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魔王様の隠匿生活  作者: セリカ
18/24

18 人族のランク

  

 やっぱりこうなったか。

 僕は使い魔の小鳥の目を通して、セラスさん達の行動を常に把握していたんだ。

 最初に中にいる者達を眠らせたのは良かったんだけど、最後の1人の対処を間違えましたね。

 あいつは、そこそこ腕の良い女性の剣士を痛め付けていた奴だ。

 実力でも上回っているのにわざわざ少しづつ勝てるチャンスがあると思わせながら、大きな怪我を負わせずに相手を疲弊させてから、彼氏を人質に取って最後には降伏させた奴だね。

 その場で彼氏の前で散々慰め者にしてから、死なない程度に痛め付けられた彼氏も連れていき、あの建物の2階で続きをしていたんだ。

 だけど下で騒いでいた奴らが静かになったので、用心をして降りてくるのだから、剣の腕だけのただの馬鹿ではない。

 あの場合は、エリシャさんの案を取らずに静かになったところで、セラスさんが扉ごと魔法で吹き飛ばすのが正解だね。

 最初に戦った野党の実力を他の者達と同じに考えてしまったのかもしれないので、僕がもっと注意をすべきだったんだけど相手の情報を全て教えてしまっては2人の為にならないかと思ったのは失敗でしたね。

 1人だけ用心をした方が良いと警告はしたんだけど、それ以外はエリシャさんの実力でも勝てるみたいなことを言ったのはまずかったかもしれません。

 今はそれを悔やむよりも、どうするかです。

 殺すだけなら簡単なのですが、それでは僕の気分が晴れません。

 まずは僕の大事なエリシャさんのお腹に剣を刺すなんてしてくれた、あの男にはエリシャさんの痛みを分らせる為に死ぬまで突き刺してあげないといけません。

 もう少しで着きますが、いきなりセラスさんが杖を捨てて服を脱ごうとしています!?

 どうしてそんなことをしているのですか!

 僕以外の男性に素肌を見せるなんて許しません!

 使い魔の小鳥が窓の外から中の様子を近くの木の上から見ているだけなので、会話まではわかりません。

 見た所では、エリシャさんが人質に取られているので、セラスさんが相手の要求を聞いて脱いでいるのだと予測します。

 しかも、セラスさんが上着を脱いだら、嫌らしい目で見ているとは……こいつは苦しめて殺します!


「ちょっと旦那!? どうかしたんですか? 旦那から恐ろしい気配というかやばい雰囲気がするんです。それに目がすごく怖いんですが……」


 先ほど下僕にしたゲイルが、なぜか僕を恐れています。

 こんな可愛らしい少年が怖いとは、こいつは精神が軟弱です。

 確かにかなりイラッとしましたが、魔王時代の時と違って相手を威圧した訳ではありません。

 ちょっと僕の不機嫌な感情が表に出ただけです。

 声を掛けられたから、ちょっと振り向いたら目が怖いとか失礼な奴です。

 ただ繋がっている腕をもう片方の腕で押さえながら、それでも付いて来ているので仕方がないので説明をしてあげます。


「僕の大事な恋人が危機なのです」


「先程話していた旦那の女ですよね?」


「おい、ゲイル。僕の恋人を女呼ばわりなんてするとは死にたいのですか? 今すぐに訂正をしないと、その口を二度と喋れないようにします。まずは歯を全て抜いてから、舌を引き抜いて……」


「待って下さい! 旦那の大事な恋人の間違いです!」


「最初からそう言えば良いのです」


「済みませんでした……俺には恋人なんて呼べる女性がいなかったので……」


「そういうことですか」


「そうです。旦那みたいに2人も恋人がいるなんて羨ましい限りです。俺もそんな風に呼べる相手が欲しいです」


「羨ましがるのは構いませんが、恋人が欲しければ誠心誠意を籠めて尽くすことです」


「女……じゃなくて、女性に尽くすのですか?」


「当たり前です。君は今までどうやっていたのですか?」


「それは普通に声を掛けたり、カッコいい所を見せて相手が惚れてくれたらこっちのものかと……」


「はぁ……最初はいいとして、その後が駄目なんですよ。少しぐらいなら講習をしてあげてもよいと思いましたが、いまはそれどころではありませんからね」


 走りながら目的の建物に着きました。

 ゲイルと話しているお蔭で少しは僕も落ちつけたようです。

 昔の僕だったら、ついカッとなって恋人以外は周りの奴らも皆殺しにしてしまう所なのですが、いまの僕は目立たないことを前提にしていますので極力そのようなことは控えたいと思っているのです。

 さて、どうやってあいつを始末するべきかな?

