でもダメかよこの野郎!気が狂いそうだ……


「マジメだ!俺の名前はマジメ!これで良いか!」

「あ!?お、おう…マジメ?……ははっ!おじさんが、真面目って!ははははっ!おっかしーや」

「おじさんまじめなの?」

「ちがうとおもうの」


 クソッ!だから言いたくなかったんだよ、この性格でマジメなんて、嫌なんだよ!


「あ、そうそうアタシはケイコだ」

「知ってる」

「わたしはアイー」

「キララなの」


 姉の方はキラキラネームかよ、キララってなんだ。輝と書いてキララって読むのか?

 そしてループが止まった…。正解ってことかよ、なんなんだ。


「さっき、おっさんに対してキレたけどさ、実際アタシ悪い気はしてないんだわこれが」

「あ?」

「だって異世界だぜ!?こんな事フツーじゃ絶対来れないじゃんか!」


 なんだコイツは、俺が殺したってのに何が悪い気はしないだ、本音を隠したって無駄だ、俺には全て分かるんだからよ。


「不思議なの」

「ママがいないよー」

「馬鹿か。異世界なんて幻想だぞ。ここもどうせ地球と同じ腐った世界だ」

「はー、マジメさんはそうなんだな」

「さんってなんだよ、さんって」

「年上を敬うのは基本なんだぜ?一応これでも敬ってやってんの、感謝しろよな」

「あっそ、好きにしろよ」


 こんなガキでも俺なんかを気遣ってくれているって言うのに、やっぱり俺、ド底辺だわ。


「つれねーなー」

「それと、姉妹の世話はケイコ任せる。子供は嫌いなんだよ」


 そうだ、子供はその無邪気さ故に素直すぎる。思った事をすぐに何でも言うし、その言葉が傷付くってなんの。


「はぁっ!?何考えてんだあんた……ま、いいさ。兄弟沢山いたんだ、これくらいなんてことないな」


 素直に受け入れるのかよ、もう少し動揺とか断るだろフツー。こいつ、お人好しかよ。


「よーし、おねぇちゃんが世話見てやっからよ、安心しろよ姉妹!」

「わーい!おねぇちゃんよろしくー」


==========


 それから数年。



「おーい!ガキたち、飯だ、メシ!」

「おっ!マジメさんの飯だ!今日もこれ食わないと一日が始まらないってな」

「お姉さんは、お兄さんの料理が好きだね」

「アイもそうでしょ?もちろん、私もだけど!」

「ははは……そりゃ嬉しいことだ、作りがいがあるってもんよ」


 この世界に来た俺たちは。何だかんだで仲良く暮らしてた。全く、この世界の人等は何故かみんなお人好しでさ。ツンケンしてる俺自身が馬鹿らしくなるっての。

 最近ではループもすることは無い、どうやらあのループは悪い事だったり、道徳の無い行動をした時に徹底的に強制するようなものだった。

 何故か魔王って奴もこの世界にはいなかった。んで結局、ここで暮らすようになった。

 人生がこんなに楽しいなんて、知らなかったわ。


「おかわりだ、マジメさん!」

「ああ、子供のためにも沢山精をつけろ!」


 そうだ、俺には新しい家族もできた。今四ヶ月目だ。ここでの生活は楽しい、元の世界が嘘だったみたいにさ。

 今じゃ嫌いだったマジメって名前も嫌いじゃなくなった。なんせ今は周りから『真面目のマジメ』ってぇ呼ばれてる。何処がだとは思うが、周りから見ればそうなんだと。


「ふふっ」

「何笑ってるのさ、マジメさん」

「いや、俺がこんな生活出来るなんてな」

「あっはは!昔のマジメさんとは、そりゃ大違いだね!」

「お姉さんもお兄さんも、優しくなったよね」

「アタシは最初から優しかったろ!」

「ははっ、ほんと根っからのお人好しだったな」

「マジメさんだってさ、それが根っこなんだろ?今の自分は本当の自分なんだろ?」

「……あぁ!そうだな!俺は『真面目のマジメ』だからな」


 そう考えると、元の世界だってそうだ。思い返してみれば全て自分のせいだったよ。

 本気で真面目に生きてたら、少しは違った景色が見えたんだろうな。上手くいかない時があっても、そんなの普通さ。誰にだってそれぞれ生きる本当の道がある。

 俺は、それを見つけれたんだ。


 そう思った。……すると、眩い程の光が天から降り注ぎ、マジメ達を包む。


「な、なんだこれは!?」

「一体何が…」

「お姉ちゃん!どうしちゃったんだろう」

「わ、分かるわけないでしょ!……」


『魔王は倒された…』


 その聞き覚えのある声と同時に、俺達はこの世界から消えた。


==========


「あれ…ここは」


 突然のことに理解が追いつかない…しかしここは。見覚えのある世界だ。

 俺の目の前には、横断歩道。

 そして暴走族の音がする…。

 そして、それに続くようにボールを追いかけている姉妹が見える。


「……はっ!?まずいぞ!」


