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非日常的な日常

Twitterでアンケートをとったところ思いのほか反応があったので載せてみます!

文字数制限&六時間程度で仕上げた作品なので誤字脱字等あるとは思いますが見てみてください!

 


 日常ってなんだろう。見慣れた景色の通学路を歩いて学校に向かい、人間の友達と楽しく談笑すること? 確かにこれは紛れもない日常だ。

 じゃあ見慣れた景色といえば何がある。住宅街や立ち並ぶビル、場所によっては広い田んぼや鬱蒼とした森が広がっているという人もいるだろう。

 ならもしそこで戦隊ヒーローやロボットが悪の組織と戦っていたりしたら? 鬱蒼とした森や田んぼの中から、異類異形の化け物が出てきたら? もし霊能力者や超能力者がクラスに一人二人いて、他のクラスメイトに正体を隠して生きていたら? それはどうみても非日常だよな? 


 じゃあ……もしそれが“よく”起きる出来事だとしたら、それは日常になるのだろうか。

 いつも町のどこかでヒーローやロボットが人々を守るために戦い、森や海などの自然の側には必ず妖怪や精霊が潜んでいる。霊能力者や超能力者がクラスに一人二人いて、他のクラスメイトに正体を隠して生きている。それは本当に日常といえるのか? 



 まぁ結論を言ってしまえばそれも日常だ、なんせ日常というのは文字通り常日頃を表す言葉だから。たとえすぐ目の前のゲーム専門店が巨大な怪獣の足の下敷きになっても、それが日常である以上受け入れないといけないんだなコレが。


「やべぇ、怪獣が出たぞ! 逃げろ逃げろ!」


 そう叫んで逃げ回る人々、彼らが待つのはそう『ヒーロー』だ。この世界にはいるんだ、そう呼ばれる存在が。なんなら『なんとか戦隊なんとかジャー』やら『魔法少女』だっている、もちろんそれらの宿命の敵や意味も無く街を荒らす怪物も。


 なんて語っているこの俺、超常 出葉(ちょうじょう いずは)も超能力者だ。悪いが使える超能力は多岐にわたるためこの場での紹介は省かせてもらう。

 無論目の前の巨大な怪獣だって、力を使えばどうとでもできる。が、普段はただの高校生として生活している手前、この状況ならヒーローに任せて逃げる以外の選択肢はない。でも今回ばかりは例外だ。


「……ふざけんなよ」


 無意識にポロリとこぼれた言葉、俺は拳を固く握る。今潰れた店に用があったのに。

 今日は『チョーエツ!クエスト』という、ゲーマーの中でも名作と名高いシリーズの新作の発売日だったのだ。だから敬意を払って学校という束縛から解放される日曜の朝からわざわざ徒歩三十分、自宅から歩きで買いに来たのに。

 苦労の末たどり着いた最初の店では既に品切れ、そこから二軒三軒四軒……やっとの思いでたどり着いた五軒目。探索時間合計一時間三十分。いざ突撃と息巻いた目の前で店が踏みつぶされたのだ。

 そんな俺を嘲笑うように怪獣の鳴き声が高さ三十メートルから打ち下ろすように響く。目の前の巨大な脚が周囲の空気ごと持ち上がり、呆然とする俺の視界を砂埃で覆い尽くす。


 潰れゆく建物たちや逃げ惑う人々には目もくれず歩みを進める憎き怪獣。俺は手をかざし、頭の中で怪獣を巨大な縄で捕えるイメージを浮かべて念じる。ほどなく怪獣の動きと止まった、振りほどこうともがくやつをさらに力を入れて締め上げる。

 わざわざ瞬間移動を使うのも我慢して歩き、千里眼によるゲームの在庫チェックも予知による交通チェックも我慢した。普通の人たちに悪いと思って超能力を使わずに買いに来ようと思った結果がこれだ。


「ヒーローなんて待ってられるか畜生、超能力者を怒らせたらどうなるか……あの世で悔いろ害獣め」


 怒りを込めてかざした手を強く握ると、怪獣の巨大な体のあちこちから軋むような音が聞こえる。怪獣の断末魔の奇声を無視し、さらに強く念じる――



『速報です。沸宇野(ふつうの)市に現れた怪獣が、ヒーローの到着を待たずして爆散するという不可解な現象が発生しました。駆けつけたヒーロー、Mr.タフネス氏にお話を……』

「あった……ついにあったぞ! 『チョークエ2!』」

 探し続けて三時間、ようやく念願のソフトを見つけた。自分でもかなり頑張ったと思う。千里眼を使えば一度に複数の店舗を見ることができるが我慢して、瞬間移動を使えば一瞬で数十個の店舗を回ることができるにも関わらず我慢した。


 ここまでの苦労はすべてはこの手の中にある一本のゲームソフトのために費やしたのだ、そう考えるとプレイするまでのワクワクも一入だな。抱きしめるようにソフトの入った袋をもち、小さくスキップしながら帰路に就く。遠足は帰るまでが遠足、行きとは足取りの軽さが明らかに違う。

 軽やかなステップで駅前の道を通ろうとすると、突如地面が爆発した。地面に大きな穴が開き、中から出てきたのは全身タイツのマスクマンたちとそれらのボスっぽい軍服風のマスクマン。


「ぎゃーはっはっは! 聞け人間共、我ら『ブライトイーター』が世界征服の第一歩として、ここを拠点とすることに決めた! この場にいるお前らにはこの『シャドウマスク』をつけて手下になれぃ!」

 そういってボスが掲げたのは真っ黒なプロレスマスク、捕まって無理やりつけられた人間が次々と全身タイツと化していく。なんかまた変な奴が出てきたな、怪獣の次は悪の組織か。また俺がしれっと締め上げるしかないのか? 

 そう思いボスに向けて手をかざそうとすると――


「待て! これ以上お前たちの好きにはさせないぞ!」


 颯爽と現れたのは、巷で話題の『背景戦隊モブレンジャー』。変身した姿が他の戦隊ヒーローに比べて地味で戦い方も地味なのが特徴の、ある意味斬新なレンジャーだ。

 よし、ここは戦隊に任せて道が開くのを待とう、ここは一本道だから別の道に行くには来た道を戻らないといけないからな……



「喰らえ! ジミナキック!」

「くっ、モーションは地味だが結構痛い! おのれモブレンジャーめ!」

 あれから三十分。いまだに戦いが大きく動くことのないまま、見栄えのしないパンチキックの応酬が続いている。そうだ、たしかこのヒーローたちは泥臭い戦い方が好感が持てると話題のヒーローなんだった。はぁ、馬鹿馬鹿しい、普通に来た道戻るか。


 そして歩くこと二十分、ついに俺は超能力を一切使わずに話題のゲームソフトを買うという任務を達成した。怪獣に使った念力はノーカウントで。

 しかしここまで長かった。日曜日の午前中が丸々潰して一本のゲームを求めて町中を歩き回り、汗と涙の結晶が今僕の手元にあるというのがたまらなく嬉しい。

 しかもゲーマーたちの中でも神ゲーと名高い『チョークエ』の続編だ!

 俺は体中のワクワクを一本のソフトに込め、ゲーム機本体にセットする。いざ、神ゲーの世界へ! 


 ――ふぅ、なるほど、とりあえず一通りゲームをプレイし終わった俺から言えることは一つ。悪の組織も怪獣もいない世界であろうとなかろうと、人間の感性は大して変わらないということだ。


「……前回のほうが断然よかった、なんだこのクソゲー」


 俺は力なくゲーム機をベッドに投げつけた。


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