 殺すのは簡単なのですが、エリシャさんを傷付けて、セラスさんを辱めたのですから、簡単に殺してしまっては面白くありません。

 ですが、迷っているとセラスさんが居服を全て脱いでしまうので、僕の行動は1つしかありません。

 当然のように正面の扉の方に向かおうとするとゲイルが僕を止めようとします。


「待って下さい! もしかして正面から行くつもりなのですか?」


「当然です。お前達の中で一番戦えそうな奴の所為で、僕の恋人が危機なのですから、恋人らしく正面から助けるに決まっていますよ?」


「一番腕のいい奴というと、ダリムかと思います。奴は野党なんかしていますが、戦時は傭兵の経験もあって、ギルドのランクもCランクなので、腕だけは確かです」


 ギルドのランクとやらの基準が分らないのですが、薬草採集だけを2年ほど地道に続けるだけで上がるランクなのですから、当てになるのですか?

 僕は使い魔の目を通して見ていますので、少しできる程度の雑魚にしか見えません。

 もっと近くにいるセラスさんの目を通して見ることができればいいのですが、小動物と違って強い意志を持つ生命体の感覚を支配することまではできないのです。

 それが出来ていればセラスさんに直接指示もできたのです。

 取り敢えず僕から見ても雑魚にしか見えません。


「あれで腕が立つのだとしたら、人類はたった数年で弱体化したことになります。ギルドのCランクがどれだけすごいのか知りませんが、僕の攻撃が防げたらちょっとだけ考えを改めます」


「いや、Cランクもあればそこそこの冒険者と認められるのですが……俺なんて中々Dランクになれなくて……」


 Dランクになれないということは、セラスさんと同じEランクということになります。

 こいつ薬草採集しかしていないセラスさんの偽物と同レベルです。

 しかも、ただ僕が集めたり栽培したものを町に運んでいただけなので、それと同じ実力ということになります。

 うん。

 2人の盾にもならないことが判明しました。

 人間側のレベルって、勇者達だけが特別みたいです。


「まあいいです。弱っちいゲイルは、ここで呼ぶまで待機をしていなさい」


「えっ!? ちょっと、旦那!」


 そう言って正面の扉を蹴り飛ばすと、こちらを注目してくれます。


「なんだ、このガキは?」


「レン君! 来てくれると信じていました!」


 衣服を脱ぎながら暗い表情のセラスさんが僕を見るなり安堵した表情で声を掛けてきました。

 僕が必ず来てくれると信じて疑わない瞳で見ています。

 やっぱりカッコよく正面から入ったのは正解でしたね。


「あん? お前、このガキの知り合いか?」


「私の未来の旦那様です!」


「……お前は中々いい女だと思ったが、ガキを囲っている男を知らない女か……やはりこの場で俺が教えてやるのが正しかったようだな。まあいい、人質が増えただけだからな」


「囲われているのは私なのですが……」


 野党に少年を囲う趣味の女性と言われてセラスさんは、なぜか落ち込み始めました?

 最初は僕の姿を喜んで、自分の将来の旦那様と言ってくれたのに意味がわかりません。

 昔に付き合っていた恋人たちは、むしろ可愛い僕を自慢してくれたので、そんな落ち込み方をすると地味に傷付きます。

 なので、そんなことを気にさせないように僕の雄姿を見せたいと思います。


「その2人は僕の大事な恋人です。まずはその汚らしい手をエリシャさんから離して下さい。それとセラスさんは、早く服を着直してください。僕以外に素肌を見せるなんて、後でお仕置きをしますからね」