 考えるより先に、身体が動いた。俺は、この世界に来る前よりも早く横断歩道に入り、大の字で暴走族の方を向いた。


「おい、おっさん!なにしてんだ、どけよ!轢かれるぞ!」


 その声は、確かにケイコのものだった。

 そのまま立ち塞がると、バイク達はゆっくりスピードを緩め俺の元へと来た。

 ケイコが此方に来る。


「馬鹿かおっさん!?何考えてんだよ、死にたいのか!」

「いや……死にたくない、うん。ケイコ…」

「あっ!?なんでアタシの名前知ってやがる、気色悪いぞ!」

「だって……だってさ!」

「だってがなにって!おい何泣いてんだよ!変なおっさんだな!」


 俺は…この世界で。もう一度やり直せるのか…できるのか。いや、やるんだ、やるんだ俺は!


「うぉぉおおおぉぉぉぉぉ!」

「なんだ!?」

「お姉ちゃん、あの人怖いー!」

「ほんとだ、突然叫んでこわいの……」


 プー!!プーーーーッ!!

 他に来た車が、クラクションを鳴らす。こうしちゃいられない!やるぞ!やるんだ俺は!!!


 そうしてマジメは、蒸し暑い夏の日。蝉の声が響く中、自宅へと走って行った。


ーーーーーーーーーー


・エピローグ


ーーーーーーーーーー


「えーっと、まずはバイトだ…」



「何度言ったら分かるの!」

「すいません!このバイト合わないので辞めます!」

「えっ!」



「ここでやることはアタシが教えるから…って!うわ、前見たやばいおっさんだ!」

「マジメです!よろしくお願いします!」

「マジメって…ははっ!なんだよその名前、しっかり働けるようになるまで教えてやるからな!」



「ねぇ、マジメさん」

「どうした?ケイコ先輩」

「いや?なんか最初あった時以前にも見た気がしてな」

「……気のせいだろ、これでいいかな」

「おっけー完璧!飲み込み早いじゃん!」



「マジメさんの飯ってさうめーよな」

「そりゃ、ありがとさん」

「胃袋がっちり掴まれたって感じ、これからも作ってくれない?」

「え、それって…」

「おいおい、泣くのはえーぞマジメさん」

「だって…なんていうかな……」



「子供、できねーよな」

「出来なさすぎだよな、もういっそ養子、なんて」

「いいとおもうぞ!」

「マジかよ」



「は、初めまして…アイです」

「もっとしゃきっとしなさいよ!キララといいます、よろしくお願いします」

「ああ…よろしく!」

「やっぱいいよな子供は!これからもしっかり働いてくれよマジメさん!」

「もちろんだ!」



「俺、店持ちたいんだ」

「店ってなんだ?食事か?」

「お父さんの料理すごく美味しいから、いいと思うよ」

「あたしも賛成!」

「アタシは応援するぜ、マジメさんならやれるさ」

「うん……ありがとうな!」



「看板は……おお!やっぱ業者は凄いな」

「全く、なんて名前付けてるんだよ」

「そうだな、全くだ!」

「繁盛するかな」

「決まってるでしょ!お父さんの料理は世界一なんだから!」


ーーー

ーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーーーーーー


「ねー、ケイコさん。一緒にご飯食べに行かない?」

「ん?どこですか、ラーメンですか?」

「違うわよぉ……『真面目のマジメ食堂』ってとこ。何年か前に出来て気になってたけど忘れてたのよ、丁度友達から割引券貰ってね、一緒にどう?」

「ええ…はい!あの店は美味しいですよ!自信を持って言えます!」

「あらぁ、いいわね。それじゃ後で行きましょ」

「……はい!」


 終わり。

長編を書いていた中、短編や掌編は書いたことがなかったな。と思ってこの短編を書いてみました。


初めての短編小説ですが如何だったでしょうか。まだ経験不足であり足りないところもかなりあったとは思いますが、取り敢えずこれが今の自分の書けるものだと分かりました。


書いているとなかなか削らないといけないなと思い、かなり飛ばしましたが丁度いい長さでしたでしょうか。



取り敢えず私の自分語りはこの辺で、ご拝読頂きありがとうございます!


ここが良かったなとかこうすればいいと思う、などアドバイスがあれば頂けますと幸いです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編じゃなかったらと思えるほど がっつりみましたわ 神様も粋なことをなさる 最初は神様=悪魔か魔王かな?と思いましたがラストまで読んだらスゲエ神様だと実感 だってねぇ?道路で走り回って…
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