「こ、これはエリシャさんの為に仕方なく……」


「言い訳はいりません。しかもエリシャさんを理由にするなんて、更にお仕置きを追加したいと思います」


「ですが……」


 セラスさんがなにか言いかけましたが、そのまま口を紡ぐと僕に言われた通りに衣服を着直し始めました。

 その行動を見ていた野党が何か言い出しましたね。


「おい、なにをしているんだ? まさか、こんなガキに言われたぐらいで、こっちの娘を見捨てる気か?」


 野党がエリシャさんの首を絞めようとしたので、思わず手の中に作り出した魔鉱石を野党に投げつけてしまいました。

 僕が投げた小粒の魔鉱石は野党の右目に命中しました。

 突然右目が潰れてしまったので、エリシャさんを掴んでいた手が緩み攻撃を受けた目を押さえて蹲ってしまいました。

 勿論、エリシャさんが床に倒れる前に僕が受け止めて、セラスさんの横に移動しています。

 エリシャさんは喋れないようですが、腹部に刺さっているこの小剣に何かあるみたいですね。

 早く怪我を治したいのですが、僕には傷口を塞ぐぐらいしかできません。

 何か毒物が体内にあるのでしたら、まずはそれを取り除かなければいけません。

 見た所それほど多くの出血をしていないのですが、いきなり抜いてしまうと余計に出血が多くなるかもしれませんので、エリシャさんには少しだけ我慢をしてもらいます。

 腹部の血を少し拭って舐めてみると……なるほど、生物を麻痺させる成分が含まれていますね。

 この体は薬物などは効きません。

 色々と成分を調べる為にこの体を作り出す時に実験を重ねましたので、この体自体が薬物の成分を覚えているのです。

 セラスさんも身なりを整えたようなので、刺さっている小剣を抜くと傷口に手で触れて不純な薬物の成分を無効化します。

 同時に傷口だけ塞いで、内部の怪我は隣にいるセラスさんに任せる為にエリシャさんを預けると僕が何をして欲しいのかを理解して、エリシャさんの腹部に治癒の魔法を掛け始めました。

 僕には表面上の再生ぐらいしかできませんからね。


「俺の目が……このクソガキが……なにをしやがったんだ!」


 ようやく痛みよりもこちらに意識を向けましたね。

 これが戦場でしたら、とっくに死んでいるんだけど?

 

「なにって、小石を投げたらお前の目に当たっただけですよ?」


「俺の目を潰しやがって……楽に死ねるとおもうなよ!」


「はぁ? お前は何を言っているのですか? それは僕の台詞です。お前はセラスさんの素肌を見たのですから、もう目なんて生きるのに必要ありません。次はもう片方も潰しますが、その前にエリシャさんのお腹に刃物を突き刺したお礼をしてあげますので死なないで下さいね?」


 僕がそう宣言すると僕の背後にいくつもの小剣の形をした黒い塊が現れます。


「それは魔法か!? しかも、こんなガキが無詠唱だと!? そんなことができるのは女神様の恩恵を受けた存在だけと聞いているが、お前は、何者なんだ!?」


「はぁ? これは魔法ではありませんよ? お前達が大好きな魔鉱石をエリシャさんに刺さっていた小剣と同じ形で作り出しただけです。あと、クソ女神の恩恵とか寒気がします」


「魔鉱石を作り出すだと!? 魔鉱石とはマナの濃い山の鉱山などで採掘されるマナが濃縮された鉱石の筈だぞ!?」


 人族に神や女神の悪口を言うと非難される筈なのですが、こいつは僕が女神の悪口を言っているのに関心がないのか無神論者なのかもね。

 魔鉱石のことを詳しく知らないみたいなので、ちょっとだけ教えてあげますか。


「マナとか知りませんが、僕は魔力を具現化して攻撃するのが得意なのです」


「魔力だと……お前まさか……」


 うんうん、ちょっとだけ気付いたみたいだけど、これから死ぬからどうでもいいんだけどね。


「お前と話す時間が勿体ないので、頑張って生き延びて下さい。この程度で死なれたら、僕は面白くありません」


 背後に作り出した魔鉱石に指示を出すと一斉に野党の男に向かっていきます。

 何本か刺さりながら何とか手にしていた大剣で防ぐなり叩き落としていましたが、おまけで左右と背後からも追加で攻撃をしてやったので、すぐに全身が魔鉱石の剣だらけになってしまいました。

 手加減をしたので、人体の大事な所には刺さっていないので、なんとか生きています。

 速度も片目を潰した時よりも遅いので、もう少し防げると思ったのですが、所詮はこの程度ですか。


「あ……が……お前は……いったい……なにもの……だ……」


 あれ?

 僕が魔族と関係があると気付けたと、思ったのにどうもそこまで頭が回らなかったみたいです。

 何者とと言われたら、僕が答える言葉はこれしかありません。


「僕ですか? 普通の可愛らしい少年ですよ? それよりも生きているみたいなので、ご褒美に痺れて死んでください」


 野党の男に指を向けると指先から、放出された魔法で跳ね上がったと思ったら、その場に倒れてしまいました。

 あれ?

 生命反応を感じませんね。

 威力を落としたのに、まさかの即死です。

 僕が使った魔法は雷撃の魔法なのですが、威力を落として、ちょっと痺れさせてから、そのまま感電死させるつもりだったのですが……失敗のようです。

 ちょっと踊ったら、威力を上げればいいと思っていたのですが、こいつ脆いな。

 ゲイルの奴がCランクはすごいみたいなことを言うから、この程度なら耐えれると思ったのです。

 この程度で、そこそこの存在なのでしたら、セラスさんの偽物でCランクまで上げておけば良かったかな?

 最低ランクだったから、たかが2年であんまりランクを上げると悪目立ちすると思って控えていたんだけど、貢献値とかが高い討伐依頼もすれば良かったな。

 何はともあれ、これで野党は片付きましたので、後の処理だけです。